第40節・血戦の幕間


 シェードラン軍の本陣は大混乱に陥っていた。

"ドーラ"の砲撃から始まった一連の事態に皆動揺し、今後どうするのかを知りたがっている。


 本来であれば大公代理がこの混乱を収めるべきなのだが、レクター自体もパニックに陥っており先ほどから支離滅裂な指示を繰り返している。

これでは混乱が収まるどころかかえって広がってしまう。


「ランスロー卿。少しよろしいか?」


 諸侯に群がられるレクターを遠巻きに見ているとバードン伯爵が声を掛けて来た。


「……事態が事態です。一時的にレクター様の大公代理を無しにしては?」


「…………」


 口には出さなかったが自分も同じことを考えていた。

ルナミアがいれば彼女に全権を移させようと思っていたが彼女は現在仲間たちと共に行方不明だ。

やはり、ここはレクターに恨まれてでも自分が……。


「て、撤退だ!! 白鳥城まで撤退するぞ!!」


「王のもとに向かわないので!?」


「陛下がどうなったのかも分からんのだ! まずは己の身を守ることが重要であろう!!」


 揉めているレクターと諸侯の間に割って入ろうとすると何か巨大な影が辺りを覆った。

皆が空を見上げると絶句し、自分も思わず声を失った。


 ドラゴンだ。

黄色い鱗を持つ巨大なドラゴンが上空を旋回していた。

ドラゴンは此方を見下ろすとゆっくりと降下を始め、レクターたちの前に着陸する。


 周囲の兵士たちが慌てて弓を構えるがドラゴンの背中から誰かが現れるのを見ると慌てて兵士たちを止める。

「従兄上! 撤退は駄目です!!」


 ルナミアだ。

ルナミア・シェードランが仲間たちと共にドラゴンの背中から飛び降りてきた。

その中には聖女レグリアもおり、皆驚きの声を上げる。


※※※


 私はクレスの背中から降りるとすぐにレクターの前に立つ。

上からこの従兄が軍を撤退させようとしているのを聞いていた。

今、撤退をしては駄目だ。

もう間もなく始まる決戦に備え、王のいる中央に全軍を終結させる必要があるのだ。


「みんな、アレが見えているでしょう! もうまもなくアレは世界を焼き払うために動き始める。今、ここで逃げても世界が終われば意味がないわ!」


 私の言葉に諸侯は動揺した。

世界が滅ぶなんて突然言われても混乱するのは当たり前だ。

だが今は信じて貰うしかないのだ。


「ルナミア嬢、アレが何なのか説明していただけますか? 突然世界が滅ぶなどと言われも……というところです」


 バードン伯爵の質問に答えたのはレプリカであった。

白く光る彼女に皆目を丸くして注目し、彼女はそんな周囲の反応にやれやれと首を横に振った。


『あれは竜王バハムート……いえ、バハムートの名を冠した新たなる神よ。どっかの馬鹿が世界を滅ぼすと息巻いて召喚してしまったのよ。で、この子たちは世界を滅ぼさせないとアレに立ち向かおうとしているわけ』


「……神。あれが……? なんと、言ったら……」


 バードン伯爵は頭を掻くとため息を吐く。


「あの竜神が滅びをもたらす存在なのは確かです。”蛇”と名乗る存在と交戦し、阻止しようとしましたが失敗しました」


 レグリアの言葉に皆が唾を呑む。

この中で最も信頼されている聖女がそう言うのだ。

信じざるおえないというところであろう。


「あれが破壊神だというのは分かりました。ルナミア様たちがあれと戦おうとしていることも。では我らはどうすれば? 我らにはあのような怪物と戦う術がありません」


 私はランスロー卿の言葉に「分かっています」と頷く。


「私たちは”ドーラ”を使ってバハムートの障壁を砕く予定です。でも、恐らく”ドーラ”を使用しようとすればバハムートはそれを止めようとしてくる」


『バハムート自身はまだ動けないから恐らく眷属を仕向けてくるわ。既にアイツの下に物凄い数の禍々しい存在が生み出されているのが感じられる。あなた達には中央に集結してもらって”ドーラ”を発射するまで持ちこたえてもらいたいのよ』


