第14話 ヒトノ国の判断

村がゴブリンの大群に襲われてから数日の時が流れ、無事に逃げ延びる事が出来たレナはダリルの元で世話になっていた。村を飛び出して当てもなく草原を放浪していた所、ダリルの商団が偶然にもレナを発見して保護してくれ、それ以降はずっと彼の世話になる。


ダリルは数年程前から村に立ち寄る機会が少なくなったが、今回は彼の商団が他国で仕事を終えて帰国した際、偶然にも村の近くを通り過ぎたのでカイに挨拶に向かおうとした時に村から逃げ出したレナを発見した。


商団に発見された時のレナの状態は酷く、体力も精神も限界を迎えていたレナはダリルに保護された時点でレナは意識を失い、彼が暮らしている「イチノ」という街へ連れ込まれる。


ダリルは最初はレナが暮らしていた村に送り届けようとしたが、護衛の傭兵が村の様子がおかしい事に気付いて急遽進路を変更して街へ引き返したという。


三日後、レナは意識を取り戻すと自分が見知らぬ家のベッドで眠っている事に戸惑うが、すぐにカイの知人のダリルに救われた事を思い出し、自分が意識を失った後に村はどうなったのかを問い質す。



『村は……爺ちゃんや祖母ちゃんや、他の村の人は!?』

『……今の所、あの村に居た人間の中で見つかったのは君だけだ』

『そんな……』



ダリルによれば彼はすぐに村の異変を街の警備兵に伝え、救援を求めた。すぐに村の様子を調べるために兵士が送り込まれたが、帰ってきた兵士の報告によると村は既にゴブリンに支配され、生き延びた村人はレナを除いて存在しない可能性が高いという。



『兵士の話によるとあの村はゴブリンの群れに支配されたらしい。普通ならすぐに討伐隊が編成されて村を取り返す決まりなんだが……今回は兵士は動かないかもしれない』

『えっ!?な、何で……!?』

『あの村がここ数年は国に支払う税金を納めていなかった事と、距離的に遠すぎて村を支配したゴブリン共が他の村に襲い掛かる可能性は低く、それに土地柄にも恵まれていたとはいえない場所だからな。それに討伐隊を編成してゴブリンを追い払った所で生き残った村人がいないのなら取り返しても意味はない、と言われたよ』

『そんな……でも、僕は生きてます!!』

『そうだな、だけど子供一人のために危険を犯して魔物が巣食う村に兵士は送り込む事は出来ないんだよ。距離が遠すぎるし、仮に盗伐隊を編成する場合は相応の数の兵士を送り込む必要がある。その間、この街の警備が低下すれば魔物の襲撃や野盗が現れた時に対処出来ない可能性があるらしい。だから今は何も出来ないんだ……』

『そんな事って……!!』



ダリルの言葉を聞いたレナは愕然とするが、ヒトノ国側の人間からすれば税金も納めていない辺境の小村のために大切な兵士を送り込めず、そもそも村を救い出した所で住民が一人だけでは再興も出来ない。現状ではヒトノ国の兵士が討伐隊を派遣する理由がなかった。


それでも村人のレナの立場としては国の兵士の対応には納得できず、50人近くの村人を殺した魔物達を放置し、あまつさえ村を放棄するという言葉にレナは怒りを抱く。その日以降、レナは毎日のように駐屯所に駆け込んで兵士に頼み込む。



『お願いします!!どうか、僕の村を取り返してください!!お願いします!!』

『おい、止めてくれ!!こっちだって何とかしてやりたいが、無理なものは無理なんだよ!!』

『上からの命令で俺達は何も出来ない!!諦めて帰れ!!』

『何度来ても俺達はあの村へは行かないんだ!!もう許してくれ!!』



必死に兵士に縋りついてレナは何度も村を支配した魔物の討伐を願うが、兵士達は何度来られようとレナを追い返すことしか出来ず、ダリルの元へ強制的に送り返す。



『レナ、諦めろ!!もうあの村は取り戻せないんだ……お前の家族はもう死んだんだ!!もう諦めるしかないんだよ!!』

『うるさい!!』



ダリルも必死にレナを宥めようとするが、両親を失い、世話になった村人たちも全員いなくなり、しかも彼等を殺したゴブリン達が今尚も村を支配しているという話を聞いてレナは冷静でいられるはずがなかった――






――そしてレナが意識を取り戻してから一週間後、つまり村がゴブリンに支配されてから10日が経過した頃、レナはダリルの屋敷の客室のベッドにて目を覚ます。



「いてっ……くそ、まだ痛む」



目を覚まして早々にレナは頭を抑え、額に巻き付かれた包帯を摩る。先日、駐屯所の兵士に追い返される際に強く地面に叩きつけられたときに頭を怪我した事を思い出し、ため息を吐き出す。



「なんで誰も助けてくれないんだ……じーじ、ばーば」



無意識に両目から涙を流している事に気付いたレナは顔を抑え、誰も力を貸してくれない現状に嘆く。最もどれだけ泣いても状況は変わらず、レナは段々と怒りを抱く。


但し、その怒りは誰も手を差し伸べようとしない人間達に対する怒りではなく、誰かの助けを期待する自分自身にレナは苛立ちを抑えきれない。



「なんで僕は……俺は弱いんだ……!!」



この数日の間に惨めに他の人間に助けを求める自分自身の行いにレナは嫌気が差し、自分の住んでいた村を取り戻すために他人の力に縋る行為の虚しさに打ちひしがれる。

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