第17話 冒険者ギルド

「誰も居なくなっちゃったな……これからは一人か」



裏庭を歩きながらレナは人気が無くなった屋敷を見まわしてため息を吐き出し、これから一人で生きていく事に不安を抱く。だが、準備はしっかりと整え、次の目標も決まっていた。



「まずは冒険者を目指す、そして強くなって村を取り返す……それだけだ」



魔物を倒す事を専門とする冒険者を目指す事は前々から決めていたレナは自分の両手に視線を向け、明日を迎えれば「13才」の誕生日を迎えるレナはこの街に存在する「冒険者ギルド」で冒険者の登録試験を受ける事が出来る。




――冒険者になるためにはギルドと呼ばれる組織へ加入する必要があり、このギルドで冒険者に必要な知識や技能を持ち合わせているかどうかを確かめるための試験を受け、見事合格できた場合は正式に冒険者として登録される。


但し、冒険者の試験は「12才以下」の人間は受ける事が出来ない規則が存在した。どうして年齢制限が存在するのかというと、冒険者は魔物を倒す事を生業とする職業のため、常日頃から危険を伴う。


だからこそ未熟な子供が試験を受ける事は出来ず、今までレナも試験を受ける事が出来なかった。だが、明日を迎えれば遂にレナも試験を受ける資格を得られる。



「明日か……よし、頑張るぞ」



気を取り直したレナは自分の荷物を纏めると、世話になった屋敷を後にしてこれからしばらくの間は生活する事になる宿屋へと向かう――








――翌日の早朝、宿屋の個室にて目を覚ましたレナは身体を起こすと時間帯を確認し、予定よりも少々早いが顔を洗って簡単な食事を済ませると、冒険者ギルドへと向かう。



「ここが冒険者ギルドか……改めてみると凄いな、ダリルさんの屋敷よりもずっと大きいや」



イチノ街の中央部に辿り着くと、レナの目の前に巨大な建築物が存在し、ダリルが所有していた屋敷の倍近くの大きさの建物と敷地を誇っていた。


冒険者の中にはギルドの宿舎で暮らす者も多く、緊急事態に備えてギルドは24時間対応のため、レナは人が最も少ない早朝の時間帯に訪れる。


階段を上がって扉を開くと、一階は酒場のような構造らしく、早朝の時間帯にも関わらずに大勢の人間で賑わっていた。どうやら中に存在する人間の殆どが冒険者らしく、彼等は円卓のテーブルに座り込んで酒や食事を味わう者、あるいは装備を整えたり自分の仕事を自慢する者も居た。



「おい、酒がねえぞ!!もっと持ってこい!!」

「こっちの飯はまだか!?」

「ちっ……刃毀れしてるな、また買い直さないと駄目か」

「おい、聞いてくれよ!!昨日、遂に俺一人だけでオークをぶっ殺してやったぜ!!」



レナが見た限りでは大半の冒険者は荒くれ者のような恰好をしており、中には盗賊ではないかと思われる程に柄の悪い人物も存在した。


確認した限りではレナと同世代、あるいは10代の人間は見当たらず、殆どの者が20代前半~30代後半のように見えた。



(若い人は少ないんだな……あそこが受付か)



他の人間達に気づかれないように目立たずにレナは受付口に近付くと、まだ年若い受付嬢がレナに気付き、少し驚いた表情を浮かべてレナに尋ねる。



「えっと……どうかしたのお嬢ちゃん?仕事の依頼かな?」

「いえ、お嬢ちゃんじゃないです。こう見えても男です、冒険者になるために試験を受けに来ました」

「ええっ!?」



受付嬢はレナの顔を見て少女だと間違えたようだが、しっかりと否定しながらレナは単刀直入に自分の目的を伝えると、受付嬢は驚愕した。


彼女の目にはレナが少女のように華奢な体格に綺麗な顔立ちをした少年にしか見えず、下手をしたら自分よりも顔立ちが整っているかもしれないレナに念のために再確認する。



「えっと、ごめんなさい。本当に男の子なの?間違いない?」

「はい、男です」

「そ、そう……えっと、冒険者試験を受けたいの?」

「はい、年齢は13才です。問題ありますか?」

「……問題はないけど、その本当に大丈夫なの?親御さんからちゃんと許可を貰ってきたの?」

「……両親はいません」

「あ、ごめんなさい……」



レナの表情を見て何か訳ありな家庭環境だと察した受付嬢は詳しくは問い質さず、それでも前途有望な子供が危険な冒険者試験を受ける事に心配した。



「あのね、君がどうして冒険者になりたいのかは分からないけど、試験は本当に危険なのよ?うちのギルドでは筆記試験と実技試験を受けて貰うんだけど、最近になって実技試験の方が厳しくなっているの。それに君は見た所、武器も何も持っていないように見えるけど大丈夫なの?」

「大丈夫です、一応は魔術師なので……」

「魔術師……!?そ、それは本当?」



魔術師という言葉を聞いて受付嬢の反応が変わり、滅多に存在しない魔術師が自分達の冒険者ギルドに訪れた事に動揺を隠せず、レナの言葉が真実なのか疑う。



(嘘を吐いている様子は見えないけど、こんな子供に試験を受けさせるのは危険過ぎるわ……けど、本当に魔術師だとしたら見逃すには惜しい人材かもしれないし……)



受付嬢は悩んだ結果、試験を受けるために必要な書類をレナに提出し、身分を証明する物の提示を願う。

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