第3節・丘の上の故郷Ⅲ
夢を見た。
純白の宮殿だ。
壁も床も全てが純白であり、無数の柱が設置されている。
天井は床から見えないほど高い場所にあるらしく、神聖とも不気味とも思える静寂が辺りを支配していた。
前も後ろも果てがないように思えたが、私はとりあえず前進する。
一歩歩くたびに足音が鳴り響き、それが私を不安にさせる。
どれだけ歩いただろうか?
そろそろ踵を返そうか?
そう思い始めた頃にそれは現れた。
王座だ。
巨人が座るのかと思うくらいの巨大な王座。
私はその王座に吸い込まれるように近づき、気が付いた。
王座に座り、眠る少女。
銀の髪に褐色の肌。白いドレスを身に纏った少女だ。
「…………」
鼓動が跳ね上がる。
少女がゆっくりと起き上がり始め、その挙動から目が離せない。
息が詰まる。
どうして自分がこんなに動揺しているのかはわからない。
少女は小さく欠伸をすると目を擦り、それからこちらを見ると小さく微笑んだ。
「もう直ぐ逢えるね」
※※※
「……!?」
私は飛び上がるように眠りから醒めた。
全身に酷い寝汗を掻き、下着までグッショリと濡れてしまっている。
まだ息が少し苦しい。
あれは何だったのだろうか?
夢にしてはあまりにも鮮明であった。
王座にいた少女は一体……?
「……気持ち悪い」
寝汗で気持ちが悪い。
ベッドから起き上がり、窓を開けると気持ちの良い朝の風が部屋に入って来る。
私はテーブルに置いてある水差しを手に取り、中に入っている水をボウルに移すと服を脱ぎ、全裸になる。
そして手拭いをボウルに入った水で濡らし、その手拭いで体を拭く。
「……」
ふと鏡を見る。
そこに映るのは素っ裸な私の姿。
だが、その姿は夢に出てきた少女に似ている気がした。
私は鏡の中の自分を指差し、呟く。
「もう直ぐ逢えるね」
「リーシェ様、おはよう御座います。今日のことについて……です……が?」
部屋に入って来たユキノと目が合い、彼女は鏡の前で全裸仁王立ちしている私を見ると表情をスッと消して「失礼しました」と扉を閉めた。
※※※
「まえまえからお嬢様が猿の如き野生児かと思っていましたが、認識を改める必要があったようです」
「忘れてください」
「ご安心ください。今日の件、墓まで持って行こうかと思います」
「墓まで持って行かなくていいです。忘れてください」
「まさか敬愛してたお嬢様に露出癖があったなんて私の口からとてもとても……」
「言いふらすつもりだね? 本当に忘れてください」
私は椅子に座り、ユキノに髪を梳かしてもらいながら背後からの口撃に必死に耐えていた。
ユキノは「別に楽しんでませんよ」と言っていたが、口元が緩んでるよ。
「それで? どうしてあの様な変態倒錯行為をなさっていたのですか? 敬愛するお猿様」
「あの、そろそろ泣くよ?」
「これは失礼」とユキノは頭を下げて謝罪する。
「変な夢を見たの」
「ほう、夢?」
「気がついたら真っ白な宮殿に居て、私にそっくりな子が王座に座ってた。その子が私を見て『もう直ぐ逢えるね』って」
ユキノの髪を梳かす手が止まった。
「どうしたの?」と訊ねるとユキノは首を横に振り、笑みを浮かべる。
「それはきっとドッペルゲンガーですね」
「ドッペルゲンガー?」
「はい。人の姿を真似る悪霊です。ちなみに自分のドッペルゲンガーを目撃した人
は3日以内に死ぬ」
「え?」
本当に?
見ちゃったよ? 私?
