live someone's time 03
「……新しい場所、探さなきゃ」
河原をふらふらと歩きながら、自分に言い聞かせる。
今は何かしていないと落ち着きそうになかった。
視線を素早く、右へ、左へとやる。
右手には四車線の県道が南北を通っているけれど、車はときどき思い出したように通る程度。
左手の河川敷は雑草が茂り放題で、視線の先にある橋桁の下にはホームレスの段ボールハウスが十前後並んでいる。
私も段ボールハウスでも建てようか、そんな思い付きが脳裏を通過する。
もちろん本気じゃない。
自分がそんなに逞しいつもりはないし。
それに、いくら段ボールが頑丈だろうと、そこは私の居場所にはなってくれない。
橋の上では高齢の女性が重そうな荷物を背負って、のろのろと歩いている。
あの人には帰りたい場所があるのかな。
誰か人を見るたび、そんなことを思わずにはいられない。
時刻はもう6時を過ぎている。誰もかれもが自分の居場所へと戻っていく時間。
河原を通る人はいない。
私より孤独な人もどこかにいることは理解しているけれど。
私だけが取り残されたような感覚に胸がキュゥと縮まった気がする。
不安が歩みを少しだけ早くする。
いままでなら屋上に寝そべって、世界をたくさんの言葉で否定していればよかった。
なんで、と。気を抜けばすぐ口から漏れ出しそうになる。
気付けばさっきまで遠くに見えていた橋がすぐ側にあって、でも高齢の女性の姿はどこにもない。
私はその先がどこへと向かっているのか知らないまま橋を渡る。
見知らぬ場所。といっても一応の指標はほしいので、やっぱり探索は河川沿いになってしまう。
それから、何となしにしばらく歩いていた私は、その場所を見つけた。
そこは放置された工事現場のようだった。
4階建ての鉄筋コンクリート造のビルは四階部分の鉄骨が剥き出しで、敷地のあちこちには劣化した建材が積まれている。
打ち捨てられた残骸――と形容するのが相応しいような有様で、とても私を受け入れてくれそうにはない。
けれども気付けば私のつま先は視線の方に向いていた。
漠然とした予感、としか言葉にできない何かに背中を押されて工事現場へと近づく。
よく見れば4階部分の床、ようは3階の天井まではコンクリートが打たれていて雨風くらいはしのげそうだ。
それなら今夜はこの場所で凌ぐのも選択肢の一つかもしれない。
とても今のメンタリティで帰宅して耐えられるとは思わないし。
実際、学校に泊まったことだって何度もあるし、一週間ぐらい家に戻らなくても騒がれることはない。
今が12月だったりすれば話は別だけど、少なくとも今日の気温なら非現実的な案ではないはずだ。
とりあえず中に入ってみよう。
思いがけない好奇心に突き動かされて、外周のフェンス沿いに入口を探す。
すぐに大型車両が進入できるゲートを発見するも、当然ながら厳重に施錠済み。
しかたなしにフェンスを乗り越えようと、私は周囲に人気がないことを確認し――
「あれっ?」
ゲートの5mほど脇の位置に、フェンスに紛れて作業員が出入りするための扉が設置されていることに気付いた。
扉はシンプルな構造で、スライド式の錠が敷地外に向けられている。
本来なら南京錠か何かと組み合わせて使われるんだろう。けれど目の前のそれには余計な施錠はなかった。
錆が浮いているスライド錠は驚くほど簡単に解かれて、私は進入に成功する。
一面、茂り放題の雑草を踏み荒らしながら、建物へと近づいていく。
人の手を離れ、風雨に晒されてきた未完成の人工物がまとう独特の雰囲気に神経が張り詰める。
おかげで感覚が過敏になっていたのか。
背後から草を踏む音がして、私はとっさに振り返った。
けれど私が相手の顔を確認するより早く、驚いたような反応が投げかけられる。
「あれっ? もしかして
「……へっ? あ、あんた、
そこにいたのは工事関係者でもなければ警察でもない、まったく意外な人物。
半年前から不登校のクラスメイトだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます