第23話 諦めない

――受付に戻る際、レナは外が夕焼けを迎えている事に気付き、自分がギルドへ訪れた時間帯が早朝である事を考えれば随分と長い時間を気絶していた事を知る。


試験の結果がどうなったのかは分かり切ってはいるが、それでもレナは受付口に向かうと、最初に相手をしてくれた受付嬢が迎え入れた。



「あ、君は確か朝の……良かった、無事に目を覚ましたのね」

「はい……えっと、イリナさん」

「あら、アイリさんから名前を聞いていたの?」



イリナという名前の受付嬢は今日の内に遭遇したギルドの職員の中でも一番若く、年齢は20歳前後だと思われた。


茶髪の髪の毛をショートカットに切りそろえた綺麗な女性だった。彼女は書類を取り出すと、残念そうな表情を浮かべながら試験の結果を伝える。



「えっと……試験官を務めたバルさんから報告が届いてます。残念だけど、現状では貴方の実力は冒険者として相応しくないとの事です」

「そう、ですか」



事前に覚悟はしていたが、直に不合格を言い渡されたレナは落胆を隠せず、そんな彼に対してイリナは慌てて言葉を付け加えた。



「あ、でもね!!バルさんから伝言もあるよ?見込みはある、あと1年ぐらい身体を鍛えれば冒険者として相応しくなるかもしれないって……あの人、滅多に他の人を褒めた事がないから凄い事なのよ?」

「1年……」



バルの伝言を聞いてレナは眉を顰め、彼女なりに気を遣っているのだろうが、生憎と今のレナにとってはその1年も待つ余裕はない。


当面の生活費はダリルの行為でどうにかなるが、早い段階で職業に就き、資金を稼がなければならない。そもそも1年も宿屋で暮らす程の余裕はなく、どうしてもレナは冒険者にならなければいけなかった。



(けど、今の段階でもう一度試験を受けても受かる保証はない……それにギルドの規定で確か登録試験を落ちた人間は一か月は再試験を受けられない規約のはず)



書類に目を通したときにレナは冒険者試験の規約も読んでおり、もう一度試験を受けるためには一か月は待たなければならない。その程度の日数なら現在の残金でも生活する事は出来るが、次の試験が落ちた場合はもう殆ど余裕がなくなる。


レナの残された猶予は「二か月」それを超えると資金が尽きて宿屋から追い出されてしまう。しかも冒険者の試験を受けるためにも相応の金額が必要のため、出来れば次の試験で受からなければ後はなかった。



(仮に試験を受ける場合、もう一度あの試験官に当たるかは分からないけど、もしも同じ人だったら逃げ切れる自信がない。でも、冒険者になるためには試験を突破しないといけないんだ)



試験官に最後に受けた攻撃を思い返し、あの時にもしも自分の力を完全に使いこなせていたら彼女の攻撃も跳ね返す事が出来たのではないかと考えたレナは今一度自分の戦法を見つめなおし、再度試験を受ける事を決意する。


まずは冒険者にならなければレナの目的を果たす事は出来ず、決意を固めたレナは受付嬢に頭を下げて冒険者ギルドを後にした。



「今回はありがとうございました」

「あっ……うん、来年に向けて頑張ってね」



イリナはレナがバルの忠告を聞き入れ、来年に冒険者ギルドへ訪れると判断して彼を見送るが、レナが去り際に握り拳を作っている事に気付き、何故か彼がそれほど遠くない内に冒険者ギルドへ戻ってくる事を予感した――





――翌日の朝、レナは宿泊している宿屋の裏庭にて早速訓練を行うため、屋敷から持ち帰ってきた荷物の中から使えそうな道具を用意して魔法の練習を行う。



「……今までは地面にしか試した事はなかったけど、アイリさんの話が正しければ俺は付与魔術師という魔術師かもしれない」



レナは最初に考えたのは、魔法の力を物体に「付与」という形で魔力を宿す方法を試す。アイリの話が真実だとすればレナは「付与魔術師」と呼ばれる魔術師である可能性が高く、彼は荷物の中から適当な道具を取り出した。



「ナイフか……うん、これでいいかな」



鉄製の食事用のナイフを取り出したレナは緊張した面持ちで両手でナイフを握り締めると、今までは地面や岩にしか試した事がない魔法の力を鉄製のナイフに宿せる事が出来るのかを試す。



地属性エンチャント……あ、色が変わった?」



魔法を唱えた瞬間、レナの両手に紅色の魔力が発生すると、そのまま握り締めていたナイフに魔力が流れ込み、全体を覆う。紅色に光り輝くナイフへと変化したが、特にそれ以外に変化は見当たらず、不思議に思ったレナはナイフを覗き込もうとした。その直後、ナイフに異変が起きる。


まるでナイフに錘が取り付けられたように重量が増加すると、両手で支えきれなくなったレナは誤って手放してしまい、そのままナイフは凄まじい速度で地面に落下して刃が地面に食い込んでしまう。危うく自分の足の爪先に刺さりそうになったナイフを見てレナは冷や汗を浮かべ、一体何が起きたのかを確かめるべくナイフの様子を伺う。

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