「冗談です。ドッペルゲンガーは夢の中には現れません。恐らく、そうですねぇ。王座が夢に出てくるくらいですからリーシェは実は権利大好きっ子なのかもしれませんね」
それは多分違うと……思う。
私はどちらかというと権力とかどうでもいい方だ。
むしろ王座とか好きそうなのはルナミアの方な気がする。
なぜか王座に座りふんぞり返る義姉の姿が脳裏に浮かんだ。
ユキノは私の髪を梳かし終わり、櫛を棚に置くと「今日のことですが」と口を開く。
「うん。分かってるよ。ルナがとても意地悪な人がくるから部屋から出ちゃダメだって言っていた」
「意地悪通り越してあれはクズに片足突っ込んでいると思います」
人があえて優しめに言ったのにはっきりと言いおる。
「リーシェ様をなるべくお一人にしないようになるべく部屋を訪ねるつもりですが、どうしても仕事が御座いますので」
「別にいいよ。暇なときは前にルナから貰った本でも読んでるから」
そう言うとユキノはやや申し訳なさそうに頭を下げる。
このメイドは口が非常に悪いが本当に私に良くしてくれる。
彼女がコーンゴルドに来たのは約一年前だ。
ある日、突然義父が彼女を雇い、私の前に現れた。
彼女は自ら私の身の回りの世話をすると立候補し、ほぼ私専属のメイドとなったのだ。
私は最初、誰もやりたがらないゼダ人の世話を自分から進んでやることで他のメイドよりも目立とうとしているのだと意地の悪いことを考えていた。
だが彼女に世話されているうちに彼女が口と態度こそアレだが私を本当に支えてくれようとしているのだと気が付き、私も彼女に頼るようになっていた。
「前々から思っていたんだけど、どうしてユキノは私の世話をするの? ゼダ人の世話なんて嫌じゃ……いひゃい」
両頬を抓られた。
「悪いことを言うのはこの口ですか。リーシェ様、リーシェ様が己を卑下するということはそれに仕える私も侮辱していることになります。リーシェ様が侮辱されるのは兎も角、私が侮辱されるのは許されません」
「ふひゅう、ぎゃくじゃにゃい?」
ユキノは私の頬を離し、今度は頭を撫でる。
「ぶっちゃけ言いますと最初は旦那様に気に入られるために立候補しました」
「えぇ……」
「ですが貴女様にお仕えするうちに別の邪念などよりも貴女様を優先したくなったのです」
「邪念?」と首を傾げると「気にしなくていいです」と誤魔化された。
彼女が嫌な思いをしながら私の世話をしているわけではないと知って正直嬉しかった。
「あ、ありがとう」と顔を逸らしながら言うとユキノは優しく微笑む。
「リーシェ様は同年代の子に比べてゴーレムの如く面の皮が厚いですが、意外と表情が顔にでますよね」
「ユキノ? 人を貶さないで褒めることできる?」
そう訊ねると「さあ、どうでしょう?」と悪戯っぽく返されるのであった。
※※※
ルナミアは朝から憂鬱であった。
憂鬱の原因はこれから来る男のせいだ。
レクター・シェードラン。
何度か会ったことがあるが”嫌な奴”というのが素直な感想だ。
従兄、しかも本家の人間であるため無視する訳にも行かず、今日もあの男の相手をしないといけないのだろう。
まあ、自分はどうでもいい。
レクターの話は基本的に差別的な内容か自画自賛だ。
そんな話は聞き流していればいい。
心配なのはリーシェだ。
あの男に愛する義妹が見つかったらどうなるのか、そんなの分かりきっている。
きっとあいつはリーシェを侮辱し、下手したら暴力を振るうかもしれない。
もしそんなことになったら……。
「……地獄の底まで突き落としてやるわ」
リーシェには今日は部屋に籠っているように言っておいた。
ロイにもレクターが来るので今日は仕事ができないと伝えてあるし、リーシェが暇にならないようにユキノやヘンリーおじ様にリーシェの部屋に時々訪ねて彼女が寂しくならないようにしてほしいと頼んである。
ユキノには「ルナミア様。妹思いなのは良いことですが少々、いえ、大分”重い”ですね」と言われた。
この位、姉妹なら普通だと思うのだが……?
鐘の音が鳴る。
きっと大公の一団がやってきたのだ。
ルナミアは「はぁ」と大きくため息を吐き、自分の部屋を出た。
※※※
ルナミアが屋敷のテラスに着くと既に父ヨアヒムが待っていた。
「お父様、ラウレンツ叔父様が参られたのですか?」
「ああ、ほらあの丘の方、兄上の騎士たちが見える」
父が指さすほうを見れば遠くに小さく騎士の一団が見えた。
ラウレンツ・シェードラン大公とその護衛の白銀騎士団だ。
「ウェルナーを迎えに出している。私たちも正門で待つとしよう」
父の言葉にルナミアは頷くのであった。
※※※
シェードラン大公の一団は気品と威厳に溢れていた。
騎士たちの鎧は丁寧に手入れがされており、太陽の光を反射させている。