 私とレプリカの言葉に諸侯は顔を見合わせ困ったような表情をする。

ただでさえ混乱しているのにこのような話をされ、どうすればいいのか決めかねているのだろう。

あと一押し、何か彼らの背中を押せればいいのだが……。


「ふ、ふざけるな!!」


 そう怒鳴ってきたのは先ほどまで黙っていたレクターだ。

彼は私に詰め寄り、睨みつけてくる。


「何を勝手なことを言っている!! 貴様の妄言に付き合ってなどいられん!!」


「……我が言葉も妄言と言いますか?」


 レグリアに鋭く睨まれレクターはたじろぐがまた此方を睨みつけてくる。


「か、仮に真実だとしてどうして貴様が指示を出している! 大公代理は、俺だ!!」


「ええ、では指示を出してください。王のもとに向かえと。誇り高きシェードラン家の跡取りとして立派に振舞ってください」


 そう言い睨み返すとレクターの顔がみるみる赤くなっていく。

そして彼は「貴様はいつもそうやって、俺を見下して!!」と怒鳴り剣の柄に手を掛けた。

周りが「いけません」と慌てるが、私はそれよりも早く己の剣を引き抜いてレクターの首元に突き付ける。


「……撤退したいのならばどうぞご自由に。ただし一人でお帰り下さい」


「貴様……こんなことをしてどうなるか分かっているのか……?」


「ええ、分かっています。世界を滅ぶのを阻止できるなら、愛する人たちを守れるならどんな罰も甘んじて受けますわ」


 私は従兄にそう言うと微笑み、それから周りを見渡す。


「聞け! この男と共に戦場を去りたいのなら去りなさい!! でも、もし少しでも誰かを守りたい、この世界で生きたいと思うならばどうか私たちに力を貸して!! もし皆が私に力を貸してくれるのならば、私は必ず貴方達に勝利をもたらし、未来を切り拓くと約束するわ!!」


 周囲が静まり返った。

皆、此方をじっと見つめ決断をしようとしている。


 そして一人、前に出た。


「バードン家はルナミア嬢、いや、ルナミア・シェードラン様と共に戦うと誓いましょう」


「なっ!? バードン、貴様!!」


 バードン伯爵は睨みつけてくるレクターを無視し、真っ直ぐにこちらを見つめると頷く。

すると彼に続きダニエル子爵が「私も」と前に出る。

その後も何人かの貴族が私に賛同してくれたがやはり大半は躊躇ったままだ。


 これ以上私に味方する貴族が増えることを恐れたレクターは周囲に「貴様ら! 早くこの女を捕らえろ!」と叫び始める。


 大公代理か代理補佐か。

どちらに味方するか?

諸侯は互いの様子を伺いながら決断しようとすると遠くで兵士たちのどよめきの声が聞こえて来た。


 何事かとそちらを見れば真っ青な顔で杖を突きながら歩くシェードラン大公の姿があった。


※※※


 皆、兵士に支えられながら歩く大公の姿を見て誰もが息を呑んだ。


「ち、父上……」


 ラウレンツ叔父様は私たちを一瞥すると諸侯たちに頭を下げる。


「まずは大事な戦にも関わらず諸君らと共に戦えなかったことを詫びる。しかし━━」


 叔父様は深くため息を吐く。


「なんとも情けなきことよ。なんだ、この有り様は? シェードラン軍とは勇猛果敢、常に王国のために血を流し戦って来た。しかし、今はどうだ? 皆、お互いの顔色を伺い保身に走る。このような情けなき姿を見せられては寝ていられん」


