第38話 ボアとの戦闘
足元を飲み込まれていくボアは必死に抜け出そうともがくが、まるで底なし沼のように足元が飲み込まれ、もがけばもがくほどに沈んでいく。
その様子を確認したレナは絶好の好機だと判断し、先ほどのバルとの戦闘のように闘拳を装着してボアの元へ向かう。
「喰らえっ!!」
「プギィイイッ!!」
ボアの頭上に向けて跳躍し、付与魔法で闘拳の重量を最大限にまで増加させて上から撃ち込むように攻撃を仕掛けようとしたレナだが、掌を地面から離してしまった事でボアが地面に飲み込まむ効果が消え、ボアは地面から抜け出してしまう。
「プギィッ!!」
「うわっ!?」
攻撃を仕掛ける前にボアが頭上のレナに向けて牙を叩きつけ、吹き飛ばされたレナは近くの茂みの中に落ちてしまう。幸いと言うべきか鎖帷子を装着していた事で致命傷は避けたが、予想外の衝撃に身体を痛め、苦痛の表情を浮かべる。
レナは安易に攻撃を仕掛けた自分の判断を後悔し、地中に沈めさせておけばよかったと考えてしまうが、完全に地面から抜け出したボアは怒りの表情を抱いてレナを睨みつけ、突進してきた。
「プギギギギッ!!」
「くっ……!?」
咄嗟に起き上がったレナは右横に飛び込むと、ボアはそのまま通り過ぎて正面に存在した樹木に衝突した瞬間、高さが10メートルを超える樹木が倒れた。その光景を見てレナは背筋が凍り、もしもまともに受けていたらレナの肉体は耐え切れずに死んでいただろう。
ボアは樹木に衝突しても特に異変はなく、それどころか余計に興奮したように鼻息を鳴らし、今度こそ確実にレナを仕留めるために照準を合わせる。それを見たレナはこのままだと不味いと判断し、左手にありったけの魔力を宿して向かい合った。
「プギギギッ!!」
「
正面から突進してきたボアに対してレナは左手を構えると、バルの戦技でさえも跳ね返した「反発」の防御法を発動させ、掌底をボアの鼻筋に叩き込む。
掌底と巨大な鼻が衝突した瞬間に両者の肉体が後方へ吹き飛び、お互いが仰向けの状態で地面に叩きつけられる。
「プギャアッ!?」
「うわぁっ!?」
完全には衝撃を殺しきれなかったが、レナは左腕が痺れただけで致命傷は避けられた。反対にボアの方は鼻頭に強烈な一撃を与えられ、脳震盪を起こしたのか動作が鈍ってしまう。
先に立ち上がったのはレナの方であり、まだボアが大勢を整える前に攻撃を仕掛けるため、レナは今度こそ外さないようにボアに向けて跳躍すると、闘拳を上空から振り下ろした。
「重撃!!」
「プギャアアアッ!?」
がら空きになったボアの頭部に向けて強烈な一撃が放たれ、普段は滅多に衝撃を受けない箇所を攻撃されたボアの悲鳴が森中に響き渡った――
――時刻は夕刻を迎え、冒険者ギルドの方では受付嬢のイリナは何度も玄関の方に視線を向け、戻ってこないレナを心配していた。そんな彼女を見てバルは呆れたように声を掛ける。
「あんたね、さっきからそわそわしすぎだよ。少しは落ち着きな」
「でも……」
「別に今日中に戻ってくるとは言ってないんだろ?今日の所は家で休んで、明日から薬草採取に向かった可能性もあるじゃないかい。試験で疲れただろうし、別に今日中に終わらせないといけない依頼でもないんだろ?」
「それはそうなんですけど……」
バルの言葉にイリナはため息を吐き出し、一向に戻ってこないレナの身を案じる。彼がもしも本当にボアが現れたという森に向かっていたらと考えるだけで不安を抱き、バルに視線を向ける。
「バルさん、やっぱり少し様子を見てきてくれませんか?どうせこんな時間帯までお酒を飲んでいるぐらいなんだから暇なんでしょう?」
「あんた、失礼な奴だね!!まあ、碌な依頼が無くて暇だけどさ……心配し過ぎだって、あの坊主ならきっと帰ってくるさ」
「そうだといいんですけど……ん?」
「何だい?何か外が騒がしいね……」
建物の外の方から悲鳴のような声が聞こえ、何事かと建物内冒険者達は玄関の扉に視線を向けると、扉が外側から押し開かれて予想外の生物の顔が現れた。
「……ぼ、ボアだぁあああっ!?」
「えっ!?嘘っ!?」
「な、なんでこんな街中にボアが!?」
「やべえよ、バルさん助けてくれ!!」
玄関の扉からボアの恐ろしい形相が露わになり、それを見た銅級の冒険者達は悲鳴をあげ、銀級の冒険者達も慌てて戦闘体勢に入る。
バルもイリナも玄関から現れたボアの顔を見て呆気に取られ、一体何が起きているのか理解出来ずに硬直してしまう。
「な、何だいありゃ……!?」
「な、な、な、なんでここにボアが!?」
イリナはバルの身体に抱き着き、バルも慌てて酒瓶を放り出して闘拳を身に着けようとしたとき、ボアの頭の下から少年の声が響く。
「わあっ!!待った待った!!違うんです、これは死体なんで安心して下さい!!」
「え、この声って……」
「まさか……」
玄関から現れたのはボアではなく、ボアの死骸を背負うレナが建物内に入って来た事に気付いた冒険者達は唖然とした表情を浮かべる
ここまでボアの死骸を付与魔法で重量を軽量化させ、どうにかここまで運んで来たレナは一息を吐いて死骸を床に置く。
「ふうっ……ちょっと重かった」
「あ、あんた……まさか」
「ボアを……倒したの!?」
「はい、死ぬかと思いましたけど……頑張りました」
『…………』
レナの言葉に冒険者達は黙り込み、死骸と化したボアの姿を見て彼が嘘を吐いていない事を悟ると、バルは黙ってボアの死骸の方に近付いて様子を見ると確かに死んでいる事を確認した。
「……確かに本物のボアの死骸だね、だけどあんた……よくこいつを仕留められたね」
「いや、本当に運が良かったです。死ぬかと思いましたけど、どうにか倒せました。いててっ……」
「ちょっと、大丈夫かい!?何処か怪我したのか?」
「はい……ちょっと、背中を強く打ちました。えっと、確か魔物の死骸も冒険者ギルドへ持ち込めば買い取ってくれるんですよね?」
「そ、その前に怪我の治療をしないと!!えっと……バルさん、この死骸は解体場へ運んでください!!」
「あたしが!?」
イリナはレナが背中を抑えたのを見ると慌てて彼を医療室へ運ぶために連れて行き、残されたバルはボアの死骸を見てどのように解体場まで運べばいいのか悩む――
――この日、冒険者ギルド初の未成年者冒険者となったレナは初めての依頼でボアと遭遇し、討伐するだけではなく、たった一人でボアの死骸を森の中から冒険者ギルドへ運び込む。ボアを倒したレナを讃え、冒険者達は後に彼に「
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