マントを靡かせ、白百合の旗を掲げて行進するその姿は物語に登場する騎士そのものである。
そんな一団に守られているのがアルヴィリア五大公の一人、ラウレンツ・シェードラン大公とその息子レクター・シェードランだ。
真っ白な髪を持ち、顎髭を伸ばしたラウレンツは大通りに集まり、頭を下げる領民たちに頷き、笑みを浮かべる。
対してレクターは領民たちのことなど見ずに面倒臭そうな表情を浮かべている。
ウェルナー卿に先導され、跳ね橋を越えて城の前に辿り着くと大公は下馬し、それに続いて息子や騎士たちも馬から降りる。
「ようこそおいで下さいました」
「おお! 弟よ! 一年ぶりだな!! む? そちらにいるのは……」
ラウレンツはヨアヒムの後ろにいるリーシェの方を見る。
リーシェはスカートを少し摘んで持ち上げ、丁寧に一礼すると「リーシェですわ。お久しぶりですラウレンツ伯父様」と挨拶した。
「リーシェか! 見違えたぞ! 以前より更に美しくなったな!」
「ありがとう御座います」とリーシェが再び一礼するとラウレンツは「ほれ、お前も挨拶をしなさい」と息子を前に出した。
短いブロンドヘアーにエメラルドグリーンの瞳を持つエドガーが気怠そうに「お久しぶりです」とだけ言い、下がった。
ラウレンツは息子の態度に眉を顰めたが直ぐに諦めたようなため息を吐く。
「さあ、色々と話したいこともありますし、どうぞ中へ」
ヨアヒムの言葉にラウレンツは頷き、皆で屋敷の中に入るのであった。
※※※
ヨアヒムとラウレンツは執務室に入ると早速語り合い始めた。
最初はお互いの近況報告。次に他愛も無い世間話。そして。
「死霊騎士団か。賊や傭兵崩れが自分たちに箔をつけるためにそう名乗ることは良くあるが……」
「冥府の腕輪の件もあるため、どうにも気掛かりでして」
ヨアヒムがそう言うとラウレンツは暫く考え「実は」と口を開く。
「昨今奇妙な連中の目撃報告が相次いでいる。領内だけでは無く、国中で黒いローブを被った幽鬼であり噂によると滅びたヴェルガ帝国の騎士だという」
「ヴェルガの亡霊が蘇っていると?」
「ヴェルガ帝国滅亡後、主だった主導者たちは処刑されたが一部は逃れ姿を消した。彼の末裔が今もヴェルガ帝国復活を目論んでいてもおかしくはない」
ヴェルガの残党と死霊騎士団。
それはヨアヒムも繋がりのあるのではと思っていた。
そしてもし死霊騎士団がヴェルガの残党でこの城の近くに現れたのが偶然でなければ……。
「できれば今すぐに討伐の兵を挙げたいところだが、メフィルの目があるため兵を思うように動かせん。あの女狐め、私が少しでも兵を動かすと『何故兵を出されたのか?』と使者を送って来る」
「メフィル大公はシェードラン侵攻の口実を欲していると? そのようなことをすれば諸侯が黙ってはいますまい」
ヨアヒムの言葉にラウレンツは首を横に振る。
「メフィルの権勢は今や王を補佐するオースエン家に匹敵する。奴に反感を持つ者は多いが逆らえる者は少ない。今はまだ陛下がメフィルの手綱を握っているが今後どうなるかは分からん」
アルヴィリア王国は表面上は安定しているかのように見えるが、実際は水面下で諸侯が勢力を伸ばそうと政治的な争い繰り広げている。
今は国王であるゲオルグ・アルヴィリアが上手く諸侯の手綱を握っているが、いずれはそれも難しくなるだろう。
「陛下も歳をとられた。もし陛下の身に何かがあれば恐らく国は大いに荒れるだろう」
ラウレンツは弟の目をじっと見る。
「ヨアヒムよ。私の下に戻って来る気は無いか?」
「兄上、私ももう老いました。こんな老骨が戻ったとしても役には立ちますまい」
「なにも騎士団長に戻れとは言わん。私のそばで相談役として仕えてくれないか?」
兄の目には懇願に近い感情が見えた。
大公としての責は辺境伯の自分より遥かに重いのだろう。
できることならば血を分けた兄を助けてやりたい。だが……。
「ふ、弱気な事を言ったな。娘の事を考えれば動けんよな。今の話は忘れてくれ」
そう寂しそうに笑う兄に対し、ヨアヒムはただ頭を下げるしかなかった。
※※※
「その時! 俺は人生で最も追い詰められていたのだ! 相手は白銀騎士団一の強者、ガイウス・ボルダー。誰もが俺が負けると思った」
「へー、そうなんですかー」
「だがしかし、俺はガイウスに勝った! あのトロルのような騎士に模擬戦で華麗なる勝利を得たのだ!」
「へー、すごいですねー」
「俺が勝てた理由はただ一つ。俺が天才だったからなのだよ。我が剣の師匠も常に俺を天才と言っていた。まあ、当然だな。俺はシェードランとメフィルという二つの高貴な血を継いだ男なのだから」
「へー、さすがですねー」
ルナミアはシェードラン大公が来訪してからずっと応接室で従兄の相手をしていた。
