第48話 城門の悲劇
「ガアアッ!!」
「グギィッ!!」
「な、何だこいつ等……ぎゃああっ!?」
「くそっ、どうしてこんな事に……うわぁっ!?」
赤毛熊達は街中に入り込むと、真っ先に城門周辺に待機していた兵士から襲う。武装していない街の住民を無視し、敢えて武装している兵士に襲いかかる行為に警備兵の隊長は疑問を抱くが、今は部下を救うために彼は動く。
「怖気づくな!!まずは弓で狙い撃て!!」
「は、はい!!」
「喰らえっ、化物め!!」
防壁に待機していた弓兵が赤毛熊に向けて弓を構えるが、それを見たゴブリンは赤毛熊に合図を送るように肩を叩く。すると赤毛熊は視線を防壁の上に向け、傍に居た兵士を投げ飛ばす。
「ガアアッ!!」
「うわぁああっ!?」
「なっ!?」
「ぐああっ!?」
弓兵が矢を射抜く前に赤毛熊は地上の兵士を投げつけて攻撃を阻止すると、背中のゴブリンは笑みを浮かべ、鉈を振り回して地上の兵士の首を斬る。それを目撃した警備兵の隊長は歯を食いしばり、部下を次々と八つ裂きにする赤毛熊とゴブリンに怒りを抱いて槍を構える。
次々と仲間が殺されていく姿に怖気ついていた兵士たちの中にも仲間の仇を討ちたいと思う者も現れ、赤毛熊の恐怖よりも殺された兵士たちのためにも戦おうと決意した者たちだけが残り、赤毛熊と向かい合う。
「この畜生がっ!!」
「隊長に続け!!」
「うおおおおっ!!」
隊長の男が果敢に赤毛熊に挑む姿に他の兵士達も戦意を取り戻し、槍を持つ兵士達が一斉に駆けつける。それを見たゴブリンは赤毛熊の頭を叩くと、兵士達の先頭を走る隊長に視線を向ける。
兵士たちの指揮を高めているのがこの男だと判断すると、ゴブリンは真っ先に赤毛熊に隊長を狙うように指示を出す。
「ギギィッ!!」
「ウガァッ……ガアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「ぐあっ!?」
「お前達……ぬおっ!?」
赤毛熊は腕を振り払うと周辺の兵士達は吹き飛ばされ、接近してきた隊長の元へ兵士を飛ばす。咄嗟に隊長は兵士を助けるために受け止めようとしたが、その隙を逃さずに赤毛熊は体当りを仕掛けた。
「ガアッ!!」
「ぐはぁっ!?」
「た、隊長!?」
隊長が赤毛熊に衝突して吹き飛ばされる姿に槍兵は立ち止まってしまい、折角取り戻した兵士たちの戦意が失われていく。
信頼していた隊長さえも呆気なく吹き飛ばされる光景に兵士達は恐怖心を抱き、その様子を見たゴブリンは笑い声をあげる。
「ギッギッギッ……!!」
「こ、こいつ……!!」
「思い出したぞ!!こいつはゴブリンじゃない、ホブゴブリンだ!!」
兵士の一人がゴブリンの正体を見抜き、他の兵士達に動揺が走る。ホブゴブリンとはゴブリンの上位種に当たり、通常のゴブリンよりも体躯が大きく、人語を完全に理解出来る程に知能も高い。しかも街に侵入したホブゴブリンは赤毛熊をまるで手足のように操っていた。
赤毛熊を操るゴブリンの正体を見抜いたからといって状況が変わるわけではなく、むしろ赤毛熊だけでも厄介なのにゴブリンの上位種が行動を共にしてると理解した兵士達は混乱の極みに達し、遂に心が折れた人間達から逃げていく。
「も、もう駄目だ……うわああああっ!!」
「に、逃げろぉっ!!」
「くそっ!!」
一人が逃げ出すと、他の兵士達もそれに乗じて逃走を始め、遂には半数の兵士が逃げ出してしまう。残った兵士達は最後まで戦い抜く危害を持つ勇士と、あまりの恐怖に身体が動かす事も出来ない臆病者だけだった。
前者の兵士は赤毛熊に挑んで返り討ちにされ、後者の兵士は戦う事すら出来ずに赤毛熊の行動を黙ってみている事しか出来なかった。そんな兵士達の様子を見ていたホブゴブリンは高笑いを浮かべ、湯階層に赤毛熊の背中を叩き、見下した態度を取る。
「ギギギギッ……!!」
「こ、この野郎……調子に乗りやがって!!」
「ウガァッ!!」
「ひいっ!?」
ホブゴブリンの態度に怖くて動けなかった兵士たちが怒りを抱き、せめてホブゴブリンだけでも仕留めようと立ち向かおうとしたが、それに対して赤毛熊が鳴き声を放つと兵士は情けない声を上げて引いてしまう。
兵士達の情けない姿を見せられたホブゴブリンは赤毛熊の背中の上で嘲笑するが、防壁に存在した勇気ある兵士の一人が弓矢を構え、ホブゴブリンの頭部に目掛けて矢を放つ。
「く、喰らえっ!!皆の仇だ!!」
だが、弓兵は黙って射抜けばいい物を仲間を殺された怒りに耐え切れずに声を発してしまい、ホブゴブリンは弓矢を射抜かれる寸前で防壁の様子に気付くと、放たれた矢を鉈で振り払う。
「ギィッ!!」
「あっ……」
「ば、馬鹿者!!何故声を上げた!!」
矢を簡単に弾かれた弓兵は唖然とした表情を浮かべ、一方で攻撃を仕掛けられたホブゴブリンは先ほどの笑顔から一変して憎々し気な表情を浮かべると、ホブゴブリンは鉈を振り翳す。
ホブゴブリンの行動見た警備兵の隊長の男は右腕を抑えながらも起き上がり、いったいホブゴブリンが何をするつもりなのかと考えた時、赤毛熊が動き出す。その様子を見て隊長の男は一瞬早く赤毛熊の行動の意図を悟り、城壁の兵士に声をかけた。
「グギィッ!!」
「えっ……!?」
「逃げろぉおおおっ!!」
ホブゴブリンが鉈を投擲し、下から迫りくる刃に対して弓兵は動く事が出来ず、そのまま刃が首を切断した。それを見た隊長は瞼を閉じて視線を逸らし、再び落下してきた鉈をホブゴブリンは拾い上げて刃にこびり付いた血液を嘗めあげる。
「ギッギッギッ……!!」
「こ、この悪魔がぁっ!!」
「隊長、駄目です!!その怪我では!!」
激怒した隊長は腕を負傷しながらも槍を掴み、赤毛熊に向かおうとしたが他の兵士達に引き留められる。先ほどの突進とは異なり、今の隊長の行動は勇気と無謀を履き違えていた。
それでも大切な兵士達を次々と斬殺された彼の怒りは収まらず、決死の覚悟で兵士達を振り払って隊長は赤毛熊の元へ向かう。
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