第41節・英雄の末裔


「それじゃあ……気をつけてね」


 メルダの丘にて私とレプリカがクレスの背中に乗ると見送りに来たルナミアがそう言った。

彼女の他にも辺境伯の仲間たちや王と王子も見送りに来ている。


「そっちも、気をつけて」


 私がそう言うとルナミアは何かを言おうとしたが首を横に振り、微笑んだ。


「帰ったらお父様に自慢しましょう? 私たち、悪い神様をやっつけたんだって」


「レクターおじ様に詩でも作ってもらおう。勇敢な辺境伯姉妹の冒険って感じで」


「おじ様の詩はちょっと……」


 私たちは笑う。

義姉は今生の別れになるかもしれないのに、必ず再び会えると信じているのだ。

だからこそ、私の胸が罪悪感でチクチクと痛んだ。


「……レプリカ、と呼ぶべきか。そなたは我らに思うところがあるであろう。にも関わらず手を差し伸べてくれたこと感謝する」


 王が頭を下げるとレプリカはそれをじっと見つめ、ため息を吐いた。


『別に感謝されることじゃないわ。私にとって人を守るのは当たり前のこと。存在意義だもの』


 そう言うとレプリカは微笑む。


『ゲオルグ・アルヴィリア。過去を省みるのなら人を正しき道へと導きなさい。それがアルヴィリアの名を継いだ者の責務よ』


 レプリカの言葉に王は頷く。

そしてクレスが『ではそろそろ……』と言うと翼を大きく広げた。


 それにより見送りの人々が離れ始め私もクレスの背中にしがみつく。


 そしてクレスがゆっくりと羽ばたくと上昇をし始める。

最後にもう一度地上を見下ろすと此方を見上げるルナミアと目があう。

私は彼女の顔を忘れぬように見つめ、呟いた。


「ばいばい、私の大好きなお姉様」


※※※


 クレスがリーシェ達を乗せ飛び立つのを見届けると私は胸元を抑えた。

何故だろうか。

なんだがもう二度とリーシェと会えない。

そんな気がしたのだ。


(……そんなことを考えてはダメね)