案の定この男は自慢話しかせず、真面目に聞くのも馬鹿馬鹿しいので適当に返事をしてやり過ごしている。
彼は一通りの自画自賛を終え、満足したのかようやく黙ってくれた。
部屋には自分と従兄しかいない。
最初はメイドがいたのだが差し出した紅茶の入れ方が気に食わないとイチャモンをつけ始め、メイドに対して酷い事を言い始めた為、彼女を部屋から逃した。
そこから長々と"俺様英雄伝説"を始めたのだ。
勘弁して欲しい。
やっと一息つけると思い、紅茶の入ったカップを手に取り飲もうとしたらレクターが「ところで」と声をかけて来た。
「この屋敷で豚を飼っているというのは本当か?」
「……豚?」
紅茶を飲む手が止まる。
「ああ、豚だ。噂に聞いたのだがな、ヨアヒム叔父上が何をとち狂ったのかゼダ人を養子にし、シェードランを名乗らせているというではないか!」
「…………」
「我が従妹よ。大丈夫か?ゼダ人は不潔で野蛮な未開人だ。家畜同然の雌豚がお前のそばにいるなど俺は心配でならん。ちゃんとそいつを躾けているか? 躾には焼鏝がいいぞ! あれを使えば直ぐに従順になる!」
「少し……」
「それで? 結局この家にはゼダ人の分際でシェードランを名乗る不届き者はいるのか? もしいるのならば後で連れてこい。ちゃんと自分が家畜と自覚しているか確認してやる」
「……………まれ」
「そうだ! 今度豚と交配させてみたらどうだ? 以前から家畜と人間の間に子供は出来るのか気になっていたのだ。まあ、今回は家畜同士だか━━」
もう、我慢が、出来なかった。
ルナミアは席を立ち、笑顔を浮かべてお辞儀した。
「少し、席を外しますわ。直ぐに戻るのでお待ちくださいな」
そう言うと彼女はやや駆け足で退室するのであった。
※※※
レクターは従妹が部屋から出ていくのを見届け、「ふん」と鼻を鳴らした。
ルナミアの態度からゼダ人の娘がここにいるのは確実だ。
それにあの感じ、とんでもないことだが我が従妹はゼダ人を庇っているようだ。
劣等種であるゼダ人を庇うなどヨアヒム叔父上もルナミアも頭がおかしい。
ゼダ人や亜人種は野蛮で汚らわしい生き物なのだ。
奴らは人間の社会に入り込み、まるで病気のように内側から広がって行く。
誰かがアルヴィリアという国を汚す病巣を取り除かなければ行けない。
そしてその誰かというのが我々高貴な血が流れている貴族だ。
レクターは「誰かいるか!」と大声を出し、部屋の外で待機していた護衛の騎士が直ぐに入って来る。
「少し屋敷を回る。ついてこい」
「……ルナミア様が戻ってこられるのでは?」
「あんな小娘のことなんて放っておけ。それとも貴様、俺に指図するのか?」
「い、いえ! お供いたします!」
「それでいい」とレクターは口元に笑みを浮かべると立ち上がる。
「さて、豚探しでもするか」
※※※
ルナミアは俯きながら駆け足で廊下を歩いていた。
頭の中がごちゃごちゃする。
ドス黒い感情が渦巻き、今にも吹き出しそうだ。
あの男から発せられた不快な言葉。それを思い出すだけで。
「……っ!!」
壁を思いっきり殴る。
殴った拳がとても痛いが今はそれがちょうど良い。
痛みで理性を保てる。
「なにやら大変ご立腹なようで。あの勘違い系クズ男になにか言われたのですか?」
俯くのを止め、前を向くとトレーに焼き菓子を載せたユキノがいつの間にかに立っていた。
「……ええ。とても不快なことを。従兄を殴る前に部屋から飛び出して来たところよ」
そう拳を握りしめ、なるべく平静に言うとユキノは「差支えなければあの男が何を言ったか訊いても?」と言ってきた。
それに対して少し躊躇ってから頷き合い、周りに聞こえないようにユキノの耳元で小声に伝える。
彼女は話した内容に一瞬体を硬直させ、それから「なるほど」と呟くと無表情にナイフを手に持つ。
「始末しましょう。ルナミア様、私に御命令くださればあのような輩、直ぐにでも三途の川を渡らせてやります」
「三途の川?」
「我が故郷の言葉です。分かりやすく言うと"あのヤロウ、ブッコロス!!"と言う意味です」
慌ててユキノの口を抑え、「大きな声で言わないの!」と言うとユキノは「失礼しました」と謝罪した。
「それにしても、どん引くぐらい愛の重いルナミア様がよく我慢なされましたね」
「重いは余計よ。あんな人でもラウレンツ伯父様の息子よ? 殴ったりしたら伯父様やお父様に迷惑かけてしまうわ」
「周りのことを考えて自制される。ご立派です。ちなみに家のこととか考えなくても良い場合は?」
「縄で縛って馬で引き摺り回してやるわ」
「流石です」
ユキノとの会話で少し気が楽になった。
そろそろ戻らないと従兄が悪さを始めるかもしれない。
そう思い、ルナミアはユキノと分かれ、応接室に戻り始める。
そして応接室の前まで来ると「あれ?」と首を傾げた。
