第10話 村の異変
「じーじは凄く強いんだね。素手であんなに怖い魔物を倒すなんて……俺は怖くて最初は動く事も出来なかったよ」
「ん?何だ、さっきから黙っていたと思えばそんな事を気にしていたのか」
帰り道の途中、レナは自分が何も出来なかった事を落ち込みながらカイに話しかけると、カイは笑顔を浮かべて振り返り、レナの頭を撫でる。
「レナ、勘違いしてはいけないぞ。じーじだってゴブリンが現れた時は怖いと思ったんだ」
「えっ……そんなの嘘だよ、あんなに簡単に倒したのに」
「いいや、怖かったさ。というより、じーじは狩猟に出るときはいつも怖いと思ってる」
「いつも?」
カイの言葉にレナは信じられない表情を浮かべるが、カイは自分の手斧に視線を向け、もう片方の腕でレナの頭を撫でながらカイはゴブリンを相手に戦った時、何を考えいたのかを語り出す。
「儂はな、魔物と戦うときはいつも怖い。例え、相手が小さくて力が弱そうな相手でもな。怖くて逃げだした事もあるぐらいだ」
「でも、じーじは一人であっという間に倒したよ?」
「レナ、儂がどうして奴等と戦ったと思う?それはな、お前が傍に居たからだ」
「僕が……?」
「もしも儂一人だけだったらゴブリンが3体も見かけたらすぐに逃げ出していただろう。いくら力の弱い相手と言えど、自分よりも数が多ければ決して油断ならん。特にゴブリンのような魔物の中でも悪知恵が働くような魔物が相手だとな」
「なら、なんでさっきは逃げなかったの?」
「いいかレナ、どんなに怖いと思っても人というのは逃げられない時がある。ならば恐怖に打ち勝ち、立ち向かう勇気を持たねばならんのだ」
「勇気……」
「あの時、儂がゴブリンから逃げなかったのは背中にお前が居たからだ。もしも儂が逃げたらゴブリンどもは儂よりも小さいお前を狙うかもしれん。だからこそ儂は戦ったのだ。お前を守るため……それに儂自身のために」
「じーじ……」
カイはレナの両肩を握り締めると笑顔を浮かべると、レナも自然と笑い返す。2人は手を繋いで山道を降りようとした時、カイは異変に気付いた。
「……あれは!?」
「じーじ?」
村が存在する方角に視線を向けると、何故か黒煙が空に舞い上がっている光景が視界に入り、それを見たカイは嫌な予感を覚えてレナに告げる。
「レナ!!じーじは先に帰る!!お前は一人で後から追ってこれるか?」
「え?あ、うん……ここからなら一人で戻れると思う」
「よし!!もしも魔物と出会った時は無理に戦おうとせず、逃げるのだぞ!!じーじは先に行く!!」
「あっ!?」
カイは村の方角に向けて急いで駆け出し、慌ててレナも追いかけようとしたがカイは老体とは思えぬほどの俊敏さで山道を駆け下りるとあっという間に姿を消してしまう。残されたレナは荷物を抱える事もあって途中で追いつくことが出来ず、立ち止まってしまう。
老体とは思えぬ速度で山の中を駆け巡るカイに対し、一応は普段から山の中で過ごして他の子供たちよりも体力や足の速さには自信があったレナも付いていけず、一度足を止めると疲れて動けなくなった。
「はあ、はあっ……じーじ、足速すぎ……もう見えなくなった」
山を下りて村に戻るまでかなりの距離が存在するため、レナはカイを追いかけるのを辞めて仕方なく歩いて戻る事にした。
だが、歩いている間にも村の方角から黒煙が舞い上がる様子を見て不安を抱く。このまま村に戻れば何故か嫌な予感を抱く。
(一体何が起きてるんだろう。まさか、火事!?誰も怪我してないといいんだけど……)
煙を見ながらレナは知らず知らずのうちに歩む速度を早くして村に戻ろうとした時、背後から茂みが揺れ動く音が聞こえ、驚いたレナは振り返る。そこには茂みの中からレナを見つめる二つの眼が存在し、それを確認したレナは恐怖を抱く。
やがて茂みから現れたのは棍棒を握りしめたゴブリンであり、どうやら先ほど逃がしたゴブリンらしく、ずっとレナ達の跡を尾行してきたらしい。カイがいなくなったことで一人取り残されたレナを狙い、姿を現したのだろう。
「ギギイッ!!」
「うわぁっ!?」
額に傷を負ったゴブリンがレナの背中に飛び掛かり、そのまま地面に押し倒す。だが、坂道であった事が功を奏し、運よくレナに乗りかかろうとしたゴブリンは体勢を崩して転倒してしまう。
「ギィアッ……!?」
「いててっ……お、お前!?さっきの……!!」
レナは自分に襲いかかって来たゴブリンの額を見て先ほど自分が仕留めそこなったゴブリンだと気づき、慌てて背中に抱えていたボーガンを引き抜こうとするが、押し倒された際に弦の部分が切れてしまっていた。これでは矢を射抜く事も出来ず、逆にゴブリンが攻撃を仕掛けてきた。
ゴブリンは握り締めていた棍棒をレナに向けて振り下ろし、咄嗟にレナは抱えていたボーガンで受け止めるが、小柄な体型でありながらも大人顔負けの力で振り下ろされた棍棒によってボーガンは粉砕してしまう。
武器を完全に失ってしまったレナは慌てて荷物を放り出して坂道を登り、ゴブリンから逃げ延びようとした。
(小さいのになんて力なんだ……これが、魔物……!?)
坂道を登りながらレナは後方を振り返ると、ゴブリンは足元に落ちたレナの荷物を振り払い、棍棒を口に抱えた状態で四足歩行でレナの後を追う。その目は血走っており、確実にレナを殺すという強い意志を感じた。
ゴブリンに追いつかれないようにレナも必死に駆け抜けるが、先ほどカイを追いかけるときに走り続けていた事で体力も消耗していたことが仇となり、徐々にゴブリンとの差が縮まる。このままでは間違いなく追い抜かれてしまうと考えたレナは必死に生き延びるための方法を探す。
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