第6話 地属性の魔法

「レナよ、何時からこんな事が出来るようになったのだ?」

「え?さあ……何となくやったら出来たよ」

「貴方、やっぱりレナは魔術師なのよ!!凄いわ、私達の子供が魔法を使えるなんて……!!」

「う、うむ……そうだな」



ミレイはレナの頭を撫で上げ、魔法を使える事を非常に喜ぶ。だが、カイは浮かぬ表情をし、空き地に出来上がった畑を見て冷や汗をかく。



(この光景を見る限り、恐らくレナは地属性の魔法を扱えるのか……だが、この秘密を他の人間に話していいのか?)



人間の魔術師は滅多に存在せず、もしもレナが魔法を使える事を知られれば村人中に伝わるだろう。それだけならまだしも、仮に村の誰かが外部から訪れる人間、あるいは村の外で暮らしている友人や親類にレナの秘密を明かせば厄介な事になるかもしれない。


魔術師という存在は希少で魔法を扱えるだけでも有名になってしまう。もしもレナの扱う魔法に興味を抱いた者達が訪れた場合、面倒な事態に陥る可能性もあった。



(魔術師は多くの人間から求められてしまう。もしも冒険者や国の兵士に知られればレナを勧誘しようとする輩もいるかもしれん。だが、今のレナは幼過ぎる……それにこの子が儂等から離れるなど考えたくもない)



カイはレナの頭を撫でながら考え込み、他の人間にはレナが魔法を扱えることを秘密にするべきだと提案しようとした時、3人の背後から驚いた男性の声が上がる。



「こ、これはどうなってるんだ!?なんで空き地に畑が!?」

「ぬっ!?お主は隣の……」



姿を現したのはカイが鍬を借りた隣の家の住民の男性が現れ、空き地に出来上がった畑を見て驚きを隠せない。彼は畑に歩み寄ると地面を確認して戸惑う。



「おい、カイさん!!この畑はあんたが一人で耕したのか?でも、さっきまで俺達と一緒に商人の所に居たのに……まさか、ミレイさんがやったのか?」

「いや、それはだな……」

「聞いて下さいお隣さん!!実はこの子が、レナが一人でやったのですよ!!」

「えへへっ……」

「れ、レナ君が?どういう事ですか?」

「ああっ……」



男性の言葉にミレイは誇らしげにレナを掲げながら説明すると、カイは止める暇もなく彼女は話し始める。義理とはいえ、自分の子供が魔術師である事実を知った彼女は興奮を抑えきれず、事の顛末を全て話してしまう――





――この日からレナは地面に掌を押し当てるだけで土砂を操作する魔法が扱える事が村人全員に知られ、彼等は驚かされるがほぼ全ての人間がレナが魔術師であったことを祝福した。まさかこのような辺境のしかも50人もいない村に魔術師が誕生した事を喜ぶ。だが、カイの提案によってレナが魔法を扱える事は村人だけの秘密となった。


それから5年の月日が経過した頃、レナは10才になると大人達の手伝いをして生活するようになり、今までカイが行っていた朝の水くみを始めに農作業の手伝いや狩猟も共に出かけるようになった。



「じーじ、準備は出来たよ。今日も山へ行くんでしょ?」

「ん?もうそんな時間だったか……婆さんや、行ってくるぞ。今日は遅くなると思うから儂等の昼食は用意しなくていいからな」

「はいはい、分かりました。気をつけていってらっしゃいませ」



10才を迎えて成長したレナと共にカイは起き上がると、ベッドで横になっているミレイに話しかける。彼女は1年程前から足が不自由になり、残念ながら最近では料理以外の家事は全てレナとカイが負担していた。カイの方も5年前と比べると少し老けてしまったが、それでも日課の狩猟を行う。


少し前からレナも狩猟の手伝いをさせられるようになり、基本的には荷物持ちを行いながらカイから狩猟の仕方を教わっていた。最近では弓矢を使う練習も行い、今日は本格的にレナ一人で獲物を捕獲するために山に出向く予定である。



「レナ、準備は出来たか?荷物は持ったな?」

「水筒と弁当と後は解体用のナイフと弓矢は持ったよ」

「うむ、ではこれを渡しておこう。薬草から作り出した塗り薬だ。簡単な怪我ならばこれで治るからな、肌身離さず持っておるのだぞ」

「うん、分かった……じゃあ、ばーば行ってきます!!」

「はい、行ってらっしゃい。気を付けてねレナちゃん、それに貴方も……」

「ああ、お前も無暗に外をうろつくのではないぞ。最近は魔物共も村の中に侵入してくるようになったからな。全く、見張り番は何をしているのだが……」



レナとカイは荷物を揃えると家を出発し、山へ向かおうとする。村からそれほど遠くはないので何事も問題がなければ今日中に帰り着ける予定だが、念のために夜営の準も行う。そして二人が村の外へ出ようとしたとき、村長が二人を引き留めた。



「ああ、丁度良かった!!良かった、まだお主等は残っていたのか!!」

「村長?どうかしたのか?」

「おはようございます」



村長に引き留められた二人は不思議そうに振り返ると、村長は急いだ様子で駆けつけてレナの手を掴む。



「すまん、レナ……うちの息子がまた勝手に仕事をサボって抜け出したようでな。今日は新しい畑を作り出す予定だったのに人手が足らんのじゃ。どうかまた、お前の魔法をお願い出来んか?」

「えっ?」

「村長、またか?先週もロノマの家の畑もレナが手伝ったばかりではないか」

「勿論、只とは言わん!!収穫物の1割を渡す、これで引き受けてくれんか?」



息子が不在の中で畑を耕す事になった村長はレナに頼み込み、深々と頭を下げる。そんな村長の姿にレナは困った表情をカイに向けると、カイはため息を吐き出す。

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