第33話 初勝利
「はあっ……はっ……!!」
「ぐふっ……こ、この、野郎、やるじゃないかい」
「うわっ!?」
レナの渾身の一撃を喰らったにも関わらず、格闘家の意地なのかバルは自分に跨っていたレナを振り払うと、腹部を抑えながらも起き上がった。まだ戦えるのかとレナは咄嗟に構えるが、彼女は立ち上がろうとして膝を崩ず。
バルは溜息を吐き出しながら痛む腹部に視線を向け、格闘家として生まれてから幾度もの強敵と戦い続けてきた彼女だが、まさか自分よりもずっと年下の子供に肋骨が罅が入る程の一撃を受けるなど初めての経験だった。
しかも相手が格闘家ではなく、魔術師の称号を持つ人間にやられるなど思いもしなかった。バルは自分の腹部を抑え、少し動くだけでも激痛に襲われてしまい、諦めた様に呟く。
「……参った、降参だよ」
「えっ?」
「時間は余っているようだけど、こんな状態ならまともに動く事も出来ない。あんたの勝ちさ、試験合格だよ」
「バルさん!?本当にいいんですか!?」
「し、信じられない……」
降参を勧めていたはずのバルの方が先に降参を宣言した事に周囲のギルド職員達は動揺するが、彼女は骨に罅が入った左足と腹部を摩り、職員達に命じて鉄柵を開けるように指示する。
「ほら、何してんだい!!試験は終わりだよ、とっととアイリの奴を連れてきて治療してくれよ!!」
「は、はい!!すぐに呼んできます!!」
「ほら、あんたもさっさと外へ出な。受付嬢のイリナの元に戻って合格を伝えてきな。これが証明の証だよ」
「わっ!?」
レナはバルが放り投げた彼女が身に着けていた腕輪を受け取ると、複数の職員に外へ運び出されるバルに頭を下げた。
「あの、ありがとうございました!!」
「ちぇっ……合格おめでとう、あんたは大した奴だよ。いててっ!?もうちょっと優しく運びな!!」
本来ならばレナを合格させるつもりはなかったバルだが、自分をここまで追い詰めた以上はレナの実力は認めざるを得ず、立ち去り際のレナに手を振って見送る。
その様子を見てレナは笑顔を浮かべ、最後にバルにもう一度だけ頭を下げると階段を登って行った――
――腕輪を受け取ったレナは真っ先に受付口に向かうと、丁度他の冒険者の相手をしていたイリナはレナの存在に気付いて驚いた声を上げた。時間帯はまだ試験の真っ最中のはずなのに戻って来たレナに彼女は慌てふためく。
「あれ!?君、もう戻って来たの!?」
「ん?誰だ?」
「イリナさんの知り合いか?」
「中々可愛い嬢ちゃんだな」
「あの、俺は男ですけど」
「えっ、えっ?えっ!?」
イリナと話をしていた冒険者達は唐突に現れたレナを見て不思議に思うと、興奮が収まらないレナはイリナにバルから受け取った腕輪を差し出す。
「あの、これをイリナさんに渡せば合格が証明されるってバルさんから聞いたんですけど」
「ご、合格!?嘘っ……」
「おいおい、何の話だよ?」
「ん?この腕輪って……バルさんがいつも付けている?」
レナが腕輪を差し出すとイリナは驚愕し、他の冒険者達もレナがバルが身に着けている腕輪を持ってきた事に驚く。
腕輪が本物である事を確かめたイリナは動揺を隠しきれずに震える手で受け取ると、本当にレナがあの難関な試験に合格した事を知る。
(う、嘘でしょう!?あのバルさんが、この子の合格を認めた!?そんな……未成年者の合格者なんてこのギルドが設立されて以来、初めての合格者じゃないの!?)
未成年者が試験を申し込んだ場合、試験内容が通常よりも難易度が高く設定されるため、これまでのギルドの歴史で未成年が試験に合格した例はない。他のギルドならば合格者が現れる事もあるが、このイチノ街のギルドの歴史上では過去に未成年者が合格した事例はなかった。
だが、いくら確認しようとレナが持ち出したのはバルの腕輪である事は間違いなく、この腕輪を何よりも大切にしているバルがそう簡単に他人に渡すはずがない。その腕輪をレナが持ち出してきた理由はバルが彼の事を冒険者に相応しい存在として認めたという事実だった。
(信じられない、こんな子供が合格するなんて……ど、どうしよう?本当に冒険者として認めていいの?)
イリナは本当にこんないたいけな少年を冒険者と言う過酷な職業に就かせていいのか悩むが、一介の受付嬢でしかない彼女に合格の取り消しなどという真似は出来ず、仕方なく彼女は冒険者の証である「バッジ」を渡す。
「は、はい。証明を確認しました……冒険者の証であるバッジを渡します」
「あ、ありがとうございます」
「お、おいおい!?いいのかイリナさん!?そいつ、まだ子供だろう!?」
「嘘だろおい!!まさか、試験に合格したのか!?」
「ちょっと皆聞いてよ!!うちのギルドで未成年冒険者が誕生したわよ!!」
「何だって!?マジかよ!?」
レナはイリナから差し出された「銅製のバッジ」を受け取ると、周囲の冒険者達が騒ぎ出す。これで晴れてレナは冒険者と認められた事になり、自分達の仲間入りしたのだから驚かずにはいられない。
成人年齢に達していない子供が冒険者になるなど滅多に存在せず、彼等はイリナとレナのやり取りを観察する。
「これが冒険者の証になるんですか?」
「そ、そうよ。そのバッジは冒険者の証であり、それを見せれば武器屋や鍛冶屋などの一部の店では商品の割引もしてもらえるようになるわ。それと、他の街へ赴くときに必要な通行料も支払いが無料にもなるの」
「え?という事は……自由に外へ出る事が出来るんですか?」
基本的に大きな街では内外に問わずに通行料を支払う義務が存在し、未成年者の場合は街の外へ抜け出す際は必ず保護者を同行させる決まりが存在した。
だからレナはダリルに拾われてから街の外へ出る事が出来なかったが、イリナの話によれば冒険者ならば通行料を支払わずに外へ抜け出せるという
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