8
目が覚める。まだ見慣れない寮の部屋だ。そして、左手にまとわりつく温かみを感じる。僕がそっちを向くと、首輪を付けてられていた少女がこちらを向いている。余りにも表所が違うので誰か分かるまでに時間がかかったが。そして、少女は僕が起きたことを確認するとそのまま左手を引いてそのまま僕を連れて階段を駆け下りて食堂に突撃していく。
「起きたよー」
と食堂中に響く声で宣言すると、おっさんが駆け寄ってくる。
「おう、大丈夫か」
「はい、別にどこもおかしくないですけど」
「ちゃんと覚えてるか?三日前のこと?」
三日前のこととは何のことだろうか。自分の記憶を辿ってみる。
「そうだ、勾玉を見て意識を失って」
するとおっさんが驚いたように話す。
「えっ?そこで意識を失ってたのか?じゃあ、あの後小僧がやったことは一体何なんだよ」
それはこっちが聞きたいと強く思う。するとアキ姉がおっさんを鎮める。
「そんな、三日間寝てた人を質問攻めにするんじゃないよ。全くもう」
「ああ、済まねえな。小僧。本当に何も覚えちゃいないのかい?」
謝罪になっていない平謝りをしておっさんはアキ姉の言葉を流している。
「それについては私から説明するわ」とどこかから声がする。どこだろうと辺りを見回すと、自分の手の中にさっきまで無かった感触を覚えていることに気が付く。右の手を開くと勾玉があった。
何らかの力によって第一陣を無理やり開かされる。すると、勾玉の周りの空気と魔素が凝縮されて人の形に収束する。真っ赤な黒髪の少女で、赤を基調とした黒色のドレスを纏い、あの勾玉に似ているデザインが刺繍された布を首輪のようにつけている。今思えばあの奴隷の首輪のように。
「どうも皆さん。初めまして。私、クロス=アキナの精、マキナにございます。先ほど、三日前になりますか。私の力によってその少女の首輪を破壊したのは。いやはや、ちょっ~と人を縛り付けてる楔にイラっとしてつい」
「いや、そんな簡単にできるもんじゃあ、ねぇと思うけどな」
冷や汗をかきながら、おっさんが恐る恐る言う。
「第七陣を使っていたなら、それは完全に僕自身の力ではありません。僕にはそれほどの力はありませんから」
僕も苦笑いで答える。
「それにしても、六芒星以外の形をした陣なんて初めて見たけどね。【古代魔法】かい?それとも【承継魔法】かい?」
アキ姉さんがマキナに質問する。確かに、現代とは微妙に構成が違う【古代魔法】や、魔導士の大家が独自に開発し血統限界として、子孫に伝えていく【継承魔法】でしか考えられない。というか、アキ姉さんは魔法に詳しいんだな。そんなことは一部の魔導書に趣味程度に書かれていて、もうほぼ失われた魔法とされている。
「ああ、この魔法はアキナの力を使ったものですので、その言い方に当てはめると【継承魔法】ってことになりますかね。ですが、当時はそれぞれの個人が違う魔法の使い方をしておりましたし。今みたいに『マニュアルで学ぶもの』じゃなくて、『開発していくもの』でありましたので」
当たり前のように物凄いことを言ってのける。
「当時ってのは?」
と戦々恐々とした顔でおっさんが聞く。
「【降臨紀】というべきですかね。今の人たちには」
【降臨紀】とは【創世紀】と呼ばれる、この世界の形成が起こった後、つまりこの世界が生まれてから約百年ほど後の現代にも神話として語り続けられている時代である。いわゆる、英雄が活躍した時代だ。
「まさか、『赤髪の女魔導士』かそのクロス=アキナってのは」
『赤髪の女魔導士』かの英雄と行動を共にしていた戦友で、神話の中では伴侶である。
「恐らくそれにございます」
とマキナは一礼する。
伝説が目の前にいた。
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