 そう言うと叔父様は私の方を向き、微笑んだ。


「ルナミアよ、剣を下ろせ。我が愚息の首元に刃があっては諸侯も怯えよう」


「……分かりました」


 私は剣を下ろし、鞘に納めると従兄から離れる。

すると彼はすぐに自分の剣を引き抜こうとするが叔父様が「止めぬか!」と怒鳴った。

怒鳴ったせいか叔父様は立ち眩み、私は慌て叔父様を支える。


「あまり無理はなさらないで下さい」


「今は無理をする時だよ」


 叔父様はそう言うとゆっくりと息を吐く。


「これより我が軍は王のもとに向かう。王に、世界に危機が迫っているのであればそれを守るのが我らの務めぞ」


 レクターが何かを言おうとするが叔父様に見つめられたことと、既に周囲が王のもとに向かおういう雰囲気になっていたため、悔しそうに目を逸らした。


 叔父様もレクターに何かを言おうとしたが首を横に振り、地面を杖の先で突く。


「……皆、すぐに進軍の準備を。ルナミアとランスローは残り、詳しい状況の説明を」


 叔父様の言葉に皆頷き、動き始めるのであった。


※※※


「そういえば……」


 私は次の戦いに備えるためガンツ兵士長に預けていた槍を回収するなどしながらレプリカに話しかけた。


「私の体からすっぽ抜けたままだけれども大丈夫なの?」


 そう訊ねると興味深げに周囲を見ていたレプリカが『ん?』と此方を見た。


『本来では貴女に語りかけるのも大変なんだけれども、今はこの辺りが全部神域化しているから……』


「神域って?」


 レプリカは空を、バハムートによって生じた巨大な亀裂を指差した。


『人界とは隣り合わせにあり、でも決して超えられない境界の向こうにある世界。人々の魂が生まれ、還る場所。女神がかつて存在した場所よ』


 レプリカはそういうと空に浮かぶ巨大なバハムートを見て眉を顰める。


『虚竜神の誕生により世界の境界が曖昧になってしまった。だから私もこうやって存在できるわ』


 難しいことはよく分からないがようはあの化け物のせいということらしい。


『時々思うけど、貴女ってバカよね?』


「……自分に対して酷い」


『自分に対してだからいいのよ』


 なんだろう、納得していいようなしてはいけないような……。

「うーん」と首を傾げているとレプリカは微笑み、それから真剣な表情になった。


『ところで、本当にいいのね? 他の連中にははぐらかしていたけれども、”私”があそこに向かう意味を理解しているのよね?』


 私は頷く。

レプリカの隣に立ち、今はまだ眠っているバハムートを見上げた。


「分かっているよ。覚悟も決めたつもり」


『そう……。ルナミアには本当のことを伝えなくていいのかしら?』


「うん。きっと本当のことを教えたらルナは私を止める。それじゃ、駄目だから」


 下手をしたら一緒に行くと言いかねない。

この戦いに勝利し、未来を切り拓くためにも彼女には”ドーラ”を放つことに集中し、全力を尽くしてもらわなければならないのだ。

あとできっと凄く怒るだろう。

その時はロイに頑張ってもらおう。


『貴女が覚悟を決めているならもう何も言わないわ。この戦いに勝つために私もできることを全てする。強力な援軍にも声を掛けたわ。……来てくれるか分からないけれども』


 「援軍?」と首を傾げるとレプリカは『来てのお楽しみよ』と言った。


「おーい!! そろそろ出発するわよー!!」


 遠くでミリが手を振っているのが見えた。

私はそれに手を振り返すとレプリカと顔を見合わせ頷く。

そして一度辺りを見渡し、周囲の光景を目に焼き付けておくと歩き出すのであった。


※※※


 私とレプリカがルナミアたちのもとに着くとルナミアは既にクレスの背中に乗っていた。

周りにはシェードラン大公を始めとした人々が見送りの為に集まっており、その中にはウェルナー卿も居た。


 ウェルナー卿はついて行こうとしたのだがルナミアが彼の怪我のことを考え、残るように説得したのだ。


 私は身を屈め、乗りやすくしてくれているクレスに駆け寄るとシェードラン大公に呼び止められる。


