14

 今日はもはや座学もない。ただのタイマンである。鍛錬場には大量の武器が落ちていた。

「おお来たか、小僧。じゃあ、好きなのを一つとれ、それで今日一日死なないように努力しろ」

峰内の大剣を肩に乗せたおっさんが言う。嫌な予感しかしない。

「はぁ」

取りあえず、僕がまともに使える武器である大鎌を両手で持ち、短剣を腰に控えておく。

「じゃあ、ルールを言うぞ。小僧は身体強化の魔法を使うのは禁止だ。それ以外の手段は何でも使え。あぁ、命に関わるもんは使うなよ」

「工房長も身体強化は使いませんよね」

一応、確認のつもりで聞く。あれがあるとないとじゃ全然、戦闘のレベルが変わる。

「いや、使う。質問はそれだけか」

「はぁ」

ため息をつく。無茶苦茶である。

「じゃあ、行くぞ」


 おっさんの地面に白色の陣が開かれる。属性のない魔法、恐らく身体強化であろう。そして、その陣が凄い密度の光で満たされていく。そして数刻後、魔法が起動する。

 風を切る猛烈な轟音とともにおっさんの姿が視界から消える。

 予め【解析】を起動し、辺りの魔素の動きを計測しておく。強化された相手を強化しない状態の目で見ることは出来ない。なので、その周りを観測することで間接的におっさんの動きを予測するしかない。

 どうやら、おっさんは一度距離を取って加速してから剣撃を与えるつもりのようだ。右後方から大剣をフルスイングの構えで、距離を詰めてくる。到底、あの剣を止められるわけないので、体をおっさんの間合いのなるであろう場所から逃げる。元居た場所のおっさんの顔の高さに短剣を投げつける。

 間合いから出ると同時におっさんは突っ込んできた。いや、あの短剣が無かったらこの一撃で終わっていただろう。剣を見て動きが多少ゆっくりになったのである。 

 その隙に風魔法を第四陣まで一度に開き、略式で起動準備する。

 「ふッ」とおっさんの笑った声が聞こえる。本当に感じが悪い。そして喜んでいるのだと思うと本当に嫌な人だ。

 そんなことが一瞬頭によぎった間におっさんは軌道修正し、こちらに大剣を振る。それを見越して魔法を起動し大気を圧縮して作った見えない壁と風圧でその剣撃を上に逸らす。

 体の上方に【コピー】で大気の壁を作り、安全を確保して両手で大鎌をおっさんの足を掬う形で振りかざす。が、それが当たることはなく、間合いを取られてしまう。

「おい、小僧。どうやって動きを見切ったんだ?これを見切れたやつなんぞ、この工房には一人もいねぇぞ」

 どうやら、会話ターンに入ったらしい。おっさんは体のあらゆる速度を上げる方向で身体強化を使っているようだ。体の動きが早まると必然と処理する情報量が増え体には大きなストレスとなる。だから休憩だろう。

「たまたまですよ。偶然」

 そう言いながら、新しく風の魔法を形成する。外気マナでは無くマキナのマナを僕の生体マナを元に【コピー】して。それにより、行える魔法の処理数が増加し、必然と威力が上がる。

「偶然であんなとこに短剣があるわけないだろう」

「そうですね」

範囲はおっさんの周りの空気、魔素は空気に含まれているため、真空にすれば魔素は取り込めず、強い魔法は扱えない。ましてや速度上昇の身体強化なんて無理だろう。

「よし、休憩は終わりだ。もう一本行くぞ」

 そう言うとまたおっさんは魔法陣を開き魔素を集める。そして起動する直前に僕の魔法を起動する。

 が、うまく作動していない。魔力が上手く陣から解放されない。

「ふッ」とおっさんは不敵な笑みを再び浮かべ、歩きはじめる。

 おっさんが今使っている身体強化は速度重視では無くて、パワー重視だ。魔法陣を見ていなかったことと、今起動している魔法がまともに起動しない上に、体に与える影響が大きすぎて動くのが遅れた。

 そしてボディーブローを決められ、ひとまずこの訓練は終わった。

 そして僕が回復したら、反省会が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る