第52話 冒険者ギルドでの会議
――赤毛熊がレナによって討伐された数日後、冒険者ギルドの会議室にてギルドマスターはギルド職員と数名の冒険者を加えて会議を行う。議題は「赤毛熊」を使役していた「ホブゴブリン」に関してだった。
「赤蛇の冒険者の方から死骸の確認をしたところ、やはりガオン鉱山で遭遇した赤毛熊と、今回街を襲撃した赤毛熊が同一個体である事は間違いありません」
「ふむ……と言う事は兵士達とあの少年の報告が事実だとした場合、その赤毛熊は同行していたホブゴブリンの命令を受けて動いていたという事か」
「はい。こちらの方は一般人の方にも聞き込みを行いましたが、確かにホブゴブリンが赤毛熊を指揮していたように見えたとの報告が上がっています」
受付嬢のイリナの言葉にキデルは難しい表情を浮かべ、金級冒険者であるバルと彼女と行動を共にしていた元冒険者のキニクも口を挟む。
「信じられないね、あの狂暴な赤毛熊がゴブリン如きに従うなんて……そんな話聞いた事もないよ」
「ホブゴブリンは通常のゴブリンと比べれば知能も高く、力も強い。しかし、せいぜいがコボルトやオーク程度の戦闘力しか持たない。となると赤毛熊を力尽くで従わせたとは考えにくいですね」
「しかし、実際に赤毛熊はホブゴブリンの命令には逆らえず、ホブゴブリンを守るために動いていたのは事実です。ギルドマスターはどうお考えですか?」
「…………」
イリナの質問にギルドマスターは難しい表情を浮かべ、完全に別種の魔物同士が力を合わせる事は滅多に存在しない。
本来ならばホブゴブリンと赤毛熊の間には大きな力の差が存在し、狂暴で獰猛なはずの赤毛熊が自分よりも弱い存在のホブゴブリンに素直に従っていた事が有り得ない話だった。
自然界では別々の生物同士が共生関係を築く場合はあるが、今回のような赤毛熊とホブゴブリンが力を合わせて行動するなど聞いた事もない。だからこそギルドマスターは他の人間の意見を聞くために今回全員を呼び寄せた。
「現状では何も言えんな。だが、実はこの件と関係があるのかは分からないが、最近になってゴブリンに関する新たな情報が届いている」
「情報だって?」
「皆も知っての通り、ゴブリンは基本的には山間部に生息する生物だ。だが、数年程前から山間部以外の場所にもゴブリンの目撃情報が多発している。最近に至っては草原地方にもゴブリンの姿が目撃されていると聞く」
「ああ、それは知ってるよ。ゴブリンどもが急によく見かけるようになったね」
ゴブリンは基本的には魔物の中では最弱の部類に入り、滅多に人前には姿を現さない生物のはずだった。だが、イチノ街の周辺地域では何故かゴブリンの数が急速的に増加の傾向にあり、最近に至っては草原にまでゴブリンが進出するようになった。草原にはゴブリンよりも凶悪なコボルトが多数生息しており、両者は激しい縄張り争いを行っている。
単純な戦闘力はコボルトの方がゴブリンよりも勝るため、コボルトは自分達の縄張りを侵すゴブリンを発見したら真っ先に仕留めていた。なのでゴブリンは山間部から抜け出す事はなかったのだが、最近になってゴブリンの数が急速に増殖したのか、草原の至る地域で見かけるようになっていた。
「数年程前からゴブリンだけが増殖して数を増やし続けている傾向がある。何度か調査してみたが、ゴブリンが急激に数を増やし続けている理由は未だに判明していない。だが、数日程前にある情報が届いた」
「情報?」
「数年前、ゴブリンの襲撃によって山間部に存在する村の1つが占拠された。住民は1人だけ生き残り、その子供は現在は冒険者として活動している……ここまで言えば分かるか?」
「それは……レナ君の事ですか?」
「おいおい、なんでうちの坊主の名前が出てくるんだい!?」
ギルドマスターの言葉にキニクとバルが反応し、二人はレナの素性を知っていた。どうしてキデルが急にそんな話を始めたのかと皆が戸惑うと、キデルは話を続ける。
「その少年の村はヒトノ国の辺境の土地に存在し、しかも毎年収めるはずの税金を支払っていなかった事からヒトノ国はゴブリンに占拠された村を放棄した。元々、村の周辺地域は滅多に人が立ち寄らない地域らしく、ゴブリンが村を抜け出して他の村や街を襲う可能性は非常に低かった。そう判断したヒトノ国は軍隊を派遣せず、ゴブリンが占拠した村を放置したそうだ。生きのこった少年に対しては彼を保護した人間を通して補助金を支払ったと聞いている」
「そんな……」
「なんてことを……」
住民が1人を除いて殺され、しかも地理の問題で軍隊を派遣する事も難しいと判断したヒトノ国は村を放棄するという判断を下した事に会議室の人間達はたった一人だけ生きのこった少年の気持ちを考えるだけで同情する。
自分以外の村人を殺されたにも関わらず、国は村を放棄し、村人たちを殺したゴブリン達を放置したのだ。レナから事情を教わっているキニクとバルでさえも表情を険しくさせる。
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