「リーシェよ。無理はするなとは言えぬが、無事で帰ってくるのだぞ。お前も、大事な私の姪だ。あの化け物に勝利し、生きて帰り弟に元気な顔を見せてやれ」


「……はい、大公さ……、叔父様。行ってきます」


 シェードラン大公は「行ってこい」と頷き、私はクレスの尻尾を伝って彼女の背に登り始めた。

そしてロイが「ほら、掴め」と差し出してくれた手を取り、引き上げられるとルナミアの隣に行く。


『さて、全員乗ったな? ……というか、貴様もついてくる気か?』


「まあ、乗りかかった船だし?」


 メリナローズがそう言うとレプリカが『安心しなさい。悪さをしようとしたら私が消すわ』と言った。


「え? レプリカちゃん、力失ってるのよね……?」


『さて、どうかしら?』


 レプリカが不敵に笑うとメリナローズはそそっとエドガーの背後に隠れた。


「……俺を盾にするな」


 その光景に皆、笑みを浮かべるとルナミアが身を乗り出してウェルナー卿やガンツ兵士長に声を掛ける。


「ウェルナー卿、兵を頼みます! ガンツ兵士長、ウェルナー卿の補佐を! その人、一応重傷人なんだから無茶をさせないように!」


 その言葉に二人は頷く。

そしてルナミアはクレスに「さあ行きましょう」と言うとクレスが大きく羽ばたき、上昇を始めた。


 あっという間にシェードラン大公たちの姿が小さくなり、上空からシェードラン軍が一望できるようなる。

さあ、行こう。

運命の頂は間もなく訪れる。

その時に、私は━━━━━。


 ”ドーラ”のあるメルダの丘に向かうクレスの背中で私は槍を強く握り絞めるのであった。


※※※


 メルダの丘では”ドーラ”の再発射の為の準備が大急ぎで行われていた。

 アルヴィリア軍に監視されたドワーフの技師が慌ただしく動き回っており、彼らは”ドーラ”の配管を繋ぎ変えるなどしている。


 そんな様子をアルヴィリア国王ゲオルグは見つめ、それから空に浮かぶ巨大な竜を見上げた。


「……バハムートか。よもや伝説の竜王をこの目で見ることになるとはな」


「あれは厳密にはバハムートではありませんがねぇ……。まったく、下手をしたら女神よりもたちが悪いです」


 隣にいるフェリがそう言ったため彼女の方を向いた。


「それにしても驚いたぞ、再び”ドーラ”を使えるようにしろと言うとは」


「我が主より命がありましたので。これから何をするのかは先ほど話した通りです。彼女たちも間もなく到着します」


「……そうか」


 この事態を打破できるのは我々ではない。

彼女の力が必要なのだ。

そしてこれからの訪れる時代にも彼女が必要になってくるかもしれない。


(……やはり、節目と考えるべきか)


 二年後。

もし、この戦いを生き残れたのなら千年の節目で前々から考えていたことをしようかと思っている。

きっと周りは猛反対するだろう。

国は混乱するだろう。

だが、この国の歪な歴史を正し、人々が明るい未来へと進めるのならば……。


「父上!」


 声を掛けられ、そちらの方を向けば息子のエリウッドがやってきた。

彼はレグリアの迅速な撤退の判断もあり、”ドーラ”の砲撃で死なずに済んだ。

その後、自分と共に裏切ったと思われるドワーフの技師たちを拘束したのだが……。


「なぜ、技師たちを解放したのですか! それに、これは……まさかこの魔導砲を再び!?」


「うむ。裏切ったドワーフは極一部だったのと”ドーラ”を発射するには彼らの力が必要だからだ」


 ドワーフの技師たちには妙な動きをしたら即刻斬り捨てると伝えてある。

彼らも死にたくないから必死であろう。


「……危険では? それに魔導砲に装填する魔力はどうするおつもりで? また魔女殿に?」


「いえー、私はもうすっからかんなんで無理ですねぇー。それに私の魔力を使えてもあの魔術障壁は突破できません」


「ではどうするのだ?」


 エリウッドが眉を顰めてそう訊ねるとフェリは空を見上げた。


「世界の危機なんです。世界自体に協力してもらうとしましょう」


 辺りにいた兵士たちが「なんだあれは!?」と騒ぎ始めた。

皆、口を開き空に向かって指差しており、その方向を見れば背中に辺境伯の娘たちを乗せたドラゴン━━雷竜王クレスセンシアの姿があった。

 