確か応接室の前にはレクターを護衛する騎士がいたはずだ。
本家の騎士が職務を放棄するとは思えないし、なによりもレクターが自分の護衛から離れる筈がない。
(まさか……)
猛烈に嫌な予感がした。
応接室のドアを勢いよく開け、飛び込むと中には誰もいなかった。
「リーシェ……!!」
ルナミアはこれから起きるかもしれないことに戦慄し、駆け出すのであった。
※※※
ロイは午前の仕事を一通り終え、一息を吐いていた。
今日は朝からリーシェが居ない。
ラウレンツ大公の息子、レクターが来ているため彼女とレクターが鉢合わせないようにしているのだ。
ここ最近ずっと二人で仕事をしていたため、朝からずっと一人で黙々と作業するのは久々だ。ちょっとだけ寂し……。
「……寂しくなんてないぞ!?」
父が足を怪我してからは一人でやってきたのだ。
大人の仕事をこんなに早く一人で任されるなんて自分は凄いと意気込んでいたのも束の間。
すぐにリーシェが一緒に仕事をするようになって気が付けば約二年だ。
彼女がここに初めて来た日のことは今でもはっきりと覚えている。
ヨアヒム様がゼダ人の娘を養子に迎えたのは知っていた。ヨアヒム様も物好きだなと思っていた。
その娘が屋敷で虐められ、転落したという話も聞いた。
可哀そうだが仕方ないよなと思っていた。
相手は貴族のご令嬢、しかもゼダ人だ。
自分なんかが関わることは無いだろう。そう思っていたのだが。
『あ、あの……』
その日、いつものように馬の糞と格闘していると声を掛けられた。
銀色の髪に褐色の肌。ルナミア様が着ているのと似たような服を着た姿を見てすぐにこの少女が例の娘だと理解した。
『何か御用で?』
彼女が厄介者なのは知っていたので当時の自分はそうぶっきらぼうに返した。
『今日からここで働くことになりました。リーシェ・シェードランです』
驚いた。
本当に驚いた。
持っていた鍬を落っことし、暫く口を大きく開けたまま固まるぐらい驚いた。
最初は冗談かもしくは屋敷のメイドの悪戯かと思ったが不慣れな、しかし必死な感じで厩舎の掃除を始めたのを見て彼女が本当にここで働こうとしているのだと分かった。
ゼダ人の女なんて役に立つはずがないと思っていたのですぐに屋敷の人間に抗議をしたが無視され、『ああ、厄介者を押し付けられたんだ』と頭を抱えた。
だがどうせその内、大変な馬の世話が嫌になって居なくなるだろうと考えたが、リーシェは毎日朝早くから厩舎に来て仕事をし、自分が馬の糞に汚れても我慢して必死に働いていた。
そんな彼女の姿を見ている内にいつの間にか追い出したりする気が失せていた。
「ちゃんとお礼を言わないとな」
昨日、あれから父親と腹を割って話した。
父の気持ちを知った上で自分の気持ちをハッキリと言い、両親は真剣にそれを聞いてくれた。
そして洗いざらい話すと父はゆっくりとため息を吐きこう言ったのだ。
『お前に騎士になれる能力があり、本気でなりたいと思うなら挑戦してみろ』
父が完全に納得してくれているかは分からない。
だが何も話さず、理解しあえないで騎士を目指すよりは遥かに良かったと思う。
「明日は顔を出すかな?」
父と話す機会を作ってくれたリーシェには礼を言わなければ。
以前、彼女が冗談で『自分の騎士になるか?』と言っていたが今は悪くない……と思う。
将来、成長した彼女に跪き、騎士となった自分を想像して……。
(何を考えているんだ、俺は!?)
首を横に振り、邪念を払う。
それから近くに置いてあった木の棒を持ち、素振りをする。
日々の鍛錬が将来に繋がる。
ウェルナー卿もそう言っていた。
だから、今はまだ馬の世話係だがいつかは━━。
「ほう? 厩舎係が剣の鍛錬か?」
※※※
ロイに声を掛けて来たのはブロンドヘアーの男であった。
その雰囲気や身なり、そして背後に騎士が控えているのが見え、ロイは彼が誰なのかを直ぐに理解した。
レクター・シェードラン。
シェードラン大公の一人息子だ。
「……!」
ロイはすぐに棒を置き、跪く。
相手は大公の息子。何か無礼を働けば首が一瞬で飛びかねない。
ロイは固唾を飲み、冷や汗がじわりと吹き出る。
「おい、貴様。まさか騎士になりたいのか?」
「は、はい!」
「騎士は基本的に貴族しかなれん。平民の貴様が何故騎士になりたいなどと考える?」
レクターが近づいて来た。
跪いているため彼の姿は見えないが、足音が近づく度に鼓動が早くなる。
「どうした? 答えろ」
「あ、足を悪くした父に楽な生活をさせたいからです」
レクターが目の前で止まった。
息が苦しい。
彼の悪評は知っている。
もし彼の機嫌を損ねたらどうなるのか、考えるだけでも恐ろしくなって来る。
レクターが手を伸ばし、ロイは硬直する。
殴られるのか?
