第7話 付与魔法 〈地属性〉
「村長さん、別にいいよ。すぐに終わらせるから待ってて」
「おお、いつもすまないな……あのバカ息子め、何処へ行き追ったんだ全く!!」
「仕方がないのう……レナ、儂はここで待っているからすぐに戻ってきなさい」
「うん、分かったよじーじ……いや、爺ちゃん」
村長の前なのでレナは「爺ちゃん」と呼び方を変え、流石にこの年齢になると人前で「じーじ」と呼ぶのは恥ずかしいらしく、カイは朗らかな笑みを浮かべながらレナを見送った――
――村長の案内の元、雑草だらけの畑の前に辿り着くとレナは地面を確認し、随分と荒れ果てている事に気付いて村長へ振り返る。
「ここでいいんですか?今回はどれくらいの規模をしますか?」
「ああ、そうだな……とりあえず、今日のところは雑草だけでも処分しておきたい。悪いが根本の部分から雑草を掘り起こしてくれんか?」
「分かりました。なら、待っててくださいね」
レナは村長の言葉に頷き、両手を地面に押し付けると瞼を閉じて集中する。やがてレナの手元に紅色の光が滲みだし、それを見た村長は感嘆の声を上げた。
「おおっ……この光が魔力という奴か?」
「はい、爺ちゃんの話だとこれが地属性の魔力らしいです……」
手元に紅色の魔力を滲ませながらレナは意識を集中させ、やがて手元の土砂が蠢き出し、畑の地面全体へと広がっていく。そしてレナは目を見開いて自然とある言葉を口にした。
「
「ぬおっ!?」
レナがその言葉を口にした瞬間、地面に生えていた雑草が一気に根本の部分からはじき出され、地上に放り出される。地面に根付いていた植物さえも土砂を操作すれば排出する事が可能らしく、地上には大量の雑草が放り出され、更に地面を掘り起こす。
雑草の根ごと地中から掘り起こしたあと、更に地上に出現した雑草を一か所に集める。その後に土砂を列状に盛り上げると、まるで大人数で耕したか後のように整頓された畑が出来上がった。
「ふうっ……こんな感じですか?」
「あ、ああっ……昔より、随分と凄い事が出来るようになったな」
「まあ、毎日こんな風に練習してましたから……」
地上に排出された雑草の山を見て村長は驚愕の表情を浮かべ、後は雑草を回収して畑を整えるだけで十分な状態に陥ると、村長は感謝の言葉を口にする。
「そうなのか……ところでさっき、何か口にしていたがあれはどういう意味の言葉なんだ?」
「いや、僕もよく分からないんです。ただ、気づいていたら口にしてたというか……」
「ふむ、そうか……もしかしたら魔術師が扱う呪文とやらなのか?」
「さあ、よく分かりません。ただ、この言葉を口にすると魔法が上手く行く気がするんです」
何時の日からかレナは魔法を発動する際、無意識に「地属性」という言葉を口にしていた。レナ本人もどうしてこの言葉を口にするのかは分からなかったが、不思議と言葉を口にすると魔法が上手く発動した。
だが、魔法を使うと体力を消耗するらしく、レナは自分の額の汗を拭ってカイの元へ戻ろうとした時、彼の元に慌てた様子の村長の息子のシバが訪れる。
「お~いっ!!レナ!!ここにいやがったか!!」
「あ、この馬鹿息子が!!今まで何処へ行っておった!?」
「げ、父ちゃん……わ、悪い、ちょっと村の外を見まわりしてたんだよ」
シバの姿を見ると村長が起こったように声を掛けるが、シバは慌てた様子で彼を宥めると、レナの元に駆けつけて腕を掴む。
「それよりもレナ、悪いけど一緒に来てくれよ!!また村の周りに作った堀が埋まっちまったんだ!!」
「ええ、この間も俺が手伝ったのに?」
「そう言わずに付いてきてくれよ!!あれがないのとあるので魔物どもが村の中に侵入してくる数が違うんだからよ!!」
「こ、これ!!まだ話は終わって……!!」
村長を振り切ってシバはレナを無理やりに連れて行くと、村を取り囲む防壁の前まで移動する。防壁と言っても丸太を積み重ねて作り上げただけの壁でしかなく、魔物の侵入様にこの数年の間に作り出しただけの壁だが、防壁の前には大きな堀が存在した。
数年程前から魔物が増殖し、村への被害も増えてきた事で村人たちは力を合わせて村を守るために防壁を作り出したのだが、防壁だけでは魔物の侵入は拒み切れず、折角作り出した畑の収穫物も被害を受けている有様だった。そこで村人たちは防壁の周囲に大きな堀を生み出してみた所、魔物の被害は激減した。そして堀を作り出したのは土砂を自在に操るレナの魔法である。
「ほら、あそこを見てくれよ!!何時の間にか地面が崩れて堀が少し埋まっただろ?多分、この間の雨で地面が柔らかくなって崩れちまったんだろうな……悪いけど、また元に戻してくれないか?」
「本当だ……もう、仕方ないな」
防壁を乗り越えてシバとレナは村を取り囲む堀の一部が崩れている事に気付くと、レナは面倒に思いながらも堀を直す必要がある事を確認する。だが、このまま防壁を乗り越えて外へ移動するわけにもいかず、それにこれ以上にカイを待たせるわけにはいかなかった。
「ごめん、シバ兄ちゃん。これから爺ちゃんと山に向かわないといけないから、堀の方は帰ってきた後に直していいかな?」
「え!?そうなのか……まあ、戻って直してくれるならこっちはいいさ。でも、出来る限り早く戻って来てくれよ」
「うん、分かった。じゃあ、行ってくるね」
「おう!!堀を直してくれたらうちの野菜をまた分けてやるからな!!」
シバと堀を直す約束をした後、レナは急いでカイの元へ急ぐためにシバと別れる。残されたシバは地面が崩れて埋もれてしまった堀の一部に視線を向けると、頭を掻きながら覗き込む。
「それにしてもなんで急にこの部分だけ埋まったんだ?朝までは崩れてなかったのに……まあ、レナが戻るまで俺が掘り起こしてやるか」
面倒に思いながらも安全面の考慮のため、シバは村の仲間を連れてレナが戻るまでの間に堀に埋まった土砂を掘り起こす準備をしようとした――
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