第12話 村の悲劇

「はっ、はっ……やっと、着いた!!」



移動の途中、足をもつれたレナは転んでしまい、身体を強く打ってしまう。先ほどの魔法の影響で更に体力を消耗し、もう身体の限界が近かった。


それでも立ち止まるわけにはいかず、何とか立ち上がったレナは遂に山道を抜けて村に続く道まで到着した。


山を下りた事でどうにか気を取り直したレナは村に向けて駆け出し、先に向かったはずのカイの姿を探す。大分時間が経過しているので既に村へ辿り着いているかもしれないが、それでもレナは養父の姿を探す。



「爺ちゃん!!じっ……じーじ!!」



必死に走りながら養父に呼びかけるが返事はなく、徐々に自国は夕方を迎え、日が落ち始めていた。夜を迎える前に村に辿り着くためにレナは急いで駆け出すと、遂に視界に村の光景が映し出された。



「えっ……な、何だこれ、どうなって……!?」




――しかし、レナの視界に映し出されたのは村を取り囲む防壁が破壊され、村中の建物が燃え盛る光景だった。それだけではなく、あちこちで住民の悲鳴が聞こえ、さらに魔物と思われる鳴き声もちらほらと聞こえていた。




一体何が起きているのかレナは理解できなかったが、呆然とした表情で破壊された防壁を見ると、昼前に村長の息子のシバが指摘した堀の事を思い出して視線を向ける。すると地面が崩れて堀の一部が埋もれてしまった箇所に大量の足跡が存在した。


瞬時にレナはこの足跡の正体が魔物だと気づき、村を取り囲む堀の中で唯一侵入出来る箇所から魔物達がなだれ込み、村人たちを襲った事に気付く。その事実にレナは愕然としてしまい、頭を抑える。



「ぼ、僕のせいで……!?」



自分が山に向かう前に堀の修理をちゃんとしておけば村に魔物の侵入を許す事はなかったのではないかとレナは考え込んでしまい、目の前で燃え盛る村の光景を見て呆然としてしまう。


だが、ここで立ち止まっていても状況は悪化の一途を辿り、なんとか火事を食い止めるためにレナは村の中に入ろうとした。



「ま、魔法で……火事を止めないと、他の人を救わないと……」



どうにか魔法の力で火災を防ごうとレナは村の中に入るが、目の前に燃え盛る建物を目にしてレナはゆっくりと手を伸ばすが、ここである事に気付く。



「魔法……どうやって、止めればいいんだ?」



レナが扱う魔法は土砂を操作する事が出来る「地属性」しか行えず、炎に飲み込まれた建物を消火する方法はレナには思いつかなかった。


ここでレナは初めて自分の付与魔法の無力感を覚え、こんな時に限って何の役にも立たない自分自身を恨む。




「何が……魔術師だ、こんな時に何も出来ないなんて……くそっ!!」



目の前で燃えていく村を前にしながらもレナは何も出来ない自分に苛立ち、拳を地面に叩きつけた。ならば魔法に頼らずとも自分に何か出来るのではないかと思い直したレナは立ち上がって他の村人の姿を探そうとした時、嫌に聞き覚えのある鳴き声がレナの周囲から響き渡る。



『ギイイイイッ!!』



その声を耳にした瞬間、レナは目を見開いて顔を上げると、何時の間にか自分がゴブリンの集団に取り囲まれている事に気付いた。山で遭遇したゴブリンよりも数が多く、十数匹のゴブリンがレナを取り囲む。その光景を見たレナはこのゴブリン達が村を襲った魔物達だと気づく。



「ギッギッギッ!!」

「ギィイイッ……!!」

「ギシャシャッ!!」

「……何で、こんな……」



レナを取り囲んだゴブリン達は醜悪な笑みを浮かべ、村から調達したと思われる鍬や鎌を握り締めていた。それを見たレナは恐怖の表情を浮かべて周囲を見渡し、完全に逃げ道を絶たれた事を知る。ゴブリン達は余裕の笑みを浮かべながらじりじりと包囲網を縮め、武器を構えた。


このままでは自分がゴブリンに殺されると気づいたレナは必死に逃げる方法を考えるが、完全に取り囲まれている時点でどうしようも出来ず、強行突破を試みようにも相手の数が多すぎた。仮にどうにか包囲網を突破しても今のレナの体力では逃げ切れる保証はない。



(殺される……誰か助けて、じーじ、ばーば!!)



何度も首を見渡しながらレナは助けを求めようとするが、気付いたら先ほどまで村のあちこちで聞こえていた人間の悲鳴も耳にしなくなった事に気付く。もしかしたら生き残っている村人は自分だけかもしれないと考えたレナは更に追い詰められる。


恐怖を煽るように走らず、ゆっくりと歩み寄って接近してくるゴブリン達に対してレナは膝を崩し、地面に突っ伏す。その姿を見てゴブリン達はレナの無様な姿を笑う。



『ギシャシャッシャッ!!』



周囲から聞こえてくるゴブリンの笑い声にレナは地面に跪いた状態のまま動かず、数秒後に訪れるであろう自分の悲劇を想像する。だが、ここまでかと諦めかけた時、レナはカイの言葉を思い出す。




『どんなに怖いと思っても人というのは逃げられない時がある。ならば恐怖に打ち勝ち、立ち向かう勇気を持たねばならん』



カイの言葉を思い出した瞬間、心が折れかけていたレナは目を開き、この絶望的な状況を打破するために行動に移る。

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