第22話 治癒魔導士とは

「あの……治癒魔導士というのはなんですか?普通の魔術師とは違うんですか?」

「ええっ!?そこからですか!?治癒魔導士を知らないなんて……」

「す、すんません。おらぁっ、田舎の生まれで世間に疎くてっ……」

「いや、何で急に訛り出したんですか、さっきまで普通に話していたでしょう!?まあ、しょうがないですね……何にも知らないレナ君にお姉さんが教えてあげましょう」

「おねげえしますだ」

「もう普通に話していいですよ」



アイリは大げさにため息を吐き出し、まずは治癒魔導士の説明を行う前に魔術師というのがどのような存在なのかを説明する。



「レナさんは魔術師と呼ばれる人たちがどのような人なのか知っていますか?」

「えっと……魔石や魔道具を使わずに魔法の力を扱える人達だって聞いてます」

「まあ、それが一般人の認識ですね。ですが、魔術師と呼ばれる人たちは全員が同じ魔法を扱えるわけではないんです。魔術師にも種類が存在し、その中でも治癒魔導士は回復魔法に特化した魔術師なんです」

「回復魔法……それって、魔法の力で人を癒す魔法の事ですよね」



レナも回復魔法に関しては耳にした事があり、魔術師の中でも極一部の人間にしか扱えない魔法だと聞いているが、アイリによると彼女はその回復魔法のみを扱える魔術師らしい。ちなみに付与魔術師であるレナの場合は回復魔法を扱う事は出来ない。


魔術師と言っても全員が同じ魔法が使えるわけではなく、複数の職業に分かれているという。ちなみにアイリのような治癒魔導士は数が少なく、結構重宝されるという



「回復魔法は生物の治療を行う事が出来るという点では間違っていません。ですけど、回復魔法の力は人を癒すだけではなく、一部の魔物に対して有効的な効果を生み出す事もあるんです。例えば悪霊系の魔物、ゴーストやアンデッドなどのような死霊に対して回復魔法を使用すれば浄化させる効果もあります。まあ、修道女と比べると浄化系の魔法の威力は劣りますが……」

「えっ、幽霊を浄化させる魔法もあるんですか?」

「他にも普通ならば治療は不可能な傷でも癒す事が出来ます。回復薬の類では人体の一部を失った場合は治す事は出来ませんが、回復魔法ならば失われた身体の部位を取り戻せる可能性もあります」

「それは凄いですね!!」

「ですけど、回復魔法の難点は魔力の消耗量が多く、それ相応の力量を持つ人間でないと扱い切れません。私の場合は簡単な怪我ぐらいなら治せますが、失われた身体の部位の再生までは出来ません」



アイリの説明によると回復魔法は単純に怪我の治療だけではなく、死霊系の魔物に対して絶大な効果を誇り、使用者の力量によっては人体の再生さえも可能とする素晴らしい魔法だという。だが、残念ながら回復魔法を扱えるのは魔術師の中でも「治癒魔導士」と「修道女」と呼ばれる称号だけらしい。


ちなみに修道女の場合は回復魔法よりも浄化系の魔法を得意とするらしく、単純な回復魔法の性能は治癒魔導士が勝る。しかし、修道女の場合は条件はあるが死者を蘇生させる「蘇生魔法」を扱えるため、一概にも治癒魔導士よりも優れているとは言い切れない。



「あの、さっき魔術師には種類があると言ってましたよね。他には具体的にどんな魔法を扱える魔術師が居るんですか?」

「う~ん……そうですね、一般的に魔術師と呼ばれる存在で一番頭に浮かびやすいのは「砲撃魔導士」ですかね。彼等の扱う「砲撃魔法」は途轍もない威力を誇ります」

「砲撃魔法?」

「そうですね、分かりやすく言えば魔力の塊を放出して敵を吹き飛ばす魔法ですかね。例えば火属性の砲撃魔法ならば火炎の塊、水属性の場合は水かあるいは凍りの塊を撃ち込むんです。但し、雷属性の場合は雷を放出するような感じですね」

「なるほど」



レナの脳裏に杖を構えた自分が杖先から炎の塊を生み出して攻撃を行う場面が思い浮かび、一般人の間で魔術師と聞けば最初に想像するのは「砲撃魔導士」のような存在だと考える。


だが、レナが知りたいのは自分のような特殊な魔法を扱う者は何と呼ばれている事だった。話を聞く限りでは砲撃魔導士や治癒魔導士ではないようだが、それならば自分のような魔術師はどんな風に呼ばれるているのかを問う。



「アイリさん、例えば魔法の力を使って地面を……というか、土や砂を操作したり、重い物を軽々と運び出せる魔法使いはなんて呼ばれているんですか?」

「え?なんですかそれは?そんな魔法なんて聞いた事もないんですけど……いや、待ってください。そういえば……」

「知ってるんですか!?」

「確か自分の魔法の力を別の物体に送り込む魔術師が存在するとか聞いた事があります。確か名前は……「付与魔術師」だったような」

「付与魔術師?」

「すいません、私も全ての魔術師の種類を把握しているわけじゃないんですよ。私が知っている限りでは付与魔術師は魔術師の中でも非常に希少な存在で、滅多に世に現れない存在らしいです。そのせいで資料も少なくて彼等がどんな魔法を使うのか知っている人も少ないとか……」

「そうなんですか……あの、色々と教えてくれてありがとうございます」

「いえいえ、私も久しぶりに人とこんなに話せたので楽しかったですよ。職業柄、あんまり他人と話す機会も少ないので……」

「え?そうなんですか?」

「だってここに訪れる人は重症人か、あるいは薬を購入しにやってくる冒険者ばっかりですからね。そういう人達は怪我を直したり、薬を売却するとすぐに帰っちゃうんです。重傷を負ったり、高価な薬を購入する程の財力に余裕がある冒険者は基本的に腕利きでたくさんの依頼をこなしてお金を稼ぎまくる人達ですから、用事を負えればすぐに仕事に戻っちゃうんですよ」

「ああ、なるほど……」

「そういえば受付嬢のイリナさんから伝言を受けていました。試験の結果を伝えたいので、目を覚ましたら受付口の方まで来て欲しいそうです」

「あ、はい。あの、ありがとうございました」



少し寂しそうに答えるアイリにレナは世話になった事を感謝すると、怪我も完治したのでアイリの伝言通りに受付の方へ向かう事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る