第18話 試験内容

「……なら、この用紙に名前を記入して、身分を証明する物を提示してくれる?未成年の場合は本当は保護者の名前が必要なんだけど」

「あ、商団の紹介状ならあります。これで大丈夫ですか?」

「紹介状?あれ、これってダリルさんの所の……貴方、ダリルさんの知り合いなの?」



レナがダリルから事前に受け取っていた紹介状を渡すと受付嬢は驚いた表情を浮かべ、ダリルはこの街でも有名な商人だったため、冒険者ギルドの方でも縁があった。


紹介状の内容からレナの保護者がダリルだと知ると受付嬢は安心した表情を浮かべ、書類を受け取るとレナを試験場まで案内する。


ちなみにダリルは多種多様な商品を取り扱っており、この街中でも1、2を誇る大商人として知られていた。レナの村まで利益を度外視してわざわざ取引に向かっていなければ今頃はもっと早く大きな街に移住していたのだろう。そんな有名人のダリルの紹介状だからこそ受付嬢は簡単にレナの身元を信じた。



「うん、記入漏れは無し……じゃあ、試験場まで案内するわね。付いてきてくれる?」

「はい」

「最初は筆記試験を受けて貰う事になるけど、準備は大丈夫?問題ないのなら今すぐに始めて貰う事になるけど……」

「大丈夫です」



試験を受けるのはレナだけなので彼一人が準備を整えればすぐに始められるらしく、そのままレナは別室にて筆記試験を受ける事になった――





――1時間後、筆記試験といっても簡単な内容の問題が多かったため、レナの自己採点では全ての問題を解く事に成功した。殆どの内容が絵を確認して描かれている魔物の名前を書いたり、あるいは簡単な特徴を表記するだけで良かった。この程度の内容ならば冒険者を志す人間ならば簡単に解けるように思われるが、続けて行われた実技試験に関しては一気に難易度が上がる。


レナは建物の地下に存在する「訓練場」と呼ばれる広間へ案内され、そこで試験官を務める先輩冒険者から説明を受けた。ちなみに訓練場という名前の通りに広間には様々な鍛錬器具が存在し、床全体が石畳で覆われていた。



「あたしがあんたの試験官を務めさせてもらうよ。その若さで冒険者になりたいんだって?事情は知らないけど、正直に言わせて貰えば、年齢を考慮してもあんたは体格は恵まれていないよ」

「はあ……」

「まあ、別にあたしは試験官を頼まれただけで別にあんたが死のうと生きようとどうでもいいんだけどね。一つだけ忠告しておくと無理だと判断したらすぐに試験を放棄しな」



試験官を任されたという「バル」という名前の女性冒険者は年齢は20代前半ぐらいで身長は2メートル近く存在し、褐色の肌が特徴的な女性だった。


露出が随分と激しい恰好をしており、肉感的な体型をしているだけに目のやり場に困るが、当の本人は気にした風もなく堂々と見せつける。



「今回の実技試験の内容はあの闘技台であんたと魔物を戦わせるよ。少し前までは先輩冒険者が試験の相手をしてたんだけどね、事前に試験を受ける奴等から賄賂を受け取ってわざと試合に負けて合格させる馬鹿共が居たから最近では捕獲した魔物と戦わせるようになったのさ」

「え、魔物と戦うんですか?」

「そうだよ、怖気ついたかい?だけどね、冒険者になる以上はいずれ魔物と戦う事になるんだ。それに対人戦と魔物との戦闘は全く違うからね、そこだけは注意しておきな」



バルが指差したのは訓練場の中央部に存在する金網に囲まれた空間で、この中にレナが入り込んで冒険者ギルド側が捕獲した魔物と戦わせるという。また、試験中は試験官も金網の中には入らず、完全に隔離された状態で戦わなければならない。



「さて、こっちの準備はもう済んでいるよ。あんたも用意が済んだら試験開始さ」

「はい、分かりました」

「いや、分かりましたってあんた……防具も武具も何も身に着けていないじゃないか。というか、あんた魔術師なら杖とか魔石ぐらいは持っていないのかい?」

「すいません、そういうのは持ってないので……」



基本的に普通の魔術師の場合は自分の魔法の力を高める「魔石」を取り付けた杖の類を装備して戦闘に挑むが、レナの場合は着の身着のままの状態で闘技台に入り込む。


防具も武具も装備せずに闘技台に入ろうとするレナに対してバルは呆れた表情を浮かべるが、本人が問題ないという以上は試験官の立場として何も言わない。



「たくっ……もう駄目だと思ったらすぐに助けを求めるんだよ。それじゃあ、準備はいいかい?」

「はい、問題ありません」



レナは首を鳴らして軽く身体を動かすと、事前に床の石畳に触れて頷き、これならば問題ないと判断してバルに頷く。妙に余裕な態度を見せつけるレナに対してバルは不思議に思いながらも同行していたギルドの職員に指示を出す。



「おい、闘技台に魔物を放ちな!!手始めに最初は一角兎からだよ!!」

「よ、よろしいのですか?」

「あたしが良いって言ってんだから良いんだよ!!」

「は、はい!!」



職員は心配そうにレナに視線を向けたが、バルの言葉に従って彼等は闘技台の中に小さな檻を運び込むと、3体の一角兎を檻の中に解き放つ。職員は急いで闘技台を離れた、その瞬間に金網の扉が閉められ、レナと一角兎を闘技台に隔離された状態で試験は始まった。


一角兎と向かい合ったレナはカイと狩猟に出向いたときのことを思い出し、結局は自分一人では一角兎を倒せなかった事を思い出す。だが、あの時と違って今現在のレナは付与魔法の訓練を地道に重ねて強くなっていた。訓練の成果を確認するため、レナは内心で気合を入れる。



「最初の試験は制限時間内にその一角兎達を討伐しな!!制限時間は1分、もしも1秒でも時間を超えたら即刻失格だから注意しな!!」

「はい……あの、もう始まってるんですか?」

「おっと、開始の合図がまだだったね。じゃあ、始め!!」

『キュイイッ!!』



闘技台の中で一角兎達があちこちと動き回り、半径5メートル程度の空間の中で走り回る。一角兎は魔物の中でもゴブリンよりも危険度が低い力の弱い魔物だが、捕まえるとなると非常に面倒な相手であり、しかも1分の制限時間内に3匹の一角兎を倒すとなると非常に厄介な試験だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る