第42節・メルダの死闘
メルダの丘の前では熾烈な戦いが繰り広げられていた。
アルヴィリアの兵士たちは隊列を組み、押し寄せる異形に対し長槍と盾で応戦し、後方の敵に対しては矢と魔術による攻撃が絶えることなく行われている。
しかし、異形たちはそんなアルヴィリア軍の攻撃にまったく足を止めず、高い再生能力による正面突破を強行してきている。
アルヴィリア軍の戦列の一部が大きく崩れた。
トロルのような巨大な異形が兵士たちを吹き飛ばし、戦列が崩れたところから次々と敵が雪崩れ込んできている。
それにより他のところも崩れそうになるが……。
「ロイ! デカブツをやるぞ!!」
「ああ!」
辺境伯の若き騎士たちが敵に向かって突撃を行っていた。
途中で四本足の獣型の異形に飛びかかられるが、エドガーはそれを避け剣を振るって胴を引き裂く。
そして異形が倒れ、体内の核が見えるとロイがその核を剣で叩き砕いた。
そのまま二人は駆け出そうとするが近くにいた兵士たちを斬り捨て黒いローブを纏った蛇面の騎士が現れる。
「!!」
騎士が左腕を突き出し、腕から黒い茨のようなものを伸ばすとエドガーとロイは飛び退き、顔を見合わせた。
「エドガー! 先に行け!! こいつは俺がやる!!」
「……分かった!」
エドガーが駆け出し、ロイは死霊騎士の前に立つ。
そしてゆっくりと剣と盾を構えると睨みつけた。
「ずっと待っていた。あの時は親父とお袋を守れなかったが、今は違う! もう、お前たちなんかに負けるか!!」
『何を言っているのか分からんが、死ぬがよい!』
死霊騎士が踏み込み、剣を上から振り下ろしてくる。
それを盾で受け流し、背後に回り込むと即座に敵は茨を伸ばしてきた。
茨に対して盾を投げつけ、絡ませるとその隙に護身用のナイフを引き抜き、投げつける。
ナイフは敵の右肩に命中し、それにより敵が体勢を崩している間に踏み込んだ。
横薙ぎの斬撃を放つと死霊騎士は強引に身をよじって剣で此方の攻撃を受け止めるが、受け止めきれずにそのまま剣が胴の中ほどまで突き刺さる。
『小僧!』
死霊騎士が剣を掴もうとしたため直ぐに引き抜くと後ろへ跳ぶ。
相手が人であれば今ので仕留められていたが、不死者相手では簡単にはいかない。
(首を落とすしかないか……!)
エドガーの話しでは使途などの不死者は首を落とせば暫く動けなくなるらしい。
完全に倒すことはできなくとも無力化できるのであればやる価値はある。
死霊騎士が一歩踏み出すのに合わせてこちらも一歩前に足を出す。
そして……。
「ロイ! しゃがみなさい!!」
その言葉で咄嗟にしゃがんだ。
すると頭上を矢が通過し、敵の胸に突き刺さる。
そのタイミングで此方も相手に飛び込み、斬撃を放つ。
敵は突然矢を受けたことで此方の突撃に対して反応が遅れ、慌てて剣を振るい互いの剣がぶつかり火花が散る。
そのまま押し切るように何度も敵に斬撃を叩き込み、それを敵は弾き続ける。
そして敵が此方の攻撃を弾いた際に大きく体勢を崩したのを見てすぐに剣を上段に構えると振り下ろす。
剣は死霊騎士の右腕に叩き込まれ敵の腕を斬り落とした。
此方は腕を斬り落とした勢いのまま体を捻り、敵の首目掛けて剣を振った。
それにより剣は死霊騎士の首に叩き込まれ、首を撥ね飛ばした。
『お……おのれ……!!』
首を撥ね飛ばされた死霊騎士は膝から崩れ落ち倒れる。
これで何時まで無力化できるのかは分からないがひとまずは勝った。
倒れた死霊騎士を見下ろしていると後ろからミリが駆け寄ってきて「やったわね!」と言う。
「……ああ、やった。これが四年前にできていたらな……」
ミリが首を傾げると「なんでもない」と苦笑する。
そして盾を拾い上げるともう一度倒れた死霊騎士を見てこう呟くのであった。
「親父、お袋。俺、強くなったよ」
※※※
エドガーはトロルが兵士たちを次々と叩き潰しているのを見た。
相手は此方の倍近くある巨人。
それが拳を振り、足を蹴り上げるたびに誰かが殺されている。
「これ以上好きにさせるか!!」
近くに落ちていた槍を拾うとトロルに投げつけ、突き刺す。
「おい! デカブツ!! 俺が相手だ!!」
トロルは己の体に突き刺さった槍を指でへし折ると怒りの咆哮を上げる。
そして大地を揺らしながら突撃を開始した。
それに対してこちらも真っすぐに敵に向かって走り出し、敵が拳を振り上げた瞬間スライディングをした。
振り下ろされる拳を避け、敵の股下を潜るとすぐに振り返り右足首に斬撃を叩き込む。
それによりトロルは一瞬体勢を崩すがすぐに傷口が塞がり、振りかえってくる。
(こいつも再生力が高いか……!!)
