レインの冒険
俺の名はレイン。
生まれはクアルト。親父はハンターだった。母は俺を生んだ後亡くなったと聞いている。親父も俺が十二の時に死んだらしい。
なぜ、らしいかというと、親父のパーティーがハンターギルドで依頼を受けたが身の丈に合わない依頼を受けたせいで、依頼を失敗しなんとか逃げ延びた一人を残し行方不明だからだ。
まあ、正直生きていようが死んでいようが、どうでもいい。ろくでもねぇ親父だったからな。いなくなってせいせいしているくらいだ。
俺は十才になった頃からハンターギルドに登録して金を稼いでいたので、親父がいなくなってもさほど生活に困ってねぇしな。
親父がいなくなったことで、本格的にハンターの仕事をすることにした。今ままでは町中の依頼しか受けていなかったが、これからは町の外に出ての依頼を受けることにした。
とは言っても、十二のガキにできる依頼なんてそうはない。最初の頃は先輩パーティーの荷物持ちの依頼からだった。
荷物持ちの依頼を受けながら、先輩たちにハンターとしての技術を学んでいくのが見習いハンターの通る道。野営の仕方、薬草などの採取の仕方、モンスターとの戦い方から解体技術まで、学ぶことは多くある。
依頼のないときはギルドの指導員から戦闘の訓練を受ける。俺は元々、槍スキル持ちだったのでそこを中心に伸ばしずつ遠近中攻撃全体を満遍なく学んだ。
そして、十四才になった時には独り立ちしていた。独り立ちといっても最弱のモンスターであるゴブリンを狩りながら、薬草を採取してくるだけだ。
所謂、新人ハンターがやるゴブリンスレイヤーってやつだ。
ゴブリンは最弱モンスターだが繁殖力が高く、この大陸のどこにでもいる。そのため数が増えると村を作って更に増えていく。
何も被害を与えないなら別にいいのだろうが、村を襲ったり街道を通る商隊や旅人を襲う厄介なモンスターだ。
だから、常時ハンターギルドにはゴブリンの討伐依頼が出ている。最弱モンスターなので、自ずと新人ハンターが受けることになる。
討伐するだけでも依頼料はもらえるが、ゴブリンは肥料に加工できるので持ち帰って売っても金になる。収納スキル持ちでもないと持ち帰ることはできないが、討伐した後に業者を呼んだり、パーティーなら荷車で運んだりするのが普通だ。
俺はソロなので倒した後、土スキルで地面に埋めて後日業者と掘り返しに来ている。
そんなことを数年続けていると、自他共に認める立派なゴブリンスレイヤーとなっていた。
ギルドからはパーティーを組んだらどうだとよく言われるが、俺はもう少し金を稼いだら王都に行くつもりだ。そこで依頼をこなし広い世界を見て回りたいと思っているので、ソロがいいと断っている。
そんなある日、技量はないが異様に力の強いゴブリンと遭遇した。討伐証明を剥いでいる時に、そのゴブリンが指輪をしていることに気がついた。
世の中にはAFという、神の力が宿ったアイテムがあるという。稀に迷宮などで見つかる代物。もしかしたらと頭をよぎる。
それがAFかを確認するには、鑑定スキル持ちに確認してもらわないといけない。鑑定スキルは希少で所持している人は少ない。たいていは国かギルドに雇われている。
このクアルトのハンターギルドにも買い取りの部署じゃないが鑑定スキル持ちがいる。事情を話せば見てもらえるだろうと思っていた頼んだが、統括主任のガイスさんに
「ケッ、ゴブリン如きが
と一蹴されてしまった。
なんとか粘ってお願いしたら、最近ハンターギルドに見習い職員として入ったネロっていう俺と同じくらいの歳の奴が鑑定してくれ、本物のAFということがわかった。
AF 力の指輪 装備者の筋力を五割増しにする
売れば大金、国に献上すれば騎士になることもできる。
だが、俺は売らないし騎士にもならない。このAFは俺が使う。このAFがあれば俺は相当強くなれる。いつか世界を見て回るには役に立つものだ。
その日からAFの検証を始めた。元々ザコだったゴブリンがゴミになった……。これは、ヤバい。これを使っていたらおれは駄目になる。絶対に実力を勘違いをして自滅する。
これは、俺が本当に強くなるまで封印だ。無くさないように、丈夫な革紐に力の指輪を通して首からさげる。いつか、この指輪にふさわしい実力をもった漢に俺はなる!
