第47話 馬車の中身は……

「おい、あの男……なんか変じゃないか?怪しいを通り越しておかしいぞあいつ……」

「馬鹿、聞こえるぞ……それにしても何だこれは?」



二人の兵士が馬車の後ろ側から乗り込み、布で覆い隠された物体を見て疑問を抱く。更に馬車の中には僅かに血の臭いと獣臭が感じ取り、嫌な予感を覚えながらも兵士達は確認のために御者に話しかける。



「あの、中身を確認しますよ!!問題ないですか?」

「……おい、ちょっと待てよ。足元を見ろよ」



年配の兵士が御者に許可を取ってから布の中身を確認しようとしたとき、若手の兵士が馬車の床を見て顔色を青ざめた。


若手の兵士の反応に疑問を抱いた年配の兵士が近づき、いったい何を見たのかと覗き込むと、そこには布の底の方から血が滲んでいる事に気付く。



「こ、これは!?」

「やべえよ、何だよこれ……」

「……中身を確認するぞ!!」



御者の返事を待たずに年配の兵士は意を決して布を掴み、中身を晒す。その直後、布の中から現れたのは血の様に赤黒い毛皮に覆い込まれた巨大な物体が姿を現す。それを確認した二人の兵士は驚愕の表情を浮かべ、次の瞬間には分厚い毛皮の腕に二人とも頭を掴まれて握りつぶされる。


馬車の中に人間の頭が潰れる音が鳴り響き、外で馬車を見張っていた兵士達は疑問を抱き、中に入った兵士達を確かめようとした。すると、馬車の中から体長が2メートルを超える巨大な「赤毛」の熊が姿を現し、咆哮を放つ。




――アガァアアアアッ!!




南門にて凄まじい獣の咆哮が放たれ、何事かと防壁に待機していた兵士達は視線を向けると、そこには城門の前に立つ「赤毛熊」の存在を確認して全員が混乱を引き起こす。



「あ、赤毛熊だぁっ!!」

「馬鹿な、どうしてここに……!?」

「は、早く城門を閉めろ!!」



防壁の上に立っていた兵士達は慌てて城門を閉じるために動き出す中、馬車を取り囲んでいた兵士の集団は唐突に現れた赤毛熊に圧倒され、一体何が起きているのか理解出来ずに対応が遅れてしまう。その光景を確認した赤毛熊はゆっくりと両腕を広げると、まずは正面に立つ兵士に襲いかかった。


赤毛熊は真っ先に正面に対峙していた兵士二人が赤毛熊の両爪を受け、鉄製の鎧を貫通させて内臓を抉り取る。そのあまりの圧倒的な力に城門の前に立っていた兵士達は悲鳴をあげ、街中の方へ避難する。



「ぎゃあああっ!?」

「ふ、二人がやられたぞ!?」

「に、逃げろ!!早く城門を閉じるんだ!!」

「殺される!!逃げろっ!!」

「冒険者は!?冒険者の奴等はどうしたんだ!?」

「馬鹿、落ち着けお前等……うわっ!?」



隊長格の兵士が混乱を引き起こした者達を落ち着かせようとしたが、一瞬で二人の兵士を殺害した赤毛熊は逃げ惑う兵士達に視線を向け、唸り声をあげながら追跡を仕掛けようとした。


だが、街の中へ入り込もうとした赤毛熊の背後から奇怪な鳴き声が鳴り響くと、その声を聞いた赤毛熊は硬直し、ゆっくりと首を振り向く。


声の方向には馬車を操っていた御者が存在し、彼が顔面の包帯を剥ぎ取ると、そこには人間の皮膚ではなく、まるでゴブリンのような緑色の皮膚が露わになる。



「グギィイイイッ!!」

「ガアッ……!!」

「ご、ゴブリンだと!?」

「なんでこんな場所にゴブリンが……いや、待て!!あいつ、普通のゴブリンよりも大きいぞ!?」



御者の変装をしていたゴブリンの体躯は明らかに通常のゴブリンよりも大きく、まるで人間の成人男性並みの身長は存在した。


筋肉のほうも痩せ細っている普通のゴブリンよりも逞しく、しかも人間のように皮の鎧を見に包み、背中には鉈を装備していた。



「グギィッ!!」

「ガアッ……」



大柄なゴブリンは赤毛熊に命令するように鳴き声を上げると、赤毛熊はそれに従うようにゴブリンの元へ近づき、四つん這いになる。それを見たゴブリンは上機嫌で赤毛熊の背中に乗り込み、鉈を引き抜いて城門を指差す。



「グギィイッ!!」

「ガアアアアッ!!」

「ま、不味い!!城門を閉じろぉおおっ!!」



ゴブリンを乗せた赤毛熊は兵士達に閉じられようとしている城門へ向けて飛びつき、完全に閉じ斬られる前に城門の隙間に腕を伸ばすと、そのまま力尽くで押し返す。


十数人の兵士が扉を閉めようと力を込めていたにも関わらず、赤毛熊は軽々と扉を押し返して開くと、遂に街中に入り込んでしまう。



「ガアアアアアッ!!」

「ぎゃあああっ!?」

「あ、赤毛熊だぁああっ!?」

「に、逃げろぉおおおっ!!」



街の中に存在した人間達は恐怖と混乱に陥り、兵士達でさえも赤毛熊の威圧に怖気づき、戦闘の意思が挫けてしまう。


その圧倒的な存在感を放つ赤毛熊の背中に乗り込んだゴブリンは逃げ惑う人々の姿を見て笑みを浮かべ、鉈を振り回して咆哮を放つ。

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