第19話 訓練の成果

「キュイイッ!!」

「うわっ!?」

「油断するんじゃないよ!!そいつらだって魔物だからね、隙を見せればあんたを殺しにかかるよ!!」



一角兎の1匹がレナの背後から角を突き立てようとしたが、寸前でレナは回避に成功すると闘技台を駆け回る一角兎達に視線を向ける。素早く動き回るために追いかけて捕まえる事は難しく、かといって武器がないレナでは素手以外に攻撃手段はない。


闘技台の中を走り回る一角兎は単純に逃げ回るだけではなく、隙を突いてレナに攻撃を仕掛けてくる。いくら小さくて可愛らしい外見とは言え、魔物である以上は人間の事を敵と見做し、その鋭い額の角で狙う。しかも逃げ場が限られている闘技台の中ではレナは絶好の的であり、一瞬の油断も許されない。




――だが、レナにとって幸運だった事は闘技台を構成している床が「石材」で会った事であり、制限時間が30秒程経過した当たりで、遂にレナも動き出す。




(落ち着け、何のために今日まで練習を続けてきたんだ……大丈夫、この程度の相手なら魔法を使うまでもない)



ダリルに世話になっていた頃からレナは魔物との戦闘に備え、魔法の研究以外にも身体を鍛えてきた。ダリルが護衛として雇っていた傭兵に頼み込んで指導を受けていた事もあり、戦闘の基礎は既に叩き込まれている。



(まずは相手の様子を伺い、動作を見切って反撃するんだ。今まで見た所、一角兎は攻撃する時は必ず足を止めて力を溜めてから跳躍する。そこを狙えば……)



レナは周囲を飛び回る一角兎の観察を行い、そして自分に対して攻撃を仕掛けようとしている個体を見抜くと、反撃の体勢を整えた。


正面から飛び込んできた一角兎に対してレナは右に回避すると、空中に跳躍した一角兎の足を掴んで力尽くて石畳に叩きつける。



「ここっ!!」

「ギュイッ!?」

「へえ……やるじゃないかい。動体視力と反射神経は大したもんだね」



1匹目の一角兎を武器も使わずに素手で倒したレナにバルは感心した声を上げ、続けてレナは他の一角兎に視線を向けると、今度は反撃ではなく自分から攻撃を仕掛けるために駆け出す。



「そこだっ!!」

「ギュイッ!?」

「キュイイッ!?」



移動方向を推測して2匹目の一角兎を蹴り飛ばして闘技台を取り囲む金網に叩きつけると、最後の1匹にレナは視線を向ける。他の仲間を倒された一角兎は恐怖を抱いたように闘技台を逃げ回り、レナから距離を取ろうと駆け出し続ける。


一角兎を逃さないようにレナは動こうとするが、単純な移動速度は一角兎が上回り、しかも小柄であるが故に捕まえにくい。仮にここが金網で隔離された場所でなければ簡単に逃げ出されていただろう。



「キュイイイッ!!」

「うわっ……」

「残り時間は15秒!!ほらほら、頑張りな!!」



攻撃を諦めて逃走に専念した一角兎は無我夢中に闘技台の中で動き回り、レナから逃れるために必死に逃げ続ける。これでは捕まえる事も難しいと感じたレナは仕方なくその場に跪き、右手を床に押し当てた状態で一角兎の位置を見逃さないように視線を向けた。


一角兎の進行方向を予測したレナは右手に紅色の魔力を滲ませた瞬間、石材で構成された床にレナの魔力が流れ込んだ結果、一角兎の足元の地面が凹み、爪先を引っ掛けて体勢を崩した一角兎がレナの元へ飛び込む。



「キュイイイッ!?」

「お帰りっ!!」



自分に目掛けて飛びついてきた形になった一角兎をレナは受け止めると、そのまま額の角を掴んで振り回し、勢いよく金網に目掛けて放り込む。3体目の一角兎は悲鳴をあげる暇もなく金網に衝突すると、そのまま地面に倒れて動かなくなった。



「よし!!」

「……あらら、本当に倒しやがった。案外やるじゃないかい」



制限時間内に見事に3体の一角兎を戦闘不能に追い込んだレナにバルは口笛を吹き、これで試験は合格したのかとレナは彼女に振り返ろうとした時、周囲の反応がおかしい事に気付く。


何故か3体の一角兎を倒したにも関わらず、金網の外でレナの様子を見て居たギルドの職員達は緊張した面持ちだった。


試験官を務めるバルが金網の扉を開くと、試験が終わった事を伝えに来たのかとレナは考えたが、彼女は拳を鳴らしながらレナの前に向かい合う。その行為にレナは戸惑うと、彼女は笑顔を浮かべて告げる。



「なら、次の試験を始めるよ。今から5分間、あたしはお前を襲う。5分間逃げ延びる事が出来ればあんたの勝ち、5分以内にお前が降参を申し出るか、あるいは気絶すればあたしの勝ち、規則は理解出来たかい?」

「……えっ?」

「一応は言っておくが、あんたが魔術師ならあたしは「格闘家」さ。勿論、能力も持っている。この意味が分かるかい?あんたが「魔法」を扱えるようにあたしにも「戦技」が扱えるという事さ」

「えっ……えっ!?」



バルの言葉にレナは激しく動揺し、目の前に立つ彼女の威圧感が増す。レナは何が起きているのか説明を求めるために周囲の職員に視線を向けるが、彼等は同情するような視線を向けるだけで口出しする様子はなく、これからレナの身に起こる出来事に哀れを抱くように両手を合わせる。

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