第11話 能力を生かせ
(こうなったら、やるしかない!!)
このまま逃げ続けても体力切れで追いつかれると判断したレナは立ち止まり、四足歩行で迫るゴブリンに振り返る。
突如として立ち止まったレナにゴブリンは一瞬だけ呆気に取られるが、すぐに気を取り直したように跳躍して襲いかかろうとした。
「ギイイイッ!!」
「……喰らえっ!!」
だが、レナは飛び掛かって来たゴブリンに対して両手を地面に押し付けると、掌に紅色の魔力を宿して地面の土砂を操作すると「土の壁」を生み出す。唐突にレナと自分の前に現れた土壁に対してゴブリンは目を見開き、そのまま壁に衝突してしまう。
土壁に激突したゴブリンは地面に倒れ込むが、土砂を盛り上げて作り出しただけの土壁は脆く、衝突の際に崩れてしまう。それでもゴブリンの攻撃を防ぐ事に成功したレナが逃げる時間を作り出す事に成功し、坂道を抜け出してレナは林の中に逃げ込む。
「ギイイッ……!!」
「くっ……逃げないと、わあっ!?」
後方からゴブリンの声が聞こえたレナは必死に逃げようと林の中を突き進むと、足元を滑らせて転げ落ちてしまう。どうやら林に隠れて分からなかったがレナは崖の近くに存在したらしく、危うく崖から落ちそうになったがどうにか寸前で留まる。
崖の底には川が流れているようだが、水の流れが激しく、もしも落下していたら命はなかっただろう。レナは立ち上がって逃走を再開しようとした時、林の中から先ほどのゴブリンが飛び掛かって来た。
「ギイイイッ!!」
「うわぁっ!?」
ゴブリンは崖に気付いていなかったのかレナの身体に飛び掛かってしまい、そのまま二人は崖から落ちそうになったが、岩壁に生えていた木の枝にレナはしがみついてどうにか落下を免れる。
「あ、危ない……うわっ!?」
「ギイイッ!?」
だが、木の枝を掴んだレナの足元にはゴブリンが右手で掴まり、やっと状況を理解したのかゴブリンは下に流れる激流を見て恐怖に襲われたのかレナの足首に爪を食い込ませてしまう。
「ギイッ!!ギギイッ!!」
「ぐあっ……!?」
右足首に血が滲む程に強く握り閉められたレナは眉を顰め、どうにかゴブリンを引き剥がそうと足を震わせるが、見かけによらず力が強いゴブリンは手を離そうとしない。逆にレナが掴んでいる木の枝の方が軋み始め、このままではどちらも落下するのは目に見えていた。
(くそ、どうすればいい……!?)
子供の力ではゴブリンを抱えた状態で木の枝にしがみつくのも難しく、徐々に指の感覚が消えて力が抜けていく。このまま自分は死んでしまうのかとレナは考えた時、不意にレナは目の前に存在する「岩壁」が手を伸ばせば届く位置に存在する事に気付く。
岩の壁を見てレナはある方法を思いつき、このまま落ちるぐらいならば一か八かの賭けに出たレナは必死に枝を掴んでいた片腕を離して岩壁の方に手を伸ばすと、掌を壁に押し付けて叫ぶ。
「
「ギイッ……!?」
次の瞬間、レナの掌に紅色の魔力が滲むと、岩壁に亀裂が走ってゴブリンが存在する位置の壁が盛り上がり、まるで「棘」のように変化してレナの足首を掴んでいたゴブリンの身体を突き飛ばした。
「ギィイイイイッ!?」
「はあっ……や、やった?」
今までに試した事はなかったが、レナは自分の魔法で「土砂」を操作する事が出来るのならば「岩」も同じように変化出来るのではないかと考え、魔法の力で岩壁を変形させてゴブリンを引き剥がす事に成功した。
上手く行く保障はなかったが、土いじりを行う際にレナは小さな「砂」の形を自由に変える事が出来る事を知っていたため、もしかしたら砂よりも大きい岩でも同じことが出来るのではないかと前々から考えていた。結果は成功し、ゴブリンを引き剥がす事に成功するとレナは安堵の息を吐く。
「よいしょっと……ふうっ、どうにか助かった」
ゴブリンを突き飛ばした際に作り上げた棘を足場にしてレナは身体を休ませると、唐突に魔法を使い過ぎた時に訪れる頭痛に襲われる。
どうやら土砂を操作する時よりも岩のように硬くて大きなものを変形させる方が魔力を消耗する事が発覚し、どうにか眩暈が収まる頃にはレナは岩壁をよじ登って地上へと辿り着く。
「ふうっ……こんなに大きな崖から落ちそうになったなんてじーじに話したら驚くだろうな。でも、初めて僕一人で魔物を倒したんだ」
レナは激流に飲まれたゴブリンの姿を思い出し、結果的に自分の行動で遂に魔物を倒した事を自覚したレナは身体が震え、誰の力も借りずに自分の力だけで魔物を倒した事を実感した。
勝利の興奮と生きのこった事への安堵感を味わいながらもレナは荷物を墜としてしまった場所に戻ろうとした時、村の方角から舞い上がる黒煙の数が増えている事に気付いた。
「な、何だあれ……一体何が起きてるんだ!?」
村から次々と舞い上がってくる黒煙を見てレナは激しい不安と恐怖を覚え、急いで村に戻るために荷物を放置して駆け出す。
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