冒険者編

第16話 冒険者を目指して

――レナが村を出てから約3年の月日が経過し、今現在の彼はダリルの元で仕事を手伝いながら暮らしていた。


基本的にレナが任される仕事は使用人の手伝いや商品の荷運びぐらいだったが、文字の読み書きや計算などもダリルの元で学ぶ。



「おい、レナ!!悪いがこの荷物を運んでくれ!!中身は高価な壺が入っているから間違っても落とすなよ!!」

「はい、分かりました!!」



馬車に荷物を詰め込む男達に声を掛けられ、荷物の点検を行っていたレナは頼まれた荷物の前に移動する。随分と大きな木箱が存在し、大きさはレナの身長を超え、重量もかなり存在した。


普通ならば12、3才の子供が運び出せるとは思えない大荷物だが、レナは何事もないように両手で荷物を掴むと、軽々と持ち上げた。



「よっこいしょっ……」

『おおっ!!』



あっさりと自分の身体よりも大きな木箱を抱えたレナはそのまま馬車の中に荷物を運び出す光景に男達は驚きの声を上げ、子供離れした怪力を誇るレナに誰もが感心する。



「レナの奴、また力が付いたんじゃないのか?あんなに大きな荷物、俺らでも二人がかりでないと運べないぞ?」

「全く、旦那もとんでもないガキを拾ってきたな。それにしても何時の間にか大きくなったな、あと2、3年も立てば別嬪さんに育ってるんじゃないか?」

「馬鹿、レナは男だろうが!!がはははっ!!」



周囲から聞こえてくる男達の言葉にレナは内心笑みを浮かべ、誰も気付いていないがレナの手元には紅色の魔力が滲んでいた。実を言えばレナは大荷物を持ち上げる際、付与魔法を利用して持ち上げている事は誰も気づいていない。


レナの付与魔法の性質は「重力」であるため、どんな荷物だろうと重力を操作すれば理論上は持ち上げる事が出来る。なのでどれほどの重量の荷物だろうと、レナは手元の重力を操作する事で軽々と運び事が出来るため、荷運びの時は誰よりも活躍していた。



(筋力だけで持ち上げているんじゃないけどな……まあ、別に話す必要もないか)



自分の付与魔法の事を説明するとしても、普通の人間には「重力」の話をしても伝わらず、理解できる者は殆どいない。だからこそレナは荷物を運ぶときは付与魔法を使っている事は話していなかった。そのせいで周囲の人間からは子供なのに化物じみた怪力を持っていると勘違いされている。


やがて全ての荷物を馬車に運び込むとこれで荷運びは終了し、レナを除いた男達は馬車に乗り込む。そして商団の主のダリルが現れると、全員に声を掛ける。



「よし、お前等!!今日はいつもより遠出するからな!!忘れ物はないだろうな!?」

「ありません!!」

「早く出発しましょうよ!!王都の女と早く遊びたいんですよこっちは!!」

「馬鹿野郎、旅行気分で付いてくるんじゃねえよ!!全く……じゃあ、行ってくるぞレナ。本当に一緒に行かなくていいんだな?」

「はい、今までお世話になりました」



ダリルは心配そうにレナに視線を向け、本当に自分達に付いてこないのかと尋ねるが、レナは首を振ってこの街に残る事を告げる。




――実はダリルは今まで暮らしていたイチノ街から商団の拠点を移し、ヒトノ国の王都で本格的に商売を始めるつもりだった。


そのため、彼は屋敷を売却して荷物を纏め、自分の部下を連れて王都へ発つ準備を進めていた。そして今日、遂に全ての準備を整え、王都へ向けて出発する日を迎える。




ダリルはレナも自分に付いてくるように説得したが、この街を離れるつもりはないレナは断り、これまで世話になった彼に礼を告げる。まだ子供のレナを一人で残していく事にダリルは不安を覚えるが、既に王都へ向かう準備を済ませた以上は出発するしかなかった。



「レナ、本当にそれでいいんだな?お前なら俺の養子にしてやってもいいんだぞ?一緒に王都で平和に暮らさないか?」

「ダリルさん……ありがとうございます。でも、俺はもう決めたんです」

「……どうしても冒険者を目指したいのか?」



レナがダリルに付いて行かず、イチノ街に残る理由は二つ存在し、一つ目の理由はレナは自分が暮していた村からあまり遠くに離れたくはないため。二つ目の理由は冒険者を目指すためである。


小さい頃、養父から「冒険者」の話を聞いていたレナは彼等が魔物を倒す事の専門家であるという話を聞いており、冒険者を目指せば魔物に関する情報が得られるだけではなく、魔物と戦うための訓練を受ける事も出来ると聞いていた。


だが、年齢制限の問題でレナは今まで冒険者を志願する事は出来なかったが、あと一日も経過すれば既定の年齢に達してレナは冒険者の試験を受けられた。



「お前、これからどうするつもりだ?この屋敷はもう売却済みだから住む事は出来ないぞ?どうやって暮らしていくつもりだ?」

「明日まで待てば冒険者の試験を受けられるので、それまでは今まで溜めていたお金で宿で暮らします。もう宿の主人とは話は付いているので大丈夫です」

「そうか……全く、頭の良いお前なら良い後継者になると思ってたんだがな」

「ありがとうございます。でも、俺がなりたいのは商人じゃなくて冒険者ですから」

「ああ、分かった分かった!!もう何も言わねえよ、好きに生きろよ!!」



ダリルはレナの言葉を聞いて背中を向け、馬車に乗り込もうとしたが、途中で思い直したようにレナに振り返って小袋を投げ渡す。



「おい、レナ!!これを受け取れ!!」

「えっ?」



レナは投げ渡された小袋を受け取ると、中身を開くと大量の「銀貨」と「銅貨」が入っていた。日本円に換算すると銀貨は1万円、銅貨は1000円程度のため、数十万円程度の大金をダリルは渡す。



「餞別だ、それで装備を整えて冒険者試験を受けろ!!カイさんの仇、必ず討てよ!!」

「……はい、今までありがとうございました!!」

「ふんっ……達者でな」

「あばよレナ!!」

「元気でな!!」

「負けんなよ!!」



馬車が動き出すと乗り込んでいた男達も別れの言葉を告げ、彼等を手を振って見送ったレナは受け取った小袋を抱きしめ、改めて屋敷を見まわす。今日迄の間はこの屋敷で過ごす事が出来るが、明日の朝には屋敷を出なければならず、レナは最後の準備を行う。

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