第21話 試験の結果は……
――次にレナが意識を取り戻したとき、最初に見えたのは見知らぬ天井だった。ここで自分がベッドの上に横たわっている事に気付いたレナは身体を起きあげると、頭痛に襲われて頭を抑える。
「痛っ……」
「あ、やっと起きました?」
頭を抑えたレナの耳元に聞き慣れない女性の声が響き、隣に視線を向けるとそこには白衣を纏った女性が存在した。
年齢は10代後半程度で金髪が特徴的な女性であり、白衣を纏った女性はレナの頭に掌を押し当てると頷く。
「うん、特に熱もないようですし問題ないですね。意識ははっきりしてますか?」
「えっと……確か俺は試験中に殴りつけられて」
「記憶もちゃんと残っているようですね。お察しの通り、貴方は試験中に気絶してしまったんですよ。気絶の原因は試験官に派手にやられて倒れたようですね」
「そう、なんですか」
薄々と理解してはいたが、レナは自分が試験の際中に気絶した事を悟り、大きなため息を吐く。
試験官のバルの強烈な一撃を受け止めた事までは覚えているが、防御に失敗して意識を奪われた事に落ち込む。だが、そんなレナに対して女性は慰めるように肩に手を差し出す。
「まあまあ、試験は残念でしたけど仕方ないですよ。レナさんの担当をしていた試験官さんはうちのギルドの中でも金級の冒険者ですからね、むしろよく2発も耐え切ったものですよ」
「えっ……何で俺の名前を?」
「ああ、申し遅れましたね。私もここのギルドの職員なんですよ。最も王都から派遣された臨時職員何ですけどね。一応は医療長を務めているアイリと申します」
「医療長?」
アイリと名乗る女性の話によると、彼女はヒトノ国の王都から訪れた人間らしく、現在はこちらのギルドで働いていると説明してきた。
この部屋はギルドの建物内に存在する「医療室」と呼ばれる部屋らしく、彼女の仕事は冒険者ギルドに所属している人間の治療と、薬品の生成を任されているという。
「私の役目は仕事で負傷した人間の治療です。冒険者は仕事柄、日頃から怪我が絶えない人達が大勢いますからね。そういう人達の治療も私が行っているんです」
「……じゃあ、俺の治療もしてくれたのもアイリさんですか?」
「はい。貴方の場合は意識を失っていたので治療には少々手こずりましたよ。気絶している人間には#回復薬__ポーション__#も飲ませられないので大変でしたから……」
「回復薬?それは薬の名前なんですか?」
「え!?回復薬を知らないんですか!?」
普段の彼女の役目は怪我人の治療の他にギルドで販売されている薬品の製造を行っているらしく、部屋の中には薬草と思われる様々な植物が育てられていた。中にはレナが山の中で暮らしていた時に見かけた薬草も多く、これらの植物は彼女が管理しているらしい。
レナの言葉にアイリは驚愕の表情を浮かべ、慌てて彼女は机の中から緑色の液体が入った硝子瓶を取り出すと、レナに差しだす。
「ほら、こういう奴ですよ!!見たことぐらいはあるでしょう?」
「えっと……ああ、そういえばダリルさんの商品の中に同じような物を見かけたような……」
「驚きましたね、まさか回復薬を知らない人がいるなんて……回復薬というのは名前の通りに人体の回復能力を高め、驚異的な速度で自然治癒能力を高める薬です。分かりやすく言えば負傷した時にこれを飲むだけで身体の傷が治るんです」
「へえっ……そんな便利な薬があるんですか?」
回復薬と呼ばれる硝子瓶を受け取ったレナは珍しそうな表情を浮かべて覗き込み、見た目は綺麗な緑色の液体にしか見えないが、アイリによると薬草と呼ばれる野草を調合して作り出した代物らしい。
ちなみに回復薬を作り出せる人間は滅多におらず、そもそも薬草の調合自体が非常に難しい。それ以前に薬草の栽培自体が難しく、専門の知識がない人間では回復薬を作り出す事も出来ない。だからこそアイリのように回復薬を作り出せる人間は冒険者ギルドにとっては重要な人材だという。
「この回復薬は私の自作なんですけど、満月草と呼ばれる満月の日にだけ咲くと言われている野草から調合した代物です。これ1本飲むだけで大抵の怪我は完治しますし、ある程度の体力も回復させる事が出来る優れものなんですよ」
「それは凄い!!」
「けど、調合するのにも時間が掛かりますし、それに調合に必要な素材も貴重なものが多いので大量生産は出来ない代物です。このイチノ街でも回復薬を作り出せる人物は私ぐらいでしょうね」
「そうなんですか?」
「回復薬の原材料となる満月草は満月の日にしか姿を現さない野草ですからね、それに調合にも結構な時間が掛かりますし、この地方では材料を集めるのも難しいのでせいぜい1日に1本作れるかどうかぐらいの凄い薬なんです」
レナから回復薬を回収したアイリはため息を吐きながら机に戻すと、彼女の話を聞いてレナはある疑問を抱く。
「それなら負傷者が大勢運ばれてきたときはどうやって治療するんですか?その回復薬が貴重品なら、治療の時に困るんじゃ……」
「お、中々鋭いですね。確かに負傷者が複数人送り込まれた時は回復薬が不足する事態は多々あります。ですが、そこで私の出番というわけですよ」
「アイリさんの……?」
「私は実は凄腕の魔術師なんです。しかも普通の魔術師よりも希少な「治癒魔導士」です!!」
「治癒、魔導士……?」
自分を魔術師と名乗るアイリにレナは驚くが、彼女の語る「治癒魔導士」という言葉は聞き慣れず、一体どのような能力を扱える魔術師なのかを尋ねた。
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