ネロの剣術修行

 それは俺がまだ、ゼルガドさんの銃を受け取る前の話。


 自分の決定打に欠ける攻撃力の低さに悩んだ結果、今できる剣の修行をしようと考えた。


 ハンターギルドの教官に教えを乞うのもいいけど、せっかく近くに剣の達人がいるのだからそちらに教えを乞うことにした。


 そう、ペロだ。



「剣術をネロに教えるにゃ? にゃら、今から師匠と呼ぶがいいにゃ!」


「み~」



 ペロ師匠……俺は人選を間違ったかも。ミーちゃんは応援よろしく。



「まずは、基本の素振りにゃ!」



 と、言われても剣術なんてまったく知らない。中学の授業の体育で剣道を少し習ったくらいだ。


 真夏の体育館で臭い防具を身につけて、ふらふらになりながら授業を受けたのを思い出す。今思えばなんてブラックな授業だったのだろう……あれは虐待と言って過言じゃなかった。


 そんな悪夢の授業を思い出して、ハンターギルドの練習用のブロードソードで面の素振りを始める。



「ネロ。なにやってるにゃ? 前に行ったり後ろに行ったりして? 踊ってるにゃか? ペロは踊りも得意にゃよ。裸踊り見るにゃか?」


「み~?」



 裸踊り見たい気もするけど、今っは結構です。それになにって、ペロ師匠に言われたとおり素振りをしているのですけど?



「ネロにとってそれが素振りにゃのかにゃ? ペロは柔軟体操で踊りを踊っり始めたのかと思ったにゃ。ネロは素振りから教えにゃいと駄目にゃのか……前途多難だにゃ」


「みぃ……」



 いや、でも俺の故郷の剣術ではこれが素振りだったよ?



「そうにゃのか? まあ、大した剣術じゃにゃかったんだろうにゃ。あれにゃらタコ踊りのほうがましだにゃ」


「み~?」



 タコ踊りって馬鹿にしすぎじゃない? じゃあ、なんでそう思うのか説明してよ。 



「じゃあにゃ、にゃんで素振りの途中で振りきらにゃいで止めるにゃ? そんなに中途半端にゃ場所で止める意味あるにゃか? もしかして寸止めのつもりにゃか? 十年早いにゃ」


「み~?」



 さあ、なんでなんだろうね? 全く気にしたことがなかった。そういうものだと思っていた。まあ、剣術といってもスポーツの一種だからね。本当に斬ることを念頭には置いてないんだろう。



「そんにゃ変にゃ素振りしてたら、実戦でちゃんと剣が振れにゃくなるにゃよ? 筋力トレーニングをしたいにゃら別のメニューでするにゃ。そもそも、ネロはどんにゃ剣術で戦うつもりにゃ?」



 やっぱり、元日本人として刀がいいなぁ。



「刀ってどんにゃ剣にゃ? 聞いたことがないにゃ」


「み~」



 ミーちゃんは知ってるようだね。


 知らないペロに刀の形を地面に絵を書いて、ペロの持っているサーベルに似たようなものだと説明する。ペロの愛刀は虎徹。俺は和泉守兼定なんていいんじゃないだろうか。 刀スキーのせいで無駄に力んで説明してしまった……。



「ネロ……本気にゃ? ペロはこれでも五歳の頃から剣術をまにゃんでいるにゃ。今からペロとおにゃじ剣術をまにゃぶと、ペロの領域に達するのは十年以上経ってからにゃよ? まあ、才能があればもっと短くなるとは思うけどにゃ。ネロに才能……ぷっ」



 なんだよ。その『ぷっ』ってのは!


 確かに俺には才能なんてないよ! 覚えられるスキル中にも剣術が無いくらいだからね。でも、男の浪漫なんだからいいじゃないか!



「剣術にロマンもマロンもないにゃ! 蒸かしたマロンは美味しいけどにゃ。更に甘く煮ると、もう頬っぺたが落ちそうににゃるくらい美味しいにゃ! ママにゃんの得意料理だったにゃ……ママにゃん、元気かにゃぁ」


「み~?」



 ミーちゃん、今度栗を探して蒸かしてあげるよ。モンブランケーキもいいね。ペロのママにゃんの得意料理は栗の甘露煮かな? 砂糖が高くて手に入りにくいから、はちみつ煮かも。今度作ってあげよう。


 ペロは怪我をしたくなければプレートアーマーに剣、できれば盾も持つくらい重装備にしないと駄目と言う。


 試しにハンターギルドの倉庫にあったプレートアーマーと剣を装備してみることにする。


 いや、これが大変。一人で装備なんて無理。ペロに手伝ってもらうがなかなか難しい。見かねたギルドの教官が手伝ってくれてやっと装備できた。


 慣れれば一人で装備はできそうだ。そう、装備はできた。できたが倉庫から訓練場までガッチャガッチャと歩くので精一杯。


 兜をかぶっているので視界が悪く息苦しい。訓練場までの数十メル歩くだけで、立っているのがつらいほどへとへと。ひっ、ひっ、ふぅー。


 取り敢えず、ミネラルウォーターを飲もうとしたけど上手く飲めない……。プレートアーマーの関節領域が狭いのでペットボトルが口まで運べない。ペロにミネラルウォーターを飲ませてもらい、なんとか復活! 一人じゃ飲むのが非常に大変だよ。



「ネロ……無理じゃにゃいか?」


「みぃ……」



 いや、せっかく大変な思いして装備したんだ、やってやるぜ! それにこのプレートアーマーは俺の本来のサイズより大きいものだと教官が言っていた。サイズが合ったものならもっと動きやすいはずだ。


 さあ、颯爽と腰に佩いた剣をぬくぅ……抜く! あ、あれ? ぬ、抜けない!?


