第49話 魔弾
「うおおおおおっ!!」
「グギィッ……」
「ウガァッ!!」
槍を片手に抱えた隊長が突進すると、ホブゴブリンは煩わしそうな表情を浮かべて赤毛熊の頭を叩く。赤毛熊は迫りくる隊長に振り返ると、突き出された槍が赤毛熊の顔面に的中した。
「くたばれ、化物が……!?」
「や、やった!!」
「いや、待て……嘘だろ?」
隊長の握り締めた槍が赤毛熊の顔面を貫いたかに見えたが、赤毛熊は口を開くと槍の刃先を牙で食い止め、そのまま噛み砕く。鉄の槍は無残にも刃先を失ってしまい、残された柄の部分を見て隊長は呆然とする。
隊長が持ち出した槍は小髭族の鍛冶師が作り出した代物であり、無銘だが彼が隊長を任される前から所持していた代物である。毎日手入れは欠かさず、この槍だけで街を守り続けてきたという自負があった。
だが、そんな自慢の槍もあっさりとかみ砕いた赤毛熊に対して隊長は理解が追いつかずに思考が停止してしまうそんな彼に対して無慈悲にホブゴブリンは赤毛熊に攻撃を命じる。
「ギィッ!!」
「ガアアッ!!」
「まっ……」
「た、隊長ぉおおおっ!!」
赤毛熊が腕を振り払った瞬間、隊長の頭部が引きちぎられて空中に飛び、残された胴体がゆっくりと崩れ落ちる。その光景を見た兵士達は絶望の表情を浮かべ、ホブゴブリンは邪魔者を消した事で笑い声をあげた。
「ギッギッギッ……!!」
「もう駄目だ……お終いだ」
「逃げるしか、ないのか……」
信頼していた隊長さえも遂に殺されてしまった事で兵士達は完全に戦意を失い、兵その場で項垂れてしまう。それを見たホブゴブリンは赤毛熊の肩を叩き、残った兵士達の始末をさせようとした。
赤毛熊はホブゴブリンの指示に従い、地面にうずくまっている兵士の一人に赤毛熊が近づき、右腕を振り翳す。
地面に伏せていた兵士は逃げる事も出来ずに頭を抱えたまま動く事が出来ず、赤毛熊は振り翳した右腕を振り下ろそうとした時、背後から接近する足音を耳にする。まだ自分達に歯向かう存在がいるのかと赤毛熊の背中に張り付いていたホブゴブリンは背後を振り返ると、そこには異様な光景が広がっていた。
「うおおおおっ!!」
「えっ!?」
「な、何だ!?」
少年と思われる声が響き、兵士達が驚愕の表情を浮かべた。声の方向にホブゴブリンと赤毛熊が視線を向けると、そこには何処からか持ち出してきたのか「荷車」を両手で抱えて走る少年が存在した。
「ギギィッ!?」
「ガウッ!?」
「喰らえぇえええっ!!」
荷車を抱えた少年、レナは付与魔法の力を利用して持ち上げた荷車を振り翳すと、赤毛熊とホブゴブリンに目掛けて叩きつける。
荷車が衝突した際にホブゴブリンは赤毛熊の背中から落ちてしまい、赤毛熊の方も地面へ叩きつけられる。それを見た襲われそうになった兵士は慌てて逃げ出す。
「ひいいっ!?」
「ふうっ……危なかった」
兵士が逃げ出したのを確認するとレナは荷車の破片を放り投げ、目の前に立つ赤毛熊とホブゴブリンの姿を確認して目つきを鋭くさせた。特にホブゴブリンの方は憎々し気な表情を浮かべ、過去に村を襲ったゴブリン達の姿を思い出す。
一方で赤毛熊とホブゴブリンの方も荷車を叩きつけたレナに対して警戒心を抱き、ホブゴブリンは鉈を構える。相手が得体の知れない少年とはいえ、攻撃を仕掛けられた時点で両者は激しく憤り、レナを仕留めようとした。
「グギィッ!!」
「ガアアッ!!」
「うわっ!?」
ホブゴブリンが赤毛熊に命令を与えるように鳴き声を上げると、赤毛熊は右腕の爪を振り下ろす。寸前で回避に成功したレナだが、赤毛熊は止まらずに今度は反対の腕を振り払う。
「ガウッ!!」
「くっ……このっ!!」
頭を伏せて腕を回避したレナは地面に掌を押し付けて付与魔法を発動させようとしたが、ホブゴブリンが魔法を発動させる前にレナに向けて鉈を振り下ろす。
「グギィッ!!」
「わあっ!?」
「あ、危ない!!」
「逃げるんだそこの君!!」
慌てて身体を回転させてホブゴブリンの鉈を回避したレナの姿に周囲の兵士達は悲鳴をあげ、逃げるように促すがレナは退く気はなかった。ここで自分が逃げたとしても街中に赤毛熊が現れた以上は住民に被害が及ぶ危険性があり、そうなれば自分の村に起きた悲劇が繰り返されてしまう。
レナは体勢を整えるために何か攻撃手段が存在しないのかと確かめると、不意に転がった時に自分のズボンのポケットに違和感を覚えたレナは手を伸ばすと、ある物に気付く。
(一か八かっ!!)
ポケットに入っていた物をレナは握り締めると、鉈で次の攻撃を仕掛けようとするホブゴブリンに対して振り翳し、寸前で付与魔法を発動させる。
「
「ギィアアアアアッ!?」
「ガアッ!?」
レナはポケットから取り出した3つの「ビー玉」に付与魔法を施し、重力操作によって勢いと威力を増したビー玉がホブゴブリンの顔面に衝突した。その内の1つはホブゴブリンの眼球にめり込み、ホブゴブリンの悲鳴が街中に響き渡る。
命令を与えていたホブゴブリンが悲鳴をあげて地面に倒れ込む姿に赤毛熊は戸惑い、それを見たレナは絶好の機会だと判断して闘拳を装着した右拳を振り翳すと、赤毛熊に目掛けて「重撃」を繰り出す。
「だああっ!!」
「アガァッ!?」
赤毛熊の腹部に強烈な衝撃が走り、重力操作によって通常時の数倍、あるいは十数倍の重量に増加された闘拳の一撃が走る。
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