魔王ノブナガの野望

 我、第六天魔王ノブナガ。


 愚かなミツヒデに討たれたあの後、儂は閻魔と名乗る巨漢の男の前で正座させられておった。


「判決を言い渡す。お前は己の欲望を満たすため、多くの争いを起こし、兵だけでなく幾多の罪なき者たちをも殺したる残虐非道な行い。天上天下唯我独尊と言わんばかりの傍若無人な振る舞い許し難し。六道が一つ修羅道で好きなだけ殺しあうがよい!」


 鬼に引きずられ穴に落とされ気付けば、法螺貝が鳴り響く戦場におった。


 目の前で争っておった旗印は毘沙門と風林火山。そうか奴らも来ておったか……。


 くっくっく、そうか奴らとまた殺しあえるか。血沸き肉躍るわ! ここは修羅道とあの男は言っておったが、儂にすれば天国よ!


 なんにせよ、兵を集めねば如何ともし難い。修羅道におった雑兵共を力でねじ伏せ支配下においていく。


 しばらく雑兵を集めていればゴンロクが現れた。  


「久しいの。クマ」


「はっ。上様におかれましてまたご無事な姿を拝し、このゴンロク感無量でございます。何卒、配下の端にお加えくださるよう奉り候」

「で、あるか。励めよ」


「はっ!」


 流石、鬼柴田と言われたクマだけのことはある。わずかな時間で雑兵共を掌握しおったわ!


 だが、まだまだ兵が足りぬ。そんな時にまた久しい顔が現れた。


「よう! サブロウ。また一緒に暴れようぜ!」


「イヌか! よし、供をいたせ!」


「親父殿もいるのか。こりゃあ、楽しくなってきたぜ!」


「マタザか。今度は裏切るなよ」


「……へい」


 小姓からの付き合いであるイヌの帰参は頼もしい限り。槍のマタザの名に恥じぬ働きをせよ。


 雑兵の数も揃い小手調べに近くにいた一文字三つ星紋に攻撃を仕掛ける。どうやら、現世では相見えることのなかった謀神のようだ。息子共もいるようで、クマとイヌの突撃をタロウとジロウが抑え、マタシロウに横腹を突かれ敗走。癪に障るがジロウの槍の一突きで死んでしまったわ。口惜しい。


 すべては謀神の策であろう。クマとイヌでは相性が悪い。柔軟に対応できる智者が欲しいところだ。


「お呼びでございますかな? 上様」


「サルか」


「はっ」


「太閤様ではないか! 久しいのう!」


「マタザもこちらに来られておったか」


「ひげねずみ風情が天下人とは世も末よのう」


「上様風に言うなれば、是非に及ばずというところでございましょう」


「是非に及ばず……か」


「こうしてお会いできたのも縁。このトウキチロウめをまた使ってはいただけませぬか?」


「うむ、よかろう。死ぬ気で仕えよ。死んでも生き返るがな。はっはっはっはっ!」


 サルが加わわったことで破竹の勢いで勝ちを重ねる。やはり智者がおると違うのう。そして、毘沙門も風林火山も捻り潰してやったわ!


 その毘沙門と風林火山がこともあろうか、儂を倒すために手を組みおった。生涯の宿敵同士が手を組むとは面白い!


 激戦のうえ勝利を掴むことができた。


 我こそが最強。


 だが、心が満たされぬ。もっと戦いたい、強敵と渡り合いたい。死んでも生き返るこのようなぬるい戦いではなく、本当の意味で命を張って戦いたい。己が腕一本から築き上げた軍団でヒリヒリと肌を刺す緊張を感じる戦場。人の叫び声、血の匂い。敵であれば親兄弟ですら殺しあう瘴気渦巻く狂気な戦場。


「つまらぬ」


「ならば、その願い叶えてやろう」


「なに奴!?」


 黒い外套を着たて頭巾で顔を覆った老人らしき男。闇を体現したような老人だ。この儂が震えておる?


「なに者でもよい。貴様に機会をやる。すべての人族を滅ぼすという福音をな。どうだ、やるか?」


 胡散臭いじじいだ。


「断ればどうする?」


「他の者を選ぶだけよ」


 なるほど確かにここには代えはいくらでもおろう。


「で、あるか。なれば滅ぼした後はどうする?」


「好きにしろ。だが人族は多いぞ。全世界を相手にするのだからな」


 儂の寿命で日の本ですら統一出来なきなかったものを世界中とは……正気か?


「そこまで生きてはおれんぞ?」


「条件付きで不老不死にしてやる」


「その条件とは?」


「神の力で殺された場合は生き返れん」


「神の力?」


 神の力? 神など本当にいるのか?地獄があったのだから否定はできんな……。


「神に力を与えられた者。神の力を宿した武器で殺されれば終わりだ。永遠の闇に戻ることさえなく消滅する」


「そんな神の力を持ったものにどう勝てと?」


「貴様も我の福音を聞けば神の力を得られる。死にたくなくば強くなれ。貴様には無限の才能を与えてやる」


「よかろう。だが、儂の部下共も一緒にだ。どうだ?」


「構わぬ。では行け」




「我、第六天魔王。現世に降臨せり」


 周りには醜い姿の緑色の肌の小鬼が大勢ひれ伏しておる。褐色の肌の人間は見たことがあるが緑は初めてだ。世界は広い。


「う、上様でありますか!?」


 図体のでかい鬼がおる。


「クマか?」


「はっ、上様、お待ちしておりました」


「我々のほうが十年ほど先に着いたようで、準備を進めておりました」


 ひげネズミのような狡猾そうな小鬼がおる。


「サルか?」


「はっ」


 美貌とは言えぬが他の鬼に比べればいい顔の鬼が近寄って来る。


「マエダだけに男前だな。イヌ」


「サブロウも鬼になってもいい男っぷりだな!」


 ということは儂もこ奴らと同じ鬼に生まれ変わけか。あのじじい、人間に生まれ変わらせるとは言っていなかった……。


「あのクソジジイ、ぜってぇ殺す!」


 こうして始まったゴブリンキングノブナガの野望。


 ネロやミーちゃんとの運命の交差はもう少し先の話。


 魔王ノブナガ対神猫の対決の行方は如何なることに。


 神猫は魔王に勝てるのか!?


 乞うご期待!


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