県妖防学校初任課程

第12話 初日

 「おいっ! お前っ! 8時半集合だよな! 10秒遅刻だ! 何やってた! 」


 細身で長身の男が怒鳴られる。


 「すいません、ちょっと便所に行ってたものですから」


 「お前な、わかってんのか! 部隊行動するときに一人遅刻するっていうのがどういうことか! 一人の遅刻が全員の命を奪う! 今後絶対にないようにしろ。わかったな!! 」


 「はい……」


 教官の怒号が炸裂し、教場に緊張が走る……いや、走らない。


 全員分かっているのだ。


 この教官は、俺は鬼教官なんだぞということを演技しようとしていることに。

 声はでかいが、表情にやる気がない。

 俺はこんなことやりたくないんだけど、役割ってものがあるから仕方なくやるぜ、マニュアルに従ってな、というのがありありと伝わってくる。

 

 他二人の教官の表情も微妙だ。

 あちゃあ、やっぱりダメだったか、といった感じだ。


 生徒側もみな困惑の表情だ。どういう対応をしたら良いのかわからない。


 「……わかれば良い。全員次からは気を付けろ。返事はっ! 」


 「はい……」


 「声が小さいっっ!!」


 「はいっ!」


 茶番だ。教場全員が思う。


 「よし、じゃあオリエンテーションを始めよう。

 俺はこの課程の教官を務めるキクチだ。もともと自衛隊で妖獣駆除に係わっていたことから教官を拝命することになった。

 妖獣駆除で何人もの同僚が死んでいった。妖獣駆除の現場は戦場だ。

 お前らを一人前の妖防団員して戦場に送り込むのが俺の使命だ。

 一人でも生きて帰れるようにしたい。だから全力でこの課程に臨むっ!

 お前らも全力でいけっ!そして絶対に生きて帰ってこい!」


 小っ恥ずかしい。言ってる方も聞く方も。


 「返事はっ!」


 「はいっ!」


 「よしっ!」


 キクチはやっと終わったといった表情で降壇する。


 「私が副教官のヤマガタです。キクチ教官は主に実技を教えるのに対して、私は主に座学担当ですね。妖防団員は体だけ動かしてれば良いってものではないですよ。しっかりと勉強してください。

 私はもともと総務省で妖防庁発足のための仕事をしてたのですが、まぁいろいろあってですね、副教官ということになりました。

 この妖防団っていうのは様々な経歴の人が集まってますからね、楽しみです。どんな風になっていくのか。

 一緒に頑張って行きましょう」


 高そうなスーツを着た銀縁眼鏡の男が言う。歳は30代半ばといったところだ。


 「私も副教官を務めるフジナミサクラと言います。

 私は県の危機管理部にいました。妖獣に関して各関係機関、警察とか自衛隊とか、いろいろな組織同士の連絡役をやってたんです。副教官任命もその関係なのかな。とりあえず副教官をやらせてもらいます。

 副教官といってもね、やることは皆さんの生活管理とか福利厚生です。生活相談員の指定も受けてますので、困ったことがあったら何でも相談してください」


 美人である。色白で黒目がちな目、黒光りするショートヘア、大きめの胸。

 男性陣の心の中の喜びが伝わってくる。


 「よし!じゃあこれからお前らの自己紹介をしてもらう。4個班総員28名いるからな、経歴なんか話してたら時間がなくなるし、話したくないやつも多いだろう。名前と何か一言言うだけで良い。

 自己紹介が終わったら10分休憩。その後、授業を始める。

 授業って言っても今日はビデオを見ることが多いけどな」


▽▽▽


 「係長、いきなり怒られないでくださいよ。恥ずかしいなぁ、遅刻なんて」


 「しょうがねぇだろ、持病の頻尿を発症しちまったんだから」

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第六妖防団 山梨瑞木 @kuni0092

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