第2話 採用前日

午後7時15分、アダチヨウスケは職場から自宅までの道をとぼとぼと歩いている。

 

 オーロラだ。

 山際が赤く光っている。

 日本でオーロラなんて見ることはできなかったが、今は世界中で見ることができるから珍しくもなんともない。

 ノルウェーではオーロラは不吉の予兆とされているようだが、それは日本、いや世界中で同じになってしまった。


 オーロラの頻発と同じくして、不可解な生物が現れるようになった。

 いや、生物なのかもわかっていない。

 真っ白で、猪のようだったり蛇のようだったり、猫のようだったり人間のようだったり。

 昔話の妖怪だ、悪魔だ、幻獣だ、異世界生物だあれこれ言われているが、結局のところ何もわかっていない。


 わかっているのは現代科学では説明できないことが起こっていること。

 そして、妖獣の一部は人類に攻撃をしてくること。

 人類は身を守らなければならないこと、

 現時点の日本では攻撃してくる妖獣はほとんど出現していないが、不測の事態に備えて妖防団という民間人を徴用した組織が作られたこと。

 自分もそれに参加することになったことだった。


 アダチヨウスケは38歳、工場の内勤職員として毎日ダラダラ仕事していた。

 いや、仕事はしていない。仕事をしているフリをしているだけだ。

 結婚はしておらず、両親も他界してしまっているため、本当の独り者だ。

 そんなアダチに会社の人事係が目をつけたのだ。

 お前、妖防団に行けと。


 妖防基本法が可決され、今後各事業団体の規模に合わせて妖防団員を雇用しなくてはならなくなったのだ。

 いてもいなくても会社にとって問題のないアダチはまさに打って付けだった。


 アダチにとっても悪い話ではなかった。毎日デスクに座って仕事をしてるフリをするのは、正直辛いものがある。妖防団の活動と言って堂々とサボることも可能になるだろうし、それなりの金額の非課税の妖防団員給与をもらうことができる。

 アダチは人事係の要請を快諾した。

 

 採用試験もたいしたことは全然なかった。

 市役所で、担当者と面接し、一通り自分の経歴を話すと四肢機能に問題がないか確認されて終わり。

 単純な手続き、単純な試験。

 業務も単純だろ、どうせ。危ないことは自衛隊や警察がやるんだろうし。


 アダチはそう考えている。


 「新党の日本改造党のヒイラギです!国民の皆さん。今や我が国の課題は妖獣対策及び国防です!とにかく現在の政府は対応が遅い。良いですか皆さん。他の国は信用できません。何を考えてるかさっぱりわかりません!そこで我々は」


 「何を考えてるかわかんねーのはお前らだろうが!」


 政治活動と野次。

 最近の日本は妙な活気に満ちはじめている。政治だけでなく経済活動もだ。

 みな有事に備えようとしているのだ。

 妖獣出現により社会構造が明らかに変わりはじめている。これを機に野心を見せはじめる者も出てきた。


 でも自分には関係がない。大多数の人間のように社会の流れに任せるだけだ。

 そんな風に考えながら帰宅した。

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