 不吉なことを考えると実現してしまうものだ。

私は義妹を信じ、彼女のための道を切り拓くのだ。


 右手に持つ六合の杖を握りしめ、私は力強く頷くと王の方を向いた。


「では、此方も始めます」


「うむ。我らも敵の襲来に備えるとしよう」


 そう言うと王は兜を被り、王子や護衛の騎士達を連れて前線に向かい始める。

私は王の背中を見送ると仲間たちの顔を見回した。


「皆、きっと大変な戦いになるわ。でも私はこの戦いに勝てると、全員無事に帰れると信じている」


 私の言葉に皆は頷いた。


「エドガー、貴方は皆を率いて一緒に前線へ。叔父様の軍が到着するまではヨシノの傘下で戦って」


「お任せを!」


「ロイ、リーシェが心配でしょうけれども私の義妹を信じましょう。あの子が帰る場所を守るため、エドガーの補佐をして頂戴」


「はい! 必ずや!」


「ミリ、こんな戦いに巻き込んでしまって申し訳ないけれどもまだ力を貸して。貴女の弓で敵を押し返すのよ」


「まっかせなさいって!」


「そして……」


 私はメリナローズを見る。

”蛇”である彼女を信用していいかはまだ悩んでいるが、彼女の力は確かだ。

彼女が協力してくれればどれほど心強いことか。


「メリナローズ、貴女は……」


「そう難しい顔をしなくてもいいわよ? あたし達の利害は一致している。あたしの願いはね? この世界が無事じゃなきゃ果たされないのよ……」


 彼女は笑みを浮かべているがその瞳は真剣そのものだ。

利害が一致する限り協力する。

この言葉は信用してもいいだろう。


「それじゃあ、皆、行動開始よ。コーンゴルドの木に刻んだ約束を果たすため。二年後の千年祭に全員集まるため。未来を切り拓きましょう!」


「応!!」


 私たちは拳を振り上げ、声高々に決意を叫ぶのであった。


※※※


 ”ドーラ”の操縦区画に立つと私は目の前にある巨大な六角柱型の魔晶石を眺めた。

この魔晶石にこれから莫大な魔力を流し込み、バハムートに向かって放つのだ。


「”ドーラ”の件ですが、恐らく撃てるのは一度のみです。先ほどの砲撃により砲身が損傷していますし、大精霊たちの魔力となると魔晶石ももたないかもしれません」


 冷や汗を掻いたドワーフの技師がそう言うと私は頷く。

もとより一発勝負のつもりだ。

撃てるのならそれでいい。


 ドワーフの技師が「ああ、無事に家に帰れるのであろうか……」と呟きながら去っていくのを見ると私はフェリの方を向いた。


「それじゃあ、やるわよ……と言ってもどうすればいいのかしら?」


「んー、普通に? こう、杖を構えて呼びかけてみてください。ルナミア様が呼びかければすぐに全員来ますよー。きっと」


 だ、大丈夫だろうか?

ノリと勢いでいけそうな感じに言ってしまったが実際にやるとなると急に不安になってくる。


(ええい、なるようになれよ!)


 今更できませんは許されないのだ。

フェリに言われた通り、呼びかけてみるとしよう。


 私は深呼吸をし、ゆっくりと瞼を閉じると杖を構える。

ようは魔術と同じだ。

この世界に存在する精霊たちに呼びかけ、力を借りる。

それが今回は精霊王というだけだ。


「……偉大なる精霊王よ。我が呼びかけに応じ、現れよ!」


「あ、別に声に出さなくても精霊王には伝わりますよ?」


「…………」


 顔が赤くなる。

ちょっとそれっぽいことを口に出してみてしまったので恥ずかしいではないか!


(ああ、もう! 精霊王! 来てください!!)


