第39話 経験を積む

――ボアを単独で討伐して以降、レナは他の冒険者から一目置かれる存在に成ったが、やはり今現在の戦闘法では危険が大きすぎた。


格闘家や剣闘士の称号を持たないレナでは肉体面を鍛えたとしても限界は存在し、そもそも年齢的にも発展途上中の肉体なので無理に鍛えすぎると身体を壊してしまう。


そこでレナは自分の戦闘方法をもう一度見直すため、試験官を務めたバルの元でも指導を受けるようになった。格闘家である彼女の指導は剣闘士のキニクよりも実戦的だが、その分に成果はすぐに出た。



『ほらほら、遠慮せずにもっと掛かってきな!!魔法の力を生かしな!!』

『くっ……たあっ!!』



早朝にギルドに訪れたレナはバルと共に稽古を行い、組手方式で何度も手合わせを行う。バルはレナが付与魔法を扱う事は禁止せず、彼の動作を観察して長所と短所を言い当てる。



『あんたはまだ筋力が未熟だけど、小さい頃から山育ちで野山を駆け回ってたんだろ?それに小柄ではあるけどその分に身軽なんだ。それを生かしな!!』

『は、はい!!』



バルの的確な指導を受け続けた結果、冒険者として活動して一か月が経過した頃にはレナの肉体も前よりも筋力が付き、実戦の技術も磨かれてきた。そして遂にレナは初の討伐系の依頼を引き受ける事を決めた――






――レナが最初に選んだ討伐依頼の相手は草原に多数生息する「コボルト」を選ぶ。コボルトは外見は狼人間のような姿形をしており、一角兎やゴブリンと比べると戦闘力も高く、鋭利な牙と爪は恐ろしい殺傷能力も誇る。だが、コボルトの厄介な点は常に集団で行動し、決して単独では動かない。


冒険者がコボルトを狩猟する時は冒険者同士て手を組み、集団で討伐を行う。コボルトは外見に反して非常に憶病な生物で仲間が半分も倒されると怯えて逃走する習性を持つため、殲滅する場合は時間を掛けず一気に倒さなければならない。しかし、相手の数が自分達よりも少ない場合はコボルトは逃走する事はなく、容赦なく襲い掛かる。


レナは初めての魔物の討伐の依頼という事で付き添いとしてバルが志願し、彼女が同行するという条件ならば受付嬢のイリナも依頼を受理してくれた。だが、バルは今回の依頼に関してはレナの手を貸すつもりはなく、彼が一人でコボルトをどのように倒すのかを見届けるために同行した。



「この辺りがコボルトと遭遇しやすい場所だよ。いいかい、あたしが危険だと判断したらあんたを助けてやるけど、あたしがいるからって油断するんじゃないよ。あくまでも今回の依頼はあんたの仕事だからね」

「はい、師匠!!」

「その師匠というのは止めて欲しいんだけどね……まあいい、ほら言っている傍から来やがった!!」

『ウォオオンッ!!』



イチノ街から離れ、草原へ繰り出したレナとバルの元にコボルトの集団が現れ、全身が黒い毛皮に覆われた狼人間がレナ達を取り囲む。


殆どの個体が1メートル50センチ程度であり、ゴブリンよりも体躯は大きい。中にはコボルトの統率する存在だと思われる大柄のコボルトも存在した。



「ひい、ふう、みい……5匹か、この程度だったらあんたでも対応出来るはずだ。修行の成果を見せてやりな!!」

「押忍!!」

「グルルルッ……!!」



バルに促されてレナは前に出ると、まずはコボルトの1体と向かい合う。コボルトはゴブリンよりも気性が荒いため、餌である人間を前にすると真っ先に襲いかかる習性を持ち、レナと対峙したコボルトは彼に向けて飛び掛かる。



「ガアアッ!!」

地属性エンチャント……昇撃!!」

「ギャウンッ!?」

『ウォンッ!?』



頭上から飛びついてきたコボルトに対してレナは左腕を構えると、握り拳を作って付与魔法を発動させ、紅色の魔力を纏わせた拳を上に突きあげてコボルトの顎を破壊した。


殴り飛ばされたコボルトは牙を辺り一面に散らばらせながら地面に倒れ込み、そのまま痙攣して動かなくなった。




――バルとの一か月の訓練でレナは新しい戦法を覚え、これまでは防御に利用していた「反発」を本格的に攻撃へ切り替えた攻撃法を編み出す。名前は「昇撃」と名付け、主に小柄なレナが自分よりも身長や体格に勝る相手に生み出した攻撃法である。


反発の場合は掌底で相手の攻撃を跳ね返すのに対し、昇撃の場合は握り拳で相手を殴りつける。どちらも重力で押し返すという性質に変わりはないが、分かりやすくするために別々の名前を名付けた。




攻撃法ならばレナが闘拳を利用とした「重撃」も存在するが、この重撃は闘拳の重量を増加させて攻撃するため、どうしても上から叩き落とす形でしか扱えない。何故ならばレナの筋力では重量を増加した闘拳を扱いこなせず、当然ながら上向きや横向きに攻撃を行えばレナの腕に負担が掛かってしまう。


そこでレナは重撃を発動させるときは常に相手の頭上から攻撃を繰り出し、下向きに攻撃を繰り出す事で負担を軽減させるしかなかった。


しかし、昇撃の場合は実際の所は攻撃の方向に制限は存在せず、上下左右に自由に攻撃を行える。但し、魔力の使用量によって威力が大きく変化し、更に反発と同様に相応の魔力を消費するので燃費は悪く、多用は出来ないという弱点もある。

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