創世記10

創世記10は、二部構成デス。コマリマンネン。(バングラデシュ人バイトのサニィ)


〜逆襲の肩幅〜


三又又三は仕事に明け暮れた。チョコプラの肩幅と上沼恵美子の成敗など、疾うの昔に忘れ去った。「俺は主人公なんかじゃない。家族を養わなきゃいけないんだ。」

寝静まっている家族、はたまたお隣さんを起こさない様、そぉっと分厚いドアを閉め、鍵をかける。「今日もまた一日が始まる。」最後にそう感じたのはいつの事だろう?最早一日と云う単位に意味はない。テレビの決定権などは、家族に譲ってしまった。Netflixとクイズだらけのバラエティ番組に、曜日の感覚などは殺されてしまったのだ。もう何年も、ダウンタウンをテレビで観ていない。


三又はワンツー・ファイブ(アドレスv125G)に跨りユーミンのベストを聴きながら会社に向かう。財布には2000円。

ストーリーテラーはストーンズの名曲を思い出してしまいました。「もしかしたら2000 man って、三又の事なんじゃね?」

Don’t you know I’m a 2000 man and my kids, they just don’t understand me at all.

しかし三又の脳裏にこの曲は浮かばない。彼は確かにこの曲を知っているのに。

三又のワンツーには持病があった。俄かに、スピードメーターが動かなくなるのだ。それはまさしく、三又本人の生き条のサジェスチョン。三又は赤信号でソレを思い切り叩く。メーターはまた動きだすが、三又のその手刀に、空中元彌チョッパーの名残は無かった。通行人Aからすれば、それはキレのない、くたびれたオッサンの癇癪にすぎない。

三又が向かう先、それは虚しく小さい、町工場の集合地域である。オヤジ達の生息地ハビタット。オヤジ達のペーソス。

無糖の100円缶コーヒーを片手に登った工場の屋上から見渡す景色は、それはそれは寂れていて、大気には錆びれた鉄粉が紛れている。

昔熱中したファイナルファンタジー。あれに、こんな工場地帯みたいなステージがあった。所謂スチームパンクが、カッケーと思った。今や名前すら思い出せないあの場所も、こんな臭いだったって事だな。

三又はFFⅦのリメイクがリリースされている事を知っている。しかしプレイしたいと云う感覚が湧いてこない。三又又三はもう何年も、トキめいていない。

「—うるせぇな。」

鬱陶しいカタカタカタカタと云う音に振り返れば、室外機の網目状のカバーが内側に向かって破れている。ファンに干渉しているのだ。

「ああ。」三又は納得して屋内に戻る。

溢れた納得の意味、それは、「異音を解決する必要はない。」と云う無意識。

「それは俺の仕事ではない。まぁ、誰かがやるっしょ。」と云う無意識。

数年前までの三又なら意識して無視していただろう。しかし今や、そんな根っからの面倒臭がりすらも、意識する事ができない。確かに煩いと思った。確かに鬱陶しいと思った筈なのに、納得を決め込んだのだ。

—風に煽られた薄っぺらのスチールドアが背後で大きな音を立てて閉まった。


定時であがり、#ラジコで #スカロケを聴きながら帰宅する。ちなみに、三又のお気に入りだった #ジョージとシャウラ のラジオは終了した。#映画秘宝 もしんだ。

湯船に浸かり、三又又三は熟考する。自分がどんな女とセックスをしてきたのか。色々な女がいたもんだ。それだけが、自分がこの世で唯一成し遂げてきたヒストリーなのではないかと思い、不安になる。しかしそんなヒストリーさえも、周りの人間には取るに足らない滔々と流れ去っていく他人の過去なのだ。はたまた、その、一晩を共にした女達にとってさえも。

三又又三、二度にたびの熟考。

何故オーランドブルームがセックスをするとゴシップになり、インターネットで賛否の声が上がるのに、俺の場合はそうならないのだろうか?俺がセックスをした相手は、皆んな輝いていた。皆んなイキイキしていて、人生に希望を持っていた。一人一人が、人として、最高だった。俺がB専だっただって?そんな筈はねぇよ。

それは、ストーリーテラーとしても否みざるを得ません。『20代に隠れた50代』あの、バカみたいにクソ・イージーだったアドバタイズメント。皆様の世界では、まだあの広告は蔓延っているでしょうか?三又は、あの中から50代を刹那で見極められる程の男でありました。