 私は心の中でそう叫ぶと杖が光始める。

そして杖を介して私の体が世界とつながるのが分かった。

自分が自分でなくなるような感覚。

星を走るマナの流れに流されそうになる感覚。

それがとても怖い。

でも……。


「落ち着いて……。自分の魂をしっかりと感じて。そうすれば星に呑まれません」


 自分の魂。

私が私である証明。

心、体、記憶。

それらをしっかりと思い描き、そして力強く杖を振りかざした。


「……来い!!」


 その瞬間、周囲の大地が光り輝いた。

辺りにいた兵士たちが何事かとパニックを起こすが気にしない。

それよりも人界との境界を超え、巨大な存在が現れようとしているのが感じられた。


 そして一際大きく周囲が輝くとまずそれが現れた。


 炎を身に纏い、角を生やした半獣の精霊。

火の精霊王・イフリートだ。


『おうおうおう! いきなり呼び寄せるとは何事だ!!』


 次に現れたのは風を纏い、大きな二対の鳥の翼をもつ女性。

風の精霊王・シルフ。


『あらあら? 呼ばれたと思ったら暑苦しいのも一緒じゃない?』


 三体目に現れたのは体が透き通った水で出来た人魚。

水の精霊王・ウンディーネである。


『ふむ。川の流れから不吉なことが起きていると思っていましたが……』


 四体目に現れたのは岩のような皮膚を持ち、今までの精霊王たちよりも巨大な精霊。

土の精霊王・ティターン。


『……終末の阻止すべく我らを呼び出すか。小さき人の子よ』


 五体目は雷を身に纏った白き巨象。

雷の精霊王・インドーラ。


『こうして一同に会するのは何百年ぶりかねぇ』


 そして最後に現れたのは黒き体毛をもつ巨大な狼。

氷の精霊王・フェンリルだ。


 光と闇の精霊王を除いた精霊王が私の呼びかけによってメルダの丘に顕現するのであった。


※※※


 メルダの丘の前に布陣したアルヴィリア軍は皆、空に浮かぶ巨大な神に圧倒され、怯えながらも間もなく訪れるであろう血戦の時に備えていた。

現在丘に布陣しているのは王率いる本隊とオースエン大公軍、そして聖アルテミシア騎士団だ。

ただし、オースエン大公が”ドーラ”の砲撃によって負傷し、後退したとの事なので現在のオースエン大公軍は王の直轄となっている。


 メルダの丘にシェードラン大公軍も向かっており、ガルグル・メフィル両大公軍にも丘に集結するように伝令を出している。

”ドーラ”の発射まで時間を稼ぐための背水の陣が敷かれていたのであった。


 そんなアルヴィリア軍の中央に馬に跨ったゲオルグ王が居た。

彼はただ静かに前方を見つめ、そんな王を見た兵士たちもじっと正面を見続けた。


「……それにしても精霊王を召喚するなどと。そのようなことがあの娘に可能なのですか?」


 そう訊ねてきたのは横に並ぶエリウッド王子だ。

彼は不審そうな顔をし、”ドーラ”の方を見ている。


「普通の人間ならば、な。だがあの娘ならば可能なのだ」


「父上は以前よりシェードラン辺境伯の娘に注目していました。あの娘に何かあるのですか?」


「…………」


 目を瞑り、沈黙する。

そう、あの娘と、いや、あの娘の血と王家には因縁があるのだ。

それはとても古くからの、互いに忘れようとした因縁。

互いの道が交わることはないと思っていた。

だが……。


(これもまた運命か……)


 あの日、”彼女”の存在を見つけてしまってからこうなることは決まっていたのかもしれない。

千年の節目に全ての清算をしろという女神の思し召しなのかもしれない。

ならば自分はアルヴィリアの王としてすべきことは……。


「この戦いが終わったらお前にも話そう。王家が長年隠し通してきた裏の、真実の歴史を」


「……それは」


 エリウッドが何かを言おうとした瞬間、メルダの丘が光り輝いた。

六つの光の柱が現れ、周囲を照らす。

皆、その光景に目を奪われ口を大きく開けて驚愕していた。


 あの光、間違いない。

ルナミア・シェードランが精霊王たちを召喚したのだろう。

ならば━━━。


「て、敵に動きあり!!」


 前線の兵士の声に全軍に緊張が走った。

前方を見れば崩れた岩山の方から異形の大軍が現れていた。


 それは獣であった。

頭の無い歪の姿をした獣。


 それは亡者であった。

戦場で倒れたアルヴィリア・ディヴァーン両軍の兵が起き上がり、体を白く醜い姿に変化させながら進んでくる。


 他にも伝承に出てくるトロルのような怪物やサラマンダーのような大トカゲなど、様々な異形が群れを成し、此方に迫っていた。


「……あ、あんなのと戦うのか」


 突然現れた異形を見て兵士たちは完全に怯えていた。

無理もない。

いきなり世界を救うために戦えと言われ、訳も分からず集結したら異形の群れが襲って来るのだ。

事前に話を聞き、覚悟を決めていた己ですら恐怖を感じる。

だが、ここで恐怖に負け敗走したら全てが終わる。


 故に兵士たちの前に出た。

兵たちは此方に一斉に注目し、息を呑む。


「皆、混乱しているであろう。なぜこのようなことになったのか。なぜあのようなものと戦うことになったのか。今はまだ全てを語ることはできない。だが、これだけは心してほしい。あれは今、まさに世界に破滅をもたらそうとしている」


 鞘から剣を引き抜き、迫りくる敵の大軍に剣先を向ける。


「あれは終末をもたらす存在。奴らは世界を滅ぼし尽くすまで止まらぬ死の行軍。故に、我らは立ち向かわねばならない! 愛する人々の為に、国の為に━━━━いや、エスニアという世界の為に!!」


 剣を天に突き出す。

そして己の決意を天に誓うように叫んだ。


「アルヴィリアの勇者たちよ!! 今こそ決戦の時!! この一戦に勝利し、歴史に名を刻もうぞ!!」


「おお! おお! おおお!! 我らが王よ!!」


 兵士たちが武器を天にかざし鬨の声を上げる。

互いを励まし合うように、この世界を守るのだという決意を表すために。

力いっぱい叫び続ける。


 その姿に頷くと各軍団を指揮する将軍たちが号令を出し始める。


「歩兵隊前へ!! 弓兵隊構え!! 魔術師隊は弓兵隊の一斉射撃後、攻撃を開始せよ!!」


 兵士たちが一斉に動き始めると護衛の騎士が近づき、「陛下、お下がりを」と言うが首を横に振って断った。


「私も前線で戦おう。それが皆を死地に追いやる者の責務だ」


 そう言うと護衛の騎士は暫くためらった後、「死力を尽くしてお守りします」と頷く。


「すまんな……」


 そして敵の方を見れば異形の大軍は列を成して此方に迫ってきている。

もう間もなく弓兵隊の射程に入るであろう。

彼らの射撃が始まれば死闘が始まる。


(ルナミア・シェードランよ。頼んだぞ)