そう思っているとレクターはロイの肩に優しく手を乗せた。
「素晴らしい! 親孝行は良いことだ」
そう優しく笑みを浮かべるとレクターは木の棒をロイに持たせる。
「ほら、立ち上がれ。お前が騎士を目指しているというなら特別に私が稽古をつけてやろう」
「え、え?」
状況がよく分からなかった。
レクターに立たされると彼も木の棒を拾い構える。
大公の息子が平民に剣を教える?
それもあのレクター・シェードランが?
そんなことがありえるのだろうか?
「どうした? 早くかかってこい」
まだ混乱しているが、ここでレクターの誘いを断るほうが彼の機嫌を損ねるのではないだろうか?
そう考えると、ゆっくりと木の棒を構え向かい合う。
剣なんて素振りぐらいしかしたことがない。
できることはとにかく踏み込んで、思いっきり棒を振る。それだけだ。
「この……!」
まっすぐに駆け出し、レクターに攻撃を叩きこむ。
だが彼はそれを簡単に避けてみせるとこちらの足に己の足を引っかけ転ばせてきた。
地面に無様に転がってしまい。すぐに立ち上がろうとすると。
「ほれ? 行くぞ?」
顔面に棒が叩き込まれた。
※※※
「その時! 私は人生で最も追い詰められていたといっても過言ではなかった! 相手は20人くらいの山賊、大して私はか弱きドワーフの吟遊詩人。屈強な悪漢どもに囲まれ、私はどうしたと思います?」
「戦ったの?」
「そんなまさか! 戦っていたら私今頃あの世に居たでしょうな!」
朝。ユキノにが部屋に出て行ってからしばらくしたらヘンリーが私の部屋を訪ねてきた。
私が今日部屋から出られないという話を聞き、話し相手になると言ってくれたのだ。
私はベッドの上に腰かけ、先ほどからヘンリーの冒険譚を聞いていた。
「こう見えて、けっこう金は持っている方でしてね? 奴らの前で金貨が一杯に入っていた袋を投げ出したのですよ。宙に舞い、飛び散る金貨に目を取られているすきに私は脱兎の如く逃げだしましてね。まぁ、結局追い付かれたんですが」
「これでしばらく素寒貧になったんですよ」とヘンリーは苦笑する。
「で、今度こそダメだと思った瞬間、山賊に矢が降り注いだ! 次々倒れる山賊たちを見て、何事かと思えば近くを通りかかっていた傭兵団が私が襲われていることに気づき、助けに来てくれたのです」
ヘンリーは近くにあった羽箒を手に取り、振るう。
埃が飛ぶのでできれば止めて欲しいのだが……。
「彼らは自分たちを最強無敵鋼鉄団と呼びましてね━━」
「まって、今なんて?」
「最強無敵鋼鉄団」
「え、本当に?」
「ええ、本当に。まあネーミングセンスは私も最低だと思いましたがね? 実力は本物だった。山賊が慌てふためていていたのもありましたが、あっという間に傭兵たちは斬りこみ、バッタバッタと敵を薙ぎ倒していく。いやあ、その光景は心が震えましたね」
ヘンリーはそう言うと羽箒を元の場所に戻す。
「で、山賊が全部倒されると傭兵団の団長が近づいてきてこう言ったのですよ。『ここいらは危険だから近くの町まで送ってやろう! なあに、礼には及ばねえ』と」
「いい人たちだね」
「ええ、まったくその通りで。で、暫くは彼らと一緒に行動し町に辿り着いたら分かれたのですよ」
傭兵は基本的に金にがめついと聞く。
命を救ってくれた挙句、無償で町まで送ってくれるなどとても珍しいことだ。
ヘンリーが「さて、次は何を話しましょうかね?」と首を傾げていると外が騒がしいことに気が付いた。
彼と顔を見合わせ、それからベッドから立ち上がるとそっと部屋のドアを開ける。
「それ、本当なのか?」
「ああ、厩舎前だ。あれは少しまずいかもしれん」
部屋の前で見回りの衛兵たちが何かを話しており「厩舎」という単語を聞いた私は廊下に出る。
「何かあったの?」
「リーシェ様! 今日は部屋から出ては駄目ですよ!」
「いいから。厩舎でなにかあったの?」
私の言葉に衛兵たちは困ったように視線を交わし、それから口を開いた。
「その、厩舎のロイがですね。レクター様に剣の稽古をつけてもらっているようなのですが、それが、えっと、どうみても一方的なものにしか見えなくて……。このままだと彼が大怪我を追うのでは……あっ!?」
私は厩舎に向かって駆け出していた。
※※※
レクター様がロイに剣の稽古をつけているという話はエドガーの耳にもすぐに伝わった。
急ぎ厩舎前に向かえば既に衛兵たちが集まっており、遠巻きに二人の様子を見ている。
「すみません! ちょっと前に!」
衛兵たちを押しのけ、前に出ると絶句した。
余裕の笑みを浮かべるレクター。
大してロイは痣だらけで鼻血を出している。
「ほれほれ! どうした!! 動きが鈍いぞ!!」
レクターが棒を振り、ロイの腕を思いっきり叩く。
そして次はわき腹、その次は首、そして腹に蹴りを入れる。
これが稽古!?
