第29話 キニクの指導

――キニクの指導を受ける事になったレナの生活はまず早朝に目を覚まし、体力を伸ばすために朝から1時間ほどキニクと共に走る事から始まった。この際にキニクは鎖帷子を装着するように忠告し、まずは鎖帷子を着慣れるようになるまで普段から身に着ける事にした。


日中は質屋の手伝いを行い、商品の整理や掃除、または料理の手伝いも行う。この辺の仕事はダリルの元で世話になっていたのでレナは手慣れており、特に支障はなかった。質屋に訪れる客の対応に関してはキニクが行い、品物の売買も彼しか出来ない事なので基本的にはレナは客が持ち込んだ品物の荷運びも行う。


夜の間は戦闘訓練を行い、キニクと組手を何度も繰り返す。彼は格闘の基礎を教えた後は敢えてレナにはそれ以上の事は教えず、自分で考えて技術を磨くように助言した。


キニク自身も「剣闘士」という職業なので格闘に精通しているわけではなく、そもそもキニクとレナでは体格差も筋力も経験も違いがあるため、キニクが得意とする力攻めの戦法がレナに適しているとは限らず、あくまでも戦闘技術は自分で身に着けるように指導した。



『レナ君の魔法は便利だが、過信しては駄目だぞ!!格闘技で大事なのは筋力と体力!!技術を身に着ける前にまずはこの二つから磨こう!!』

『はい!!』



レナはキニクの指示通りに従い、一か月の間は体力作りを中心とした生活を行う。魔法を使用する際も体力を消耗するので一石二鳥と言え、戦闘技術に関しては夜に1時間ほど組手を行い、帰った後に自分の動作の反省点を考えてキニクに相談を行う。


事前の約束通りに指導料としてキニクはレナに給金は支払わなかったが、代わりに朝食と昼食を共にする。また、レナが気に入った闘拳の代金も受け取らず、最後まで色々と面倒を見てくれた。




――遂に一か月の時が経過し、冒険者ギルドに訪れる前にレナはキニクの元へ挨拶に向かい、これから自分が試験を受ける事を伝えた。



「キニクさん!!今までご指導ありがとうございました!!」

「ふふふっ……良い顔つきになったね、一か月前と比べると見違えるようだよ!!今の君なら大丈夫、試験合格の報告を期待しているよ!!」

「はい!!じゃあ、行ってきます!!」

「行ってらっしゃい!!頑張ってくるんだよ!!」



キニクに見送られた後、レナは自信を以て冒険者ギルドへ向かう。一か月前と比べれば多少は筋力も付き、体力も伸びた。さらに今回は装備も整えているため、以前のように不安と緊張を抱かずに冒険者ギルドへ向かう。





冒険者ギルドの方では前回と変わらず、早朝の時間帯にも関わらず大勢の人が賑わい、レナは以前にも話した事がある「イリナ」という名前の受付嬢が対応している受付口に向かう。



「すいません、冒険者試験を受けたいのですが……」

「あ、はい……あれ?君って確か前にここに来た……」

「レナです。前回はお世話になりました」



イリナはレナの顔を見て驚いた表情を浮かべ、一か月前に試験を落ちた少年がまた訪れるとは予想していなかったらしく、非常に戸惑う。もう戻ってくる事はないと思い込んでいた少年が現れた事に動揺した。



「あ、あの……君、もう一度試験を受けるの?」

「はい、前回の試験から一か月以上経過しているので再試験を受けられますよね?」

「えっと……規定ではその通りなんだけど」



レナの言葉にイリナは頭を抑え、一か月前に試験に落ちた時に懲りてここへはもう来ないのではないかと考えていたのだが、彼女は仕方なく忠告する。



「あのね、確かに再試験は受けられるけど冒険者試験の試験官の担当はバルさん、君が前に試験官を務めていた人のままなの。それでも試験を受けるの?」

「はい!!よろしくお願いします。!!」

「……あ、あれ?」

「再試験の申込みをお願いします!!」

「あ、はい……じゃあ、この書類に署名してね」



試験官が同じ相手だと伝えればレナが動じると思ったイリナだが、むしろレナとしては試験官の相手がバルのままだと聞いて安心したように答える。この一か月の訓練は彼女を相手に想定して鍛えてきたため、今までの訓練が無駄にならないように覚悟を決めた。


自信満々に試験を再度受ける事を頼むレナにイリナは戸惑いながらも書類を差し出し、前回の時と打って変わって雰囲気が違うレナに彼女は混乱するが、本人が望む以上は試験の手続きを行うのが彼女の業務だった。署名を確認すると、イリナは早速準備を行う――





――前回の時と同様に筆記試験を終えた後、レナは試験場である地下の冒険者達の訓練場へ案内された。試験の内容は前回と変わらず、闘技台と呼ばれる檻の中へと移動する。


但し、今回の場合は最初から試験官であるバルが待ち構え、檻の中に入ってきたレナを見て呆れた表情を浮かべた。



「あんた……本当に戻って来たのかい?全く、ちゃんとイリナの奴にあたしの伝言を聞いてたんだろう?あんたは若すぎるから冒険者なるのは早いって」

「はい、でも俺は今冒険者になりたいんです。だから諦めません」

「たくっ……仕方ない奴だね。まあ、今回はちゃんと装備を整えてきた以上は少しはマシになったようだね」



レナの言葉を聞いてバルは面倒くさそうに頭を掻き、試験を行う前に説明を挟む。

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