第9話 感情の隠し方
「ギギイッ!!」
「ギイイッ!!」
「ギッギッギッ……!!」
完全に取り囲まれたレナはカイと背中合わせになると、慌てて新しい矢をボーガンに装填しようとしたが、レナが動く前にカイは正面に立つゴブリンに向けて一歩踏み出す。
その行為にカイの対面に存在するゴブリンは警戒したように握りしめた棍棒を構えると、カイは手斧を突き出す。
「これを見ろ!!」
「えっ?」
「ギイッ!?」
「ギィアッ?」
「ギイイッ?」
カイが手斧を突き出すと3体のゴブリンとレナは彼が差しだした手斧に視線を向け、それを確認したカイは手斧をあろうことか上空へ向けて放り投げる。
わざわざ手にしていた武器を投げ飛ばしたカイの行為にゴブリン達とレナが呆気に取られた瞬間、カイは正面に立つゴブリンに向けて駆け出す。
「ぬぅんっ!!」
「ギャアッ!?」
「ギギイッ!?」
「ギィイ!?」
上空に放り投げられた手斧に注意を引かれていたゴブリンはカイの接近に反応が遅れてしまい、その隙を逃さずにカイは拳を握り締めると老体から繰り出したとは思えぬ程の勢いでゴブリンの頭部を撃ち抜く。
まるで巨人に殴りつけられたかのように強烈な衝撃を受けたゴブリンは後方へ吹き飛び、顔面を陥没させた状態で地面に倒れ込む。その様子を目撃した残りのゴブリン2体は呆気に取られ、慌てて棍棒を構える。
一瞬にしてゴブリンを1体倒したカイは残りの2体に視線を向け、特に慌てた様子もなく手にこびりついた血液を振り払う。その様子を見ていたレナは身体を震わせ、普段の自分の知っているカイとは別人のような気迫を放つ彼に戸惑う。
「ギィイイイッ!!」
「ギギイッ!!」
「ふん、逃げずに残ったか……だが、もう遅い」
「じ、じーじ?」
ゴブリンを一撃で殴り殺したカイは首を鳴らしながらレナの元に近付くと、彼を安心させるように頭を撫でた後、近くに存在するゴブリンを睨みつける。
「かあっ!!」
「ギィアッ……!?」
カイの気迫を受けたゴブリンの1体が1歩後退ると、先ほどカイが上空へ放り投げた手斧が回転しながらゴブリンの頭上に落下し、見事に頭部へ刃が食い込む。死角からの攻撃を受けたゴブリンはなにが起きたのか理解できない表情を浮かべながら膝を崩し、頭から激しい出血をしながら絶命した。
残されたゴブリンは瞬く間に他の仲間が敗れた事を知って怖気づいたのか足元を震わせ、そんなゴブリンを見てカイは鼻を鳴らすと地面に膝を崩した状態で死亡したゴブリンの元へ近づき、手斧を回収しようとする。
「さて……ぬんっ!!」
「わあっ!?」
手斧が頭部から引き抜かれた瞬間、ゴブリンの頭部に血飛沫が舞い上がり、ゴブリンの死骸が地面に転倒する。そしてカイは残されたゴブリンに視線を向けると、ゴブリンは恐怖の表情を浮かべて逃げ出した。
「ギ、ギィイイッ!!」
「あっ……ま、待て!!」
逃走を開始したゴブリンにレナは咄嗟に新しく矢を装填したボーガンを構えると、ゴブリンの背後に向けて矢を放つ。
逃げ惑うゴブリンの頭部に向けて矢は放たれ、背後から接近してくる矢に気付いたゴブリンが振り返ると、レナの撃ち込んだ矢はゴブリンの額を掠めて樹木に突き刺さる。
「ギィアアアッ!?」
「あっ……」
「……惜しかったな」
ゴブリンは額から流れる血を抑えながら逃げ惑い、木々を潜り抜けて姿を消す。その様子を見たレナは何時の間にか自分の腕が震えていない事に気付き、そんな彼にカイは頭に手を伸ばす。
「いいかレナ、攻撃をする際に自分の感情を隠しきれない場合は今の儂のように相手を他の事に気を取らせればいい。とにかく何でもいいから相手の意識を自分から外させ、他の事に集中させれば攻撃の意思も気付かれにくい。そういう点ではレナ、お前の最後の攻撃は駄目だったな」
「うっ……ごめんなさい」
攻撃の前にわざわざ言葉を口にして相手の注意を引いてしまった事は反省しなければならず、もしもレナが黙ってゴブリンに攻撃を仕掛けて居たら十分に仕留める可能性はあった。
カイはレナの頭を離すと自分の手斧に視線を向け、そして倒れているゴブリン達に視線を向ける。
(それにしてもゴブリンがこんな山の麓の方まで降りてくるとは……む?こいつらが身に着けているのは人間の子供の衣服か?一体何処で手に入れたのだ?)
ゴブリンの死骸を見てカイは疑問を抱き、通常の野生のゴブリンは身を守るために動物の毛皮を身に着けるのに対し、カイたちを襲ってきたゴブリンが身に着けていたのは人間の衣服だった。
この近くに存在する村はレナ達が暮らしている村しか存在せず、過去に村に侵入して村人の誰かの家に忍び込んで衣服を盗んだと考えたが、それにしては疑問が残った。
(村の中で衣服を盗まれたという話は聞いた事がない。そもそも儂等の村には子供はレナしかおらんはず……ならばこの服は何処から調達してきたのだ?)
カイはゴブリンが身に着けている衣服の出所が気にかかり、念のために衣服を調べてみるが手掛かりになるような物は見当たらず、仕方なくカイは今日の所は引き上げて村の人間に報告に向かう事にした。
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