どうみても一方的な暴力だ。
「どうして止めないんですか!」
近くにいたコーンゴルドの衛兵にそう訊くと彼は困ったように首を横に振る。
「相手は大公のご子息だぞ。巻き込まれたくない」
「そんな……!?」
ロイが倒れこむように両膝を着いた。
それにレクターがゆっくりと近づき、彼の手を足で踏む。
「がああ!!」
手を踏まれたロイはもがき苦しむがレクターは踏む力を緩めず、嗜虐的な笑みを浮かべていた。
「おおっとすまない。大事な手を踏んでしまって申し訳ない。だが、これもお前のためを思ってやっているんだぞ? 平民が騎士になっても苦労するだけだ。俺はお前にそんな苦労をして欲しくないのだよ。分不相応な夢を持たず、大人しく馬の世話をしていろ。おっと、手が壊れたら馬の世話もできなくなるな!」
レクターがロイを蹴り飛ばすのを見てエドガーは唇を噛み、拳を強く握りしめる。
なぜ、このような暴力が許されるのか。なぜ、誰も助けに行かないのか。なぜ、自分は見ているだけなのか。
こんなことを見過ごすために己は騎士を目指しているのか?
そんな筈はない。
「そういえば、親孝行のために騎士を目指しているとか言ったな。どうせそれも嘘だろう? 貴様ら平民はどいつもこいつも卑しい。本当は出世して自分が良い暮らしをしたいだけだろう!」
もう我慢ならない。
ロイがどれだけ家族のことを思っているかは幼馴染の自分が良く知っている。
アイツの純真な願いを、夢をこれ以上踏みにじられてたまるものか。
そう思い、一歩前に出ようとした瞬間、少女が屋敷から飛び出てきた。
「止めて!!」
※※※
私は屋敷から飛び出ると直ぐにその光景を目の当たりにした。
ボロボロになり倒れているロイ。
それを足踏みにする貴族の男。こいつがレクターか。
レクターは此方を見ると目を丸くし、嫌らしい笑みを浮かべた。
「おいおいおいおい! 噂には聞いていたが本当に豚を養子に迎えていたとは。ああ、なんと嘆かわしい。ゼダ人を養子にするなんて同じシェードランとしてこれほど恥ずかしいことは無い」
煩い。
レクターが何かほざいているがそんなことはどうでもいい。
私はレクターの方に向かって歩き始め、彼は「なんだ、気に障ったか?」と笑う。
だが私はそれを無視すると彼を押し退け、ロイの傍に寄る。
「ロイ、大丈夫……?」
「ばか……なんで出てきたんだよ……」
ロイは全身痣だらけだ。
あちこちに傷があり、血が滲んでいる。
直ぐにとと様に頼んで治療しなければ。
「おお! なんということだ! 豚が平民の子供を心配しているぞ! お前ら見ろ、世にも珍しい光景だ」
「立てる? 消毒とかしないと」
「おい、お前。そこの豚。先ほどから俺を無視しているが、挨拶ぐらいしたらどうだ?」
「折れたりは、してなさそうだね。良かった。すぐに治るよ」
「……おい、貴様」
「もし、明日も痛かったら私が代わりに一人で仕事をするから。ゆっくり休んで」
「貴様! 無視するな」
レクターに肩を掴まれた。
邪魔だ。お前なんかに構っている暇はないんだ。
ロイの手を取り、立たせようとするとレクターは顔を歪ませ、棒を振り上げた。
「この俺を、無視するなっ!!」
棒で力強く頭を殴られた。
痛い。頭皮を切ったらしく頭から血が流れる。
私は少しよろめくが踏ん張り、ロイの手を引く。
それにレクターはますます怒り、棒で私を何度も殴りつけてきた。
「や、やめろ!!」
ロイがレクターを止めようとするが、私は「無視して」と言う。
殴られるたびに痛みで動きが止まるがどうにかしてロイを立たせると、私たちは屋敷に向かって歩き始めた。
するとレクターは殴るのを止め、護衛の騎士の傍に行くと「それをよこせ!」と騎士から短刀を奪い、私の胸倉を掴んできた。
「どうやら躾が必要なようだな! 殴っても分からないならこうするしかあるまい!!」
短刀が頬に突き立てられた。
護衛の騎士が「そ、それはいけません!」と止めようとするが激高したレクターは「黙れ!!」と一喝するとこちらを睨んでくる。
彼の瞳に映るのは激しい怒りと、焦り。そして僅かに恐れがあったような気がした。
「……あなた、何を恐れているの?」
「なんだと……?」
「平民と、ゼダ人の女に無視されて。どうしてそんな怯えたような目をするの?」
スッとレクターの顔から感情が抜けた。