やはり敵の核を破壊するしかない。
だがどこに敵の核があるのか分からない上にこう再生が早くては……。
「やべ!!」
トロルが近くにある岩を持ち上げた。
そしてそれを此方に目掛けて投げつけてきたため、慌てて駆け出す。
岩が地面に激突する衝撃に一瞬足をとられ、そこにトロルが拳を振り下ろしてきた。
その攻撃を背後へ飛んで回避するが、強引に跳んだため転びそうになってしまう。
そこへ再びトロルが拳を放ってくるが……。
「はい! ステイ!!」
トロルの腕に鎖が巻き付き、拳が止まる。
更にそこにある人物が飛び込んできた。
ヨシノ・キオウだ。
彼女は大太刀を振るい、「御免!」と言うと拘束されたトロルの腕を斬り落とす。
腕を斬り落としたヨシノはそのまま此方の横に立つと大太刀を構えなおした。
「助かりました」
そうヨシノに言うと彼女は頷く。
「ちょっとー! あたしも助けたんですけどー!!」
遠くでメリナローズが何か騒いでいるが、あっちは無視するとしよう。
「……既に再生を始めているか。厄介だな」
ヨシノの言う通りトロルは斬り落とされた腕を既に再生しており、伸びた腕から指が生え始めているのが見える。
「核をやりましょう。ヨシノ様、敵を開きにできますか?」
「なかなか無茶を言う。だが、やってみせよう!」
ヨシノと頷き合うと駆け出す。
腕を再生し終えたトロルは両腕を振り上げ、此方を叩き潰そうとするがそれよりも早くメリナローズの鎖が巻きついた。
敵は巻きついた鎖を引きちぎろうと暴れ、鎖を伸ばしているメリナローズが振り回されそうになっている。
「ちょ!? い、急いでー!!」
「もう少し待て!」
トロルの股下に飛び込むと敵の両足首に斬撃を叩き込んだ。
それにより敵は膝をついて倒れ、そこに大太刀を振り上げたヨシノが踏み込む。
彼女は大きく息を吸い、吐き出すのと同時に大太刀を振り下ろした。
大太刀は敵を頭から股まで切り裂き、巨大なトロルは体を二つに開かれ胴の中心にある核が剥き出しになった。
「心の臓、穿たせてもらう!!」
ヨシノが大太刀による高速の突きを放ち、核を砕くとトロルは断末魔の叫びを上げながら霧散した。
トロルが倒れたことをしると周囲にいた兵士たちは鬨の声を上げ、崩れた戦列を再び戻そうとし始める。
これで暫くこの辺りは持ち堪えられそうだ。
「予断が許されぬ状況には変わりないか……」
ヨシノの言葉に頷く。
前線はどこも大苦戦だ。
敵の猛攻に対してアルヴィリア軍はどうにか踏みとどまっている状況であり、何かが起きたら一瞬で総崩れになりかねない。
「……とにかく今はリーシェ様が化け物の親玉を倒すまで文字通り死ぬ気で戦うしかない」
遠くからロイとミリが向かってくるのが見えた。
彼らと合流したら再び遊撃部隊として動くとしよう。
そう考えていると突然遠くから兵士たちの叫びに近い声が聞こえてきた。
「ス、スヴェン様が、死んだ!!」
「なっ……」
スヴェン侯爵といえばオースエン大公の重臣であり、オースエン大公の代理を務めていた人物だ。
そんな人物が討ち死にしたとなれば……。
「総崩れになるぞ……!!」
ヨシノたちと顔を見合わせると頷き合い、戦場中央に向かって駆け出すのであった。
※※※
戦場中央は敵の猛攻を受け続けていたため、乱戦となっていた。
兵士たちは隊列を崩し、押し寄せる敵に対して各々の応戦している。
弓兵までもが剣を引き抜き異形に斬りかかっている。
ゲオルグ王も自ら剣を振るい、飛びかかってくる四本脚の異形を斬り倒していた。
異形たちは王がいることを理解しているのか次々と向かって来ており、護衛の騎士たちは奮戦するが一人、また一人と斃れていく。
「臆するな! 踏み止まれい!!」
「陛下!」
護衛の騎士の声で咄嗟に体を捻ると首を槍の穂先が掠める。
すぐに剣を振るい、槍を突き出していた片腕の亡者の首を撥ねると辺りを見渡す。
どこもかしこも死体だらけだ。