これを誇らしく思えば、かの女達は「よゆーでしょ」などと溢すのだが、男として、この女達のスカウターに及んでいる我こそは、やはり てんからのフェミニストだと胸を張ってイキっていたのが、あの頃の三又である。

何故なんだ?何故オーランドブルームは…

三又は、今となっては、そんな事も分からないバスタブの中の一匹狼オトコなのだ。

10年近く、毎晩この問いと闘って来た。それはきっと、三又が一生向き合っていく哲学なのだろう。

そんな事もあり、当時、三又又三は息子にオーランドブルームの名を授けたのだった。「お前のセックスは輝くぞ。」「俺の様に、意味のない問いに慮るな。好きなだけセックスをして、希望を持った大人になりなさい。」「お前は何をやってもいい。何故ならお前は主人公だから。」

三又・オーランドブルーム・又三が、爆誕した。

そんな息子も、今では「今なら100連ガチャ無料。え、リセマラなしでこんなサクサクって、運営アホちゃう?クソワロタ。ヌルゲーすぎるんだがwww」などと云うアホ丸出しのコピーをツイートし、オーブ的なモノを貯めるのに勤しんでいる、すれっからしのニキビ小僧なわけだ。

もちろん三又はそんな息子の、ネットでのイキリ極めた畢竟など知らない。

この世界で全知全能たる私、ストーリーテラーは、こんなにも残酷な実情を彼に突き付けなければならないのでしょうか?はたまた彼はもう知っているのかもしれない。知らないフリをしているだけなのかもしれません。つまりそれは、この…ストーリーテラーにさえもウソをついていると云う事。(三件に一件は貰い事故なんだッ)


三又が風呂を上がると、リビングではいつもの様にクイズ番組が流れていた。

「ヒトパピローマウイルスよ!こんなの簡単じゃない!」小井森が咀嚼した米粒を飛ばしながら叫ぶ。昔はもっと、エレガントな妖精フェアリーだった。

「そろりそろり。正解は、ヒトパピローマウイルスじゃ。」

「オッオーッ・スパゲティオス!母さん凄いね。」

「イ・ルフェよ!」

「黙れマン毛。そのイラつくフランス語やめろよ。母親だろうとちょーしのってっと、殺すぞ。」

そんな二人のやりとりに、三又は過去の自分を垣間見た。

そしてこの、MCの男達。否応無く、チョコレートプラネットだ。しかしそこに、彼等の魂は残っていない。和泉元彌として、IKKOとして生きていくと云う呪縛の上、彼等はこのクイズ番組などと云う生温いバラエティを一所懸命に守ってみせている。

と、その時だった。

「おい三又又三。まだ生きてるか?これ、観てるか?」それは肩幅の方。「おい1カメ!ぜってぇカメ止めだからな。」

「え。」それはそれは情け無い声が漏れた。(詰まる所、おのののかなのか?)

肩幅はとある計画を進行させていた。

肩幅の方にとって、この退屈な世に必要なモノはセックスでも家族でもなかった。ラジオでも雑誌でも、テレビでも仕事でもない。

彼に必要だったもの、それはマクガフィン。決着。全ては真の和泉元彌後継者を決める為。

「今、三度みたび俺はタルタロスのヴォーウヴァを開く。つまり第三次黙示録。」

「さささっ、サード・アポカリスだって!おめぇ、まだそんな事!」三又はテレビに向かって声を荒げる。(相武紗季のヒジからビーム)

「俺を止めてみろ!勝負だ三又又三!」

三又の三又…否!三又の又三が覚醒した。堰を切ったように江戸っ子言葉が溢れる。

「てめぇはお前を…ぜってぇ許さねぇ。そこで待ってろよークシャテリア。」

「三又又三!もうアナタは闘う必要ないわよ!あなたは父親!主人公じゃないのよ!」


もはや三又は止まらない。あの頃の三又又三、一人の主人公フェミニストであり、一人のフェミニストなのだ!


「黙れ外陰。俺を誰だと思ってやがる。」


(おのののかなのか?倉科カナかなぁ?)


否!三又は今こそ名乗る。


「てめぇは、2000 man だ。」


「行ってきます。」


三又又三の一日が始まる。


次回、創世記10〜帰ってきた三又〜です。あなたと手をチュなぎたいから(韓国人)

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鳩尾の本気 鳩尾 @mizoochi

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