 そう心の中で言うと兜を被り直し、バイザーを下すのであった。


※※※


 私は精霊王たちと向かい合うと唾を呑んだ。

六体の精霊王。

彼らと目が合うだけで心の底から萎縮し、声が出無くなりそうになる。

だが、それでは駄目だ。


「……精霊王たちよ。まずは召喚に応えて頂き、感謝いたします」


 私はそう言い頭を下げるとイフリートが『そういう、まどろっこしいのはいいぜ』と笑った。


『俺たちを呼んだ理由は分かっている。あの混ざりものの神をどうにかしろっていうんだろう?』


 イフリートがそう言うと精霊王たちは空に浮かぶバハムートを見上げる。


『虚竜王バハムートとアルテミシア様の力が混ざり合っている。成程、破壊力だけで言うならば女神をも超えましょう』


 ウンディーネがそう言うとシルフが『ヒト如きが神を創ろうだなんて、大した思い上がりねえ』と小馬鹿にしたように言うとインドーラが首を横に振る。


『アレを創ったのは古のヒトだよ。今の子たちじゃない』


『知ってますー! だからヒト如きが、って言ったでしょう?』


 不貞腐れるシルフにインドーラが『やれやれ』と言うと私を見下ろした。


『さて、小さき子よ。お前さんがやろうとしていることの意味は分かっているんだろうね? 小さな精霊たちの力を借りるのとはわけが違う。我ら精霊王と同時契約に近いことをすんだよ?』


 私は頷く。


 魔術、いや、精霊界の掟。

人が契約できる属性は一人一つまで。

私はどういうことか精霊たちから力を借り、複数の属性を扱うことができる。

それを大精霊でやろうとしているのだ。


『掟を定めたのは我ら精霊王。その我らに掟を破れと言うか』


 ティターンが大地を揺らし、それに圧倒されそうになるがどうにか気圧されずに頷く。


『ハッ! 心臓に毛が生えているのか、ただたんに事の重大さが分かっていないのか。まあ、どちらにせよ力は貸してやってもいい』


 『ただし』とイフリートは目を細める。


『力を貸したあとは、お前は俺たち精霊王の罰を受けてもらう。そうだな……おい、フェンリル? お前ならどうする?』


『魂を六つに引き裂き、永劫の苦しみを与える』


「…………っ」


 ぞっとする話しだ。

だがそれでも私は臆するわけにはいかない。


「……構いません。力を貸していただけるのでしたらこの身、この心をすり潰そうが引き裂こうがお好きにしてください」


 そう言うとイフリートは『へえ? 言うねぇ?』と愉し気に笑みを浮かべる。


『一つ、質問しましょう。貴女がその身を捧げてでも我らの力を借りようとするのは世界を守るためですか?』


「それは……」


 ウンディーネの質問に言い淀む。


 どうだろうか?

もちろん世界を守りたいとは思う。

でもそれだけでこんなことを言えるかと考えると違う気がする。

そう、私の、私が本当に守りたいものは……。


「私には守りたいものがあります。私の大好きな人たち。私は彼らが住むこの世界を守りたい。彼らを死なせたくない。そう、個人的な理由です。個人的な理由で私は、きっと世界を守ろうとしている」


 「駄目でしょうか?」と首を傾げると精霊王たちは私をじっと見下ろし、それからシルフが突然笑い出した。


『いいわ! その答え! 大儀だのなんだのと飾り立てるよりずっと信じられるし聞いてて心地いい。あたしはこの子に手を貸すわよ?』


 シルフがそう言うと他の精霊王たちも頷く。

そしてインドーラが『申し訳ないねぇ』と微笑んだ。


『小さき子よ。我らは最初から君を助けるつもりだよ。それは最初から決められたこと。君の魂との契約だからね』


「それは、いったいどういう意味でしょうか……?」


 そう訊ねるとフェンリルが『そのままの意味だよ』と言う。


『お前のずっと遠い先祖が嘗て我らと契約したのだ。その契約は肉体ではなく血と魂への契約。故に我らはお前たちが何代と移り変わろうと契約を続行する。お前も薄々気が付いているのだろう。己が普通ではないと。己の体に流れている血が、魂が特別なものだと』