覚悟はしていたことだが短時間でこれだけの数の将兵が死ぬと心臓が鷲掴みにされたような気分になる。
「エリウッド! 生きておるか!!」
「ええ、まだどうにか!!」
右の方で息子が腕を振り上げるのが見えた。
乱戦になった時に姿を見失ったがどうやら無事であったようだ。
周囲にいた敵が一通り倒されると皆、一息をつく。
すぐに再び敵がやって来るであろうが少しでも休憩できるのはありがたい。
「……戦況は?」
近くにいた騎士にそう訊ねると彼は前方を指さした。
「中央ではレグリアさまが奮戦。敵を次々と倒しております。その少し後方ではスヴェン侯爵が防衛の指揮を執っており、よく持ち堪えております。ただ両翼は……」
「厳しいか……」
両翼も奮戦しているが次々と兵たちが討たれ、押し込まれているという。
両翼のどちらかが崩れたら中央も一気に危うくなるであろう。
(中央の兵を少し両翼に回すべきか……?)
いや、それをやって中央が突破されては意味がない。
キオウ軍が遊撃隊として前線を転戦して貰っている。
彼女たちに頼らざるおえないか……。
「両翼の軍にはそのまま持ち堪えるように伝えよ。もう間もなく援軍が来るはず。それまで粘るのだ」
「は!」
騎士が伝令の兵に指示を出し始め、伝令たちが一斉に散らばり始める。
そしてほぼそれと同時に前線から声が聞こえた。
「ス、スヴェン様が死んだ!!」
「!!」
声の方を見ればトロルのような怪物が中央を突破し始めており、兵士たちが逃げ回っている。
(いかん! 総崩れになるぞ!!)
指揮官の死と敵の突撃により兵士たちは恐慌状態に陥っている。
恐怖というのは伝播するのが早い。
一部がパニックを引き起こして敗走すると残りの部隊も逃げ出すものなのだ。
味方の敗走を止めるには最早自分が最前線に出るしかない。
そう判断し、馬を駆り前進しようとした瞬間、背後から何かが横切った。
それは若い娘だ。
黒い髪を風に靡かせ、馬に跨り味方の間をすり抜けて行く。
そんな彼女の後姿を見ると思わず口元に笑みが浮かんだ。
「英雄の気質……か」
「は?」
近くにいた騎士が首を傾げたため「何でもない」と苦笑すると剣を振り上げる。
「我らも前進するぞ!! 兵たちをまだ終わっていないと鼓舞するのだ!!」
「は!!」
王の号令の下、兵たちが敵に向けて前進する。
それにより戦場中央で更なる激戦が繰り広げられるのであった。
※※※
最前線中央では兵士たちがパニックを引き起こしていた。
自分たちを指揮していたスヴェン侯爵がトロルの突撃によって戦死し、兵たちの統制が乱れた。
その混乱の最中に他の貴族も次々と戦死したため、完全に指揮系統が崩壊し戦意の尽きた兵士たちは敵に背を向けて逃げ出し始める。
まだレグリアが率いる聖アルテミシア騎士団などは敵を押し返そうとしているが最早彼女らだけではどうすることもできずアルヴィリア軍は総崩れをし始める。
アルヴィリア王家の旗を持ち敵に背を向けて逃げていた兵士が背後から死霊騎士に貫かれ斃れる。
あちこちで兵士たちの悲鳴が上がり、それを見た他の兵士たちも絶望していく。
「も、もう駄目だ……」
誰かがつぶやいた。
この戦い、負けた。
いや、そもそも勝負にすらならなかったのだ。
敵は不死の騎士や驚異的な再生力を持つ異形の大軍。
そんなものに人間が勝てるはずがない。
自分たちは今日ここで死ぬ。
きっと世界も自分たちが死んだ後に滅びるのであろう。
人はきっと滅びる定めだったのだ。
そう誰もが絶望していた。
そんな中、一陣の風が吹いた。
押し寄せてくる異形に対して火や水、雷に風を叩き込み次々と吹き飛ばしていくその姿。
それはまるで戦場に降り立った女神のようであった。
「あ、あれは……?」
「黒髪の娘……、シェードランか!!」
敵に向かって突撃を敢行しているのはルナミア・シェードランであった。
彼女は進路上にいる様々な異形を吹き飛ばしながら進み続ける。