※※※


 私はクレスの背中から飛び降りるとすぐに王の前に行き跪いた。

すると王は頷き「仔細は既にフェリアセンシアから聞いておる」と言う。


「もう間も無く"ドーラ"の準備が完了する。敵の襲撃に備え、全軍にメルダの丘の前に集結するようにも伝えた」


「ありがとう御座います。シェードラン軍もラウレンツ叔父様自ら率いて此方に向かっております」


「ラウレンツが? 大丈夫なのか?」


「かなり容態は悪そうでしたが、この一大事に寝てはいられないと……」


 そう言うと王は「あ奴にはいつも無理をさせている」と申し訳なさそうに首を横に振った。

すると先ほどまで私と王の会話を聞いていたエリウッド王子が「父上、そろそろ説明していただけないでしょうか」と王に訊ねる。


「何故、ここにシェードラン辺境伯の娘が? あのドラゴンは何ですか!」


「そうまくし立てるな。あそこにいるドラゴンはクレスセンシアだ。東西の魔女は八大竜王の仮の姿なのだ」


 エリウッド王子が目を丸くしてフェリを見るとフェリは「どもー氷竜王ですー」と手を振る。


「そして、ルナミアが来たのは"ドーラ"を動かすためだ」


 王の言葉に私は頷く。


「女神の力をお借りし━━━━精霊王たちを召喚します」


 その言葉にエリウッド王子がは息を呑むのであった。


※※※


 私はメルダの丘からこの丘を守るべく布陣しているアルヴィリア軍を一望した。


 "ドーラ"が放たれれば敵が押し寄せてくると言う。

そうなれば間違いなく血みどろの死闘となるであろう。


 "私"たちは皆が斃れてしまう前にバハムートに接近し、奴の竜核を砕く。

そしてそのためには……。


 遠くを見るとレプリカがクレスやフェリと何かを話している。

どうやらフェリは万が一の時のためにルナのそばにいるらしい。

竜王が義姉の護衛をしてくれるなら安心だ。

私も心置きなく行けるというもの。


「……決戦だってのに相変わらずぼーっとしてるな、お前」


 背後から声を掛けられ、振り返るとそこにはロイがいた。


「こう見えても色々考えてるよ? 考えて、今ここに立ってる」


「ああ、知ってる」


 そう言うとロイは私の横に立ち、バハムートを見上げた。


「本当は行くなと言いたい。一緒に行くと言いたい。でも、無理なんだよな……」


 私は無言で頷く。

バハムートの体からは凄まじいマナが放出されている。

普通の人間がそれを浴びれば魔獣に変異するか体が耐えられず死ぬという。

バハムートに近づけるのはアレと似た力を持つ"私"たちだけだ。


「絶対に守る。お前が帰ってくる場所を俺は絶対に守り切って見せる。そしてみんなで生き延びて、お前を笑顔で出迎えてやる」


「…………うん」


 ロイは私の方を向き、真剣に見つめてくる。

私は彼を見つめ返すと「ねえ、ロイ?」と話しかける。


「これ、あげる」


 そう言いロイにある物を手渡すと「これは……」と彼は驚いたような表情をする。


 私が彼に手渡したのはイヤリングだ。

とと様に買ってもらった太陽のイヤリングの片方。

ベルファでルナミアに買って貰った星のイヤリングを片耳に着けて以来外していたやつだ。


「お守り、持っていて。私たちの絆。それがある限りきっとずっと繋がり続ける」


「……分かった」


 ロイはイヤリングを懐にしまい、拳を突き出す。

私も自分の拳を突き出し、軽くぶつけ合うとロイは「それじゃあ、また後で」と去っていった。

私はその背中を見送り、そしてこう呟くのであった。


「さよなら、ロイ」

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