短刀を持つ手に力が込められ、短刀の先端が頬に少し刺さる。
痛みと頬を流れる血の熱さを感じながらも私は一瞬たりともこの男から視線を外さない。
「貴様が何を言っているのかは分からんが、もう黙れ。泣いて土下座をすれば許してやってもいいと思ったが、この俺を侮辱したのは許せん」
レクターが短刀を振り上げる。
近くでロイがレクターに飛びかかろうとしているのが、遠くでエドガーが怒りの表情で剣を抜こうとして周りに止められているのが見えた。
そして短刀が振り下ろされ、私の首に吸い込まれそうになった瞬間。
「何をしているのっ!!」
ルナミアが怒りの形相で屋敷から出てきた。
※※※
ルナミアの声にレクターは動きを止め、己の従妹の方を見る。
「何を、だと? この豚が己の立場を理解していないようだったので躾ているだけだ」
「躾? 躾ですって? 私の妹を? その短刀で?」
信じられないという表情をした後、ルナミアは肩を怒らせこちらに近づいてくる。
そしてレクターの前に来ると、殴った。
顔面に一発叩き込み、その後体勢を崩した隙に彼が持っていた短刀を奪う。
そしてそのままレクターの首元に刃を突き付けた。
「き、貴様……!?」
辺りは騒然とした。
辺境伯の娘が大公の息子に刃を向けたのだ。
護衛の騎士が慌てて「おやめ下さい!」と動こうとするがルナミアは「動くな!!」と睨みつける。
「レクター従兄上。これが貴族のやることですか? 弱きものを踏みにじり、汚し。貴方のやっていることはそこらの賊と何ら変わりがない!!」
「なんだと!! おい、貴様! 俺を助けろ!! この女をさっさと取り押さえろ!!」
護衛の騎士はレクターの指示に躊躇うが剣を抜き、「お願いです。ルナミア様、下がってください」と懇願する。
騎士が剣を抜いたことにより、エドガーを始めとした何人かのコーンゴルドの衛兵たちも剣を抜いてルナミアを守ろうとする。
一触即発。
城の中でシェードラン家同士が武器を取り、向かい合うことになってしまった。
もしこの場で誰か一人でも血を流せば大変なことになる。
(ルナ……)
私はレクターを拘束した姉を見ながらどうにかこの状況を打破できないか必死に考える。
だが混乱した頭では考えが纏まらず、時間だけが過ぎていく。
そしてレクターの護衛の騎士が慎重に一歩前に出た瞬間、鐘がけたたましく鳴り響いた。
「敵襲!!」
※※※
衛兵のサムは城の胸壁で見張りを行っていた。
今日も空は青く、雲は白い。
いつも通り、平和なコーンゴルドだ。
「よう、お疲れさん」
そう声を掛けてきたのは同じく衛兵のマイクだ。
彼に「そっちもお疲れさん」と言うと二人で緑広がるコーンゴルドの土地を眺める。
「お前、見たか? 大公閣下の騎士たち」
「ああ、見たよ。どいつもこいつも派手な鎧を着ちゃってまあ。うちの騎士様も立派な鎧を着ているが大公直属となるとやっぱ違うねぇ」
「護衛で騎士50人だもんなあ。うちは20人位しか騎士がいないってのに」
辺境伯といえ、友好的なエルフラント神聖国と接しているこのコーンゴルドは騎士や兵の数が他の辺境伯より少なく、周辺諸侯より少し多い程度だ。
対して大公の下には300を超える騎士に数千兵士がいるのだ。
護衛に騎士50人など大公にとっては普通、いや少ないくらいなのだろう。
「いいじゃねえか、平和でよ。俺はこのまま戦に巻き込まれないで爺さんになりたいね」
マイクの言葉にサムは頷く。
自分たちは実は結構な古参兵士で、メフィルの大反乱などを経験している。
あの時は本当に地獄だった。あんな思いはもうこりごりだ。
「ん?」
マイクが遠くを見て目を細めたので「どうした?」と訊く。
「いや、遠くで何か……」
彼の見ている方を自分も見てみる。
遠くの丘。
そこに何かがいるように見えた。
「……なんだ?」
それは少しずつ増えていき、丘の上に広がっていく。
漆黒だ。
漆黒より何かが現れ、その数はあっという間に千を超える。
亡者だ。
亡者たちが列を成して突然現れ、死霊の軍勢が展開される。
亡者たちが振りかざす深紅の旗に描かれるのは大蛇の紋様。
それはつまり━━。
「ヴェルガの旗だと!?」
直後、漆黒の軍勢より空を覆いつくすような矢が放たれ、降り注いだ。
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