「………」


 そう、私は気が付いている。

普通とは明らかに違うというのは分かっているが、それを認めたくは無かったのだ。


『嘗て私達はある人物と契約した。その男は精霊王と呼ばれ、仲間を率いて戦いました。そして最後の最期で真実に気が付き、仲間たちと違う道を行くことを選んだ』


 ウンディーネの言葉にインドーラが頷く。


『小さき子よ。我らが契約者よ。今こそ真実の名を━━━━アルヴィリアの名をもって我らに命じよ』


 私の鼓動は跳ね上がった。

精霊王たちは私のことをアルヴィリアと呼んだ。

それはつまり……私は……。


 六合の杖を思いっきり握りしめ、頭を振る。

今は余計なことを考えている場合じゃない。

ただ、真実だけを受け止め、そして未来に向けて行動するだけだ。

だから、私は━━━。


「ルナミア………、ルナミア・アルヴィリアが命じます。精霊王たちよ! その力をもって、虚ろなる神の殻を打ち破り給え!!」


『承知した!!』


 大精霊たちが"ドーラ"の六角柱型の柱に手を翳し、魔力を送り込み始める。

それを私は六合の杖で制御し、異なる六つの属性を融合させていく。


(凄い魔力……!)


 大精霊たちから送られてくる魔力は莫大な量であり、その制御を少しでも間違えたら大惨事となりかねない。


 魔力の流れに意識を集中させ、そして制御できる限界値に到達した瞬間━━━━。


「━━━━今よ!!」


 そう大声を出した瞬間、ドワーフの技師たちが一斉に"ドーラ"を操作し始め、そして……。


「"ドーラ"、発射します!!」


 ドワーフの技師の声と同時に"ドーラ"から閃光が放たれるのであった。


※※※


 それは莫大な魔力の塊であった。

六つの属性は相反しながらも融合し、凄まじい破壊力となって“ドーラ"から放たれる。


 "ドーラ"はその凄まじい力に耐えられず、砲口は砕け、砲身も赤熱しながら融解していき、巨大な魔導砲は完全に沈黙した。


 放たれた魔力の塊は雲を切り裂き空に光の軌跡を描いて行く。


 魔力の塊がババムートを覆う障壁と激突すると辺りの雲を全て吹き飛ばすような衝撃波を生じさせた。


 障壁と砲撃は鍔迫り合うようにぶつかり合い、やがて障壁に罅が入って行く。


 そして魔力の塊と障壁の間に一際眩しく閃光が生じるとバハムートの障壁が砕けた。


 魔力の塊はそのままババムートが何層にも展開していた障壁を次々と打ち破り、最後の一枚を貫くとバハムートの巨大な翼に激突し、大爆発を引き起こした。


 それにより沈黙していたバハムートが苦痛と怒りの咆哮を上げ、大気を振動させるのであった。


※※※


(やった……!!)


 私はクレスの背中からバハムートの障壁が突破されるのを見て、心の中でガッツポーズをした。


『まずは道ができたわね。でも本番はこれからよ』


 レプリカが指差す方。

苦痛と怒りにより巨体をよじるバハムートの方角から無数の異形が現れているのが見えた。


 それは白い体表を持つ、頭部の無いワイバーンのような怪物だ。


 怪物たちはバハムートを守るように集結しており、アレを突破するのは容易なことではないだろう。


「……援軍は来てくれそう?」


 そうレプリカに訊ねると彼女は『さあ?』と肩を竦める。


『一番近いとこにいる奴は来てくれそうだけれども、待っている時間は無いわ』


 バハムートが再び障壁を展開してしまったらもう私たちに打つ手は無い。

ならば無謀であったとしても突撃を敢行するべきだろう。


 地上を見下ろすと既に異形の群れとアルヴィリア軍が交戦しており、やはりアルヴィリア側の旗色が悪そうだ。

地上で戦っている皆のためにも急ぎバハムートを倒さなければ……。


『クレス、無理をさせるけどお願い』


『無理はもとより承知! 必ずやお二人をあそこまで届けましょうぞ!!』


 "私"たちは顔を見合わせ頷く。

そしてそれを合図に雷竜王がバハムートに向けて突撃を開始するのであった。


 


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