第53話 村の現状

「はんっ、要するに利用価値が大きくないから見捨てたって事だろう?」

「そういうな、相手がゴブリンと言えど、兵士を派遣するとなれば被害は免れん。それに住民が残っていない以上は復興も出来ない状況では仕方あるまい」

「仕方ない、と片づけられるのは僕達が部外者だからではないですか?それはあくまでも国の都合、家族を殺されたレナ君の気持ちを考えれば国の勝手な都合に振り回される彼があまりにも不憫過ぎる……」



キデルの言葉にバルとキニクは納得は出来ず、実際に村を放棄したヒトノ国は大きな損害が生まれないと判断した上での行動だろうが、当事者であるレナにとっては冗談ではない。


家族や親しい住民達を殺したゴブリンを放置するだけではなく、村その物を放棄されたのだ。3年前に味わったレナの苦しみはこの場の誰も想像さえ出来ない。



「うむ、確かに今のは儂の失言だった。忘れてくれ……では本題に入るが、どうして今更この村の事を話したのかと言うと、実は最近にヒトノ国はこの村を調査を行ったらしい」

「ん、何でそんな事を?自分達の方から放棄しておいて今更……」

「理由は分からんが、ヒトノ国はあの村に暮らしていた人物の誰かの調査を行っていたらしい。数年前に村が放棄された事は当然だがヒトノ国も知っているはずだが、当時ではその人物が村に住んでいた事を知らなかったらしい」

「誰を探してたんだい?」

「そこまでは教えてはくれなかった。だが、ヒトノ国が派遣した「暗殺者」の称号を持つ兵士によると驚くべき情報を持ち帰ってきた」



暗殺者の称号を持つ人間は隠密系統の能力を持ち、戦闘は苦手とするが潜入など仕事には適した技能を持つ。ヒトノ国が暗殺者の兵士を送り込んだ所、現在のレナが暮らしていた村では予想だにしない状況に陥っていたという。



「調査の結果、あの村は――」






――この1時間後、会議を解散した全員が鎮痛な表情を浮かべ、バルとキニクさえもキデルから聞かされた話を聞いて黙り込む。


二人はレナがあの村を取り返したいと願っている事を知っているだけに、キデルから知らされた村の「現状」を聞いて頭を抱える。



「まさか、こんな事になるとはね」

「ああっ……当然だけど、この事実はレナ君には隠さないといけない」

「当たり前さっ!!こんな話、出来るわけないだろうがっ!?」



人気のない場所まで移動するとやっと口を開いた二人だが、表情は以前と暗いままでギルドマスターから伝えられた話を思い返す。もしもこの事実を知った場合、レナはどんな反応をするのか考えるだけでも恐ろしい。



「不味いね……あたしは今のレナならゴブリン程度の相手なんて問題ないと思っていたよ。けど、事情が変わった。あいつは何としてもあの村に近づけさせないようにしないとならない」

「それは……無理だよ。レナ君はあの村を取り戻すために3年も我慢して冒険者の道を選んだんだ。仮にこの話を伝えた所で彼の決意は変わらない」

「なら、どうしろってんだい!?あの話を聞いただろ、仮に例の村にあいつを向かわせれば確実に死ぬ!!あたし達に出来る事があるとすればレナの奴を引き留める事だけさ!!」

「……ああ、分かっている」



バルとキニクは頭を悩め、二人はいずれレナならばゴブリンに支配された村を取り戻せると考えていた。


しかし、状況が変わった今では何としてもレナをあの村に近づけさせないようにするしかなかった。だが、二人ともレナの気持ちを理解している分、それがどれほど難しい事なのかは理解している。



「一先ず、しばらくの間は君の方でレナ君の面倒を見てくれ。もしも村に関する話をされても上手く誤魔化して時間を引き延ばすしかないよ」

「たく、全部あたしに押し付けるつもりかい?」

「僕も出来る限りは強力するさ……心苦しいが、彼を守るためだ」

「ああ、そうだね……くそ、どうしてよりにもよってあいつの住んでいた村なんだい!!」



苛立ちを隠せずにバルは壁に拳を叩きつけ、板が壊れる程に強く撃ち込む。その様子を見て普段のキニクならば彼女の行動を戒めたのだろうが、今のキニクはバルの様に壁を殴りつけたい気分だった。



「あの村の状況だけはレナ君に知られるわけにはいかない……時が経過したらもしかしたら状況が好転するかもしれない。とにかく、今はレナ君をこの街から離れさせないようにしないと」

「分かってるよ……たく、どうしてこんな事になったんだい」



二人は落ち込んだ様子でその場を立ち去り、ギルドマスターから言われた最後の言葉を思い出す。




『あの村は既にヒトノ国の物ではない……ゴブリンの「王」が支配する国なのだ』




キデルの言葉を思い出した二人は顔色を青くさせ、無意識に身体を震わせながら冒険者ギルドを後にした――

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