彼女の右手には剣が、左手には白い杖が握られており、先ほど旗を持った兵を貫いた死霊騎士に向かって行く。
死霊騎士はルナミアの姿を見ると腕から黒い茨を伸ばし、それをルナミアは杖で受けるとそのままかき消した。
己の魔術が消されたことに死霊騎士が動揺するとルナミアは馬から飛び降り、そのまま剣を振りながら死霊騎士に飛びかかった。
死霊騎士はルナミアの剣を己の剣で受け止めるが、即座にルナミアは背後に回り込むと後ろ蹴りを放つ。
腰に蹴りを受けた死霊騎士は大きく体勢を崩し、慌てて振り返ろうとした所にルナミアは杖を敵の胸に突き刺した。
すると不死であるはずの死霊騎士は膝から崩れてまるで塩の柱のようになり砕け散る。
「……た、倒したぞ?」
誰かがそう言った。
絶対に倒せるはずがない敵をあの娘は颯爽と現れ倒してしまったのだ。
兵たちはその光景に目を奪われ、逃げるのを止める。
周囲の注目を浴びたルナミアは剣を鞘に納め、落ちていた旗を拾い上げると自分の馬に跨る。
「アルヴィリアの兵士たちよ! 見ての通り敵は倒せる!! 私たちは敵に勝利することができる!!」
ルナミアが旗を大きく振り、双頭の鷲の旗を靡かせる。
「今こそ己の責務を思い出せ!! 王家に忠誠を! アルヴィリアに勝利を!! 人の未来を切り拓け!!」
「そ、そうだ! まだ終わっちゃいねえ!!」
太陽を背に旗を掲げるルナミアの姿に兵士たちは拳を振り上げ、絶望に沈みかけていた心に希望を抱かせる。
そして再び前を向き出し、終末の群れに抗おうとすると誰かが指差した。
「え、援軍だ! 援軍が来たぞ!!」
兵士たちが援軍が来たと言われた方を見れば遠くに横一列に向かってくる部隊が見えた。
それは白銀の鎧を身に纏い、シェードランの旗を掲げた一団。
白銀騎士団が敵側面に対して突撃を敢行した。
騎士団の先頭にはランス を構えたランスロー卿がおり、彼はランス で敵を貫き、馬の体当たりで敵を吹き飛ばしていく。
異形たちは側面に対して完全に無防備であったため、白銀騎士団の騎兵突撃によって大損害を被っている。
それはつまり……。
「好機よ! 全軍、一斉反攻を開始しなさい!!」
ルナミアが旗を片手に敵に対して突撃を行う。
そんな彼女の姿と援軍の到着に勇気づけられた兵士たちは鬨の声を上げ、反撃を開始した。
※※※
上空では私とレプリカを乗せたクレスがバハムートに接近しようとしていたがワイバーン型の異形によって阻まれていた。
千を超えるワイバーンは赤い光線を放ち、クレスは敵の弾幕を掻い潜っていく。
そして口から雷撃を放ち、数十体の敵を焼き払うがすぐに他の敵が群がってくる。
圧倒的な数の差にもかかわらずクレスは善戦しているが、徐々に傷が増え体力と魔力が落ちているのが分かった。
クレスの両翼に二体のワイバーンが張り付いてきた。
ワイバーンは足にある鋭いかぎ爪でクレスの翼を傷つけ、そのまま此方に飛びかかってくる。
それを槍でワイバーンの胸を突き、撃退するとレプリカの方を見る。
レプリカに飛びかかっていたワイバーンはかぎ爪でレプリカを切り裂こうとしたが逆に足を掴まれ振り回された挙句投げ捨てられていた。
うん、私も次はあのくらい豪快に行こう。
そう思っているとクレスが急旋回を始めた。
何事かと思えば沈黙していたババムートが頭を動かし始め巨大な顎門を開き始める。
そして首の骨格をガチガチと鳴らし始めると口内から風の塊を発射した。
風の塊は周囲にいたワイバーンたちを粉々に砕き、大きく旋回して回避していたクレスも衝撃で吹き飛ばされ、私たちは振り落とされないように必死にクレスの背中にしがみつく。
クレスはどうにか体勢を立て直すとその場で一度旋回し上昇する。
『ふぅ……。肝が冷えたのう……』
「今の、ババムートの攻撃!?」
そうクレスに訊ねると彼女は首を横に振った。
『今のは奴が肺に溜まっていた空気を吐き出しただけじゃ。人で言うならば……咳じゃな』
咳!?