そろそろ、この町を離れようかと思い始めた頃、ハンターギルドで依頼表を見ていると、街道で商隊がゴブリンの集団に襲われていると報告が入ってきた。
緊急依頼だ!
町に残っていたハンターたちと急いで駆けつける。なんなんだ、このゴブリンの多さは? 普通なら多くても精々十匹くらいなのに、見えるだけで三十以上のゴブリンがいやがる。
俺たちが着いたとき、商隊の護衛だったハンターたちは立っているのもやっとという状態だった。最弱モンスターとはいえ、この数を荷馬車を守りながら戦うのは無謀だ。怪我をしている者もいる。
責任感からなのか、依頼失敗の違約金が嫌だったのか、引き際を誤ったせいだ。命あっての物種だっていうのにな。
俺たちが参戦し始めると後続のギルド職員組がやって来た。これで荷馬車と怪我人は任せられる。
怪我したハンターをギルド職員の所に運ぶと、買取カウンターにいた白い子猫を肩に乗せたネロって奴がポーションで治療していた。
怪我人を預けようとしたら、その怪我人が商隊と一緒に旅していた女の子がゴブリンに追われて森に入ったという。
さすがに俺一人では手に余る……弱そうだがこのネロって奴を連れて行くか? まあ、なんかの役には立つだろう。
森の中に入ったはいいが、女の子がどこにいるかわからない。探し周りながらネロとお互いに自己紹介しながら女の子を探す。
そんな時にネロの肩に乗った子猫が何かを感じたようだ。その子猫の感じほうに向かうと……いた!
ゴブリンに追われて木の上に登って逃げたようだ。お前は猫か! よく見れば
そんな木の下にゴブリン共が集まり。女の子を狙っている。まずい状況だ。
どうするかネロに相談しようかと思った時に、ネロの肩にいた子猫がゴブリンたちのほうに飛び出す!?
無謀極まりないが、なかなかの義侠心。そういうの嫌いじゃない!
俺も飛び出し、近くのゴブリンに槍を突き刺す。ゴブリンスレイヤー舐めんなよ!
子猫はゴブリンの脇を駆け抜け、飛ぶように木を登り女の子の所に行き、下のゴブリンにフシャーと威嚇。あいつは漢だ! とその時は思った。後で女の子と知ったが……。
「猫さま~」
おいおい、助けた俺たちに感謝は気持ちはないのか? ネロは何もしてないけどな。その気持ちは汲めよ。
ネロは苦笑いだ。納得できないが、俺も苦笑いだ。
女の子の名前はプルミ。ハンターギルドの受付主任のパミルさんの姪だった……。に、似てねぇ。
ネロとプルミは歳がほとんど同じ、この町を離れる俺は仲良くするつもりはなかったんだが、苦境を乗り越えた者同士ということもあり仲良くなってしまった。
プルミはあの才女のパミルさんの姪なのに、相当なポンコツ娘だ。仕事に来ても、いつもネロの連れている子猫を追っかけ回していて、パミルさんの雷が落ちている。
ネロはいつも飄々としてる割に、仕事ができギルドの職員からは信頼されているよう。実際、ネロが買取カウンターの仕事に着いてからは、買い取りの精査時間が早くなり、待ち時間が短くなったとハンターたちからも好評だ。
山奥から出て来たという割には、礼儀正しく頭もいい。なのだが、山で育ったというのに体力もなく、ギルドの教官に見捨てられるほどへなちょこだ。不思議な奴だ。
そしてネロが連れている子猫のミーちゃんだ。プルミを助けようとした漢気から、男の子だと思っていたら女の子だった。そのことを話したら周りから白い目で見られた……。
ギルドやハンターのお姉さんたちから絶大なる人気があり、いつの間にかギルドのマスコットになっていた。その子猫の瞳に見つめられると、心の奥底まで見透かされているような気にさらされる。ネロ以上に不思議な奴だ。
まあ、なんやかんやでずっと腐れ縁になる奴らだ。
いつもお世話になっているファーレンさんがアルター商会の商隊の護衛で王都方面に行くと聞いたので、途中までその護衛に参加させてほしいと頼むと快く承諾してくれた。
聞けばネロもギルドのお使いでクイントまでいくらしい。短い旅だがいい思い出になるだろう、なんてその時は思っていた俺がいた。
一つ目の村に着いたその夜、異変が起きた。
ゴブリンが村に襲撃してきた。それだけでなく武器特化の上位種だけでなくゴブリンリーダーが指揮していた。正直、駄目だと思ったな。
死ぬよりましと、早々に封印した力の指輪は装備した。槍を振るう風切り音が変わる。
毒の塗られた大剣を振るうゴブリンリーダーに味方が尻込みするなか、なんとネロが漢気を見せてゴブリンリーダーの気を引く囮役を買ってでやがった。
くっ、負けてられねぇ。
ネロに気を取られたゴブリンリーダーが変な動きを見せ始める。今がチャンスとファーレンさんと目で頷き合いゴブリンリーダーに攻撃を仕掛ける。
ファーレンさんの槍がゴブリンリーダーの胸に突き刺さり、動きが鈍ったところで、俺の槍が奴の喉元を捉えた。ゴブリンリーダーの目から生の光が失われていく。俺たちの勝利だ!