 ペロ師匠! 剣が途中までしか抜けません……どうしたらいいのでしょうか?



「剣を上から抜こうとしたならにゃ、腕の長さ分しか抜けにゃいのは当たり前にゃ。鞘を水平にして横に抜くにゃ……」



 おぉー、抜けました。なるほど理にかなった方法だ。じゃあ、剣を背負った人ってどうやって抜くの?



「にゃんでわざわざ背中に剣を背負うにゃ? ネロの言ってる意味がわからにゃいにゃ」



 でっかい大剣とかだと腰に佩えないから背中に背負うしかないでしょう?



「でっかいってどのくらいにゃ?」


「み~?」



 なので、人が大剣を背負った絵を描いてペロに見せる。



「ネロ……でっかい大剣って、そんにゃでっかい大剣を持てる人が居ると思うにゃか? オークにゃんかのモンスターにゃら馬鹿力で持てにゃくはにゃいかもしれないけど。例えにゃ、持てたとしても戦えにゃいよ。ペロにゃら相手がでっかい大剣を振る動作に入った時点で、斬り捨てれると思うにゃ」


「みぃ……」



 ご高説ありがとうございます。ペロ師匠。


 ミーちゃんはでっかい大剣に興味を持っていたようだけど、現実を知ってがっかり顔。俺も現実を知ってがっかり。こっちの世界ならあるいはと思っていたのにね。


 そんな大剣の話はどっかに置いといて、抜いた剣で素振りでもしてみよう。と思ったけど、う、腕が上がりません……。剣の重さとプレートアーマーの関節部分がうまく動かないせいと、プレートアーマーの肩幅が広すぎて腕が斜めにしか上がらない……。


 上げるのを諦めて横なぎや突きの動作をしてみるけど、プレートアーマーがギシギシガシャガシャうるさく動きもぎこちない。傍から見れば油の切れたロボットのように見えるだろう。ロボットを知っていればの話だけど。



「まあ、ネロの体に合ったプレートアーマーじゃにゃいからにゃ。そんにゃもんにゃ」



 ちょっと動いただけなのに汗がだらだらで息が上がっている。く、苦しいー。ここはミネラルウォーターの出番だ! とはいえ、飲むのも一苦労。



「みぃ……」


「ネロ。諦めるにゃ。ペロが悪かったにゃ。ペロにはネロに剣術を教えるのは無理にゃ。まだまだ己の修行が足りにゃかったようにゃ。師匠は返上にゃ。それに姫も心配してるにゃ」



 せっかく身につけたプレートアーマーだけどミーちゃんまでもが心配になるようなので、元の倉庫に戻してきた。脱ぐのにも大変苦労して苦笑いの教官の手を借りたのはお約束。これを装備している人たちは毎回こんな苦労うをしているんだろうか?


 プレートアーマーを脱いですっきり。じゃあ、ペロ師匠、次お願いします。



「えぇー、だから無理にゃ~。ペロはもう師匠じゃにゃいにゃ。それに、まだ諦めてにゃいにゃか?」


「み~」


「うにゃ~。そうにゃ! こん棒を使うにゃ! 姫、ニャイスアイデアにゃ!」



 えぇー、こん棒ですか~。そんなの格好悪いよ~。



「なに言ってるにゃ! 今のネロに使える武器にゃんて、そうにゃいにゃ! そんにゃにゃかでこん棒はとても優秀にゃ! にゃんといっても頭の悪いゴブリンでも使えるにゃ!」


「み~!」



 ミーちゃん……そこは、そうだよ! じゃなくて否定してほしいところなんだけど……。



「こん棒の使い方は簡単にゃ。近寄って殴るだけにゃ! にゃにも考えず、殴って殴ってにゃぐるだけにゃ! って思ったけどにゃ……ひ弱にゃネロには無理かにゃ?」


「みぃ……」



 ひ、ひ弱……って、じゃあ、どんな武器を持ったって無理ってことじゃないか!



「そうにゃのにゃ……本当は槍や弓のほうがいいと思うんだけどにゃ。やっぱり、非力なネロには無理にゃのにゃ。師匠返上どころか失格だにゃ」


「……み、み~?」



 武器が駄目ならスキルがあるじゃな~い? ミーちゃん、どこかの国の王妃様のような、お言葉ありがとう。


 そうだね。一朝一夕で武器が扱えるようになろうなんてのが、間違いなのはわかっている。元々、戦うセンスなんて平和な場所で過ごしてきた俺にあるわけがない。だからこそ、あの時身体強化と弓のスキルを選んだんだ。


 そう、これもすべてあの神様が悪いんだ! 勝手にスキルを変更してからに。猫用品は役に立ってるけど、あれだけ悩んで考えたスキル構成を無駄にしてくれた。今度あったら絶対に文句を言ってやるんだからな!


 こうして、俺は近接武器で戦うことを諦め、銃求めスキルの熟練度上げに精をだすことになる。


 のちに、人々は俺を千技のスキルユーザーと呼ぶ……ことはないだろうね……。



 余談だけど、訓練した日の夜からペロが、



「ネロ! ペロ師匠はピラフおにぎりとから揚げが所望にゃ!」



 と当分の間、のたまうようになった。


 高い授業料になっちゃったよ……。



「み~」




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