今のが!?
ババムートが咳をしただけで周囲のものは全て吹き飛び、地上にも被害が出ているようだ。
『……奴が動いたということは、魔力が溜まってきたということね』
レプリカの言う通りだ。
今までババムートは魔力を貯めるため微動だにしなかった。
それが此方に反応して動いたということは、もう間も無く活動ができるようになるのかもしれない。
不完全な状態でもあれが動き始めたら大惨事になるのは間違いない。
早く奴の竜核を砕かなくては……。
『一刻の猶予もない。やはり正面突破しかないか……』
『クレス、やれる?』
レプリカの言葉にクレスは『死したとしても必ずやるお二人を届けます』と言う。
正面ではワイバーンたちがババムートを守ろうと集結している。
あのど真ん中を行くのはどう見ても無謀だ。
だが行かねばらならない。
レプリカが『ごめんね』とクレスの背中を撫でるとクレスは嬉しそうに目を細める。
『では、行くぞ!!』
クレスが大きく羽ばたき加速する。
それに合わせて敵の大群も動き始め、両者が激突しようとした瞬間。
『……!!』
クレスが後ろに飛び退く。
何事かと思えば右方の雲から突然竜巻が現れたのだ。
竜巻はワイバーンの群れを次々と引き裂き、横から突然攻撃を受けた敵は散らばって行く。
竜巻が放たれた雲にいくつもの影が現れたのを見ると私は「新手!?」と言うとレプリカが嬉しそうに『いいえ! 来てくれたわ!』と首を横に振った。
雲の中から飛び出してきた巨大な影。
それはドラゴンであった。
鱗の代わりに鳥のような緑の羽毛を見に纏い、四枚の大きな翼で羽ばたくその姿は優雅さを感じさせる。
羽毛のドラゴン以外にも次々と雲の中からドラゴンたちが現れ、その数は百を優に超えていた。
羽毛のドラゴンはクレスの横にくると背中にいる"私"たちに軽く会釈をする。
『おやおや。小さきクレスセンシア。随分と傷だらけじゃないかい? もう少し急ぐべきだったかね?』
『ふん! お主が来なくても儂一人でもどうにかしていたわ!!』
羽毛のドラゴンは『やれやれ』と首を横に振るとレプリカの方を見た。
『少し遅くなりましたが風の眷属、只今参りました。水と土も向かってきていますが間に合うかどうか……』
『風竜王、貴方達だけでも間に合ってくれて助かったわ。……お願いできるかしら?』
レプリカがそう言うと風竜王と呼ばれたドラゴンは頷く。
そしてクレスから離れると咆哮をあげた。
『我が眷属たちよ!! 古き盟約に従い道を切り拓く!! 出来損ないの竜もどきどもに我らの牙の鋭さ、思い知らせてやれ!!』
風竜王の号令と共にドラゴンたちが一斉に咆哮をあげ、敵に向かって突撃を開始する。
それにより進路を塞いでいた敵が散らばり、道ができる。
私はクレスの背中をポンと叩くとクレスは『うむ!』と頷き、再び加速を開始する。
そして敵の防衛線を突破し、バハムートへと接近する。
※※※
私は上空にドラゴン族の援軍が現れたのを見た。
レプリカが何かを呼んでいたのは知っていたがまさかそれがドラゴン族だったとは……。
(これで更に味方を奮い立たせられる!!)
私は背後を振り返り、敵と戦う兵士たちに呼びかけた。
「ドラゴン族までもが我らに味方をした!! この戦い、勝てるわよ!!」
兵士たちが歓声をあげる。
先ほどまでの絶望的な雰囲気は一転して皆闘志に満ちている。
ふと上空を見るとクレスが敵の防衛線を突破したのを見た。
あと少しでリーシェたちがバハムートに辿り着く、それまで持ち堪えられれば。
「ルナミア様! 正面、来ます!!」
兵士の声に正面を見れば骸の軍馬に乗った死霊騎士たちが突撃してきているのが見えた。
どうやらそう簡単には勝たせてくれなさそうだ。
ランスロー卿率いる白金騎士団が私の横に並び、私はランスローと視線を交わすと剣を向かって来る死霊騎士団に向ける。
「迎え撃つわ!! ━━━━突撃!!」
その号令と共に私たちは死霊騎士団に突撃し、両者は正面から激突をするのであった。
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