リーダーが倒されゴブリン共が逃げ出した後、ネロは腰が抜けて動けないとみんなの笑いを誘う。
俺もいっしょに笑っていたが、本当は俺も足はガクガク。それに、ネロのやった囮役を俺がやったとしても、俺も腰を抜かしていたかもしれない。それくらいあの場面でネロのやったことは、勇気があり凄いことだ。
正直、ネロへの見方が変わった。いつも飄々とした奴と思っていたが、やる時はやる奴だったんだな。
次の日にはクアルトからガイスさん率いる応援部隊が到着した。これで安心とその時思っていた俺がいた……まさか二夜連続でゴブリンが襲ってくるなんてなぁ。それにゴブリンリーダー二体でだ。
次代の英雄と言われているガイスさんが戦列の前にいるだけあって、昨夜とは打って変わってみんなの士気は高い。あれが統率スキルの力か。
そのガイスさんは応援に来たのに酒飲んでフラフラ……あの人はいったい何しに来たんだろうな?
なんて思ったが
だが、やはりゴブリンリーダー二体はきついようだ。俺が参戦しているガイスさんが率いるほうは問題なさそうだが、もう一方は押され始めていた。
そんな時に大きな爆発音が聞こえ振り向けば、向こうのゴブリンリーダーの首から上がなくなり倒れ込むところだった。後から聞けばネロが咄嗟に思いつきやった仕業らしい。あいつは何気に頭もいいし機転が利く奴だ。でも、何をやったんだ?
向こうが敗走したおかげで、完全にこちらのペース。ファーレンさんの槍がゴブリンリーダーの太ももに刺さり、見計らったようにガイスさんの大ハンマーが炸裂。
ゴブリンリーダーの体がくの字に曲がる。いい位置にゴブリンリーダーの顔がきたので渾身の一撃。目を突き破り脳まで穂先が突き刺さり、ゴブリンリーダーの体が痙攣をおこした後動かなくなった。
さすがに疲れたが朝には村の復興をガイスさんたちに任せ、商隊は出発。その後はネロが一度やらかした以外は何もなくクイントに到着した。
ネロとはここでお別れだ。ネロには俺が王都に行くことは伝えいない。湿っぽいのはいやだからな。それに一生の別れじゃない。ハンターを続けていれば、どこかで会うこともあるだろう。だから、別れの挨拶はしなかった。
アルター商会の商隊とはセッティモで別れた。商隊はフォルテに向かうからだ。王都に向かう俺とは反対側だ。
セッティモのハンターギルドで護衛依頼の報酬を受け取ったら、ゴブリンの襲撃を撃退した報奨金も出ていた。
本当は各町で依頼をこなして王都に向かうつもりだったが、予定外の高収入で懐が温かくなたので依頼を受けず王都に向かうことにした。
テルッツォの町を出て三日ほど経った街道沿いに、誰かがうつ伏せに倒れているのを見つける。背丈からいって子どもだろうか? この近くには村はない。商隊がモンスターにでも襲われ、見捨てられでもしたか?
近寄ると、ぐぅ~と不気味な音が聞こえる。
「め、め、めしぃ……」
生きているようだな。それにしても、今時珍しい
しっぽが見える獣人の子どもか? 起こしてやるが怪我をしている様子はない。それにこの地方では珍しい猫獣人の
水筒から水を飲ませてやる。
「め、飯くわせろぉ~」
なんだ? このダンディボイス!? 子どもじゃないのか!?
それに、飯くわせろぉ~だと!
それが人にものを頼む態度か!
これが俺ことレインと、長きに渡り相棒となるポロとの出会いだった。
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