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 本当にすることが無くなってしまったので寮の周りを見て回ることにした。寮には古びた井戸がある中庭があった。そして、その井戸にもたれかかるように一人の全く感情のない表情の顔をした少女が座っていた。黒色の、その華奢な体には似つかないいかつい首輪をして。声を掛けようと思ったが僕が中庭に来ていることにすら全く気付いていない。すると中庭に直通している食堂からアキ姉さんが話しかけてきた。

「その子が気になるのかい?」

まあ、本質的にはそうなので、「はい」と頷く。

「その子は元は貴族の子だったんだけど、親に捨てられちゃってね。それを工房長が拾ってこの寮に置いてるんだけど、その子の親がつけた首輪のせいでその子は全てのことを感じないし、発しなくなってしまったんだよ。全くひどい親もいるもんだね」

「あの首輪、外せないんですか?」

「うちの野郎どもが色々試してるんだが、どうにもダメっぽいね。近代の魔術の代物じゃない、もっと世界の本質に近づいたものらしいね。詳しいことはよくわからないけどね。まあ、挨拶くらいはしときなよ。寮ではお前さんの先輩にあたる方だからね」

「はい」と答えてその少女に近づくが、本当に反応が無い。

「僕は今日からこの寮に来たエルトミア=ローグだす。よろしく」

やはり無反応である。そして、僕はその印象的な首輪に視線を移す。すると急にその首輪に見覚えを感じた。この人生始まって以来、見たことないはずなのに。そして今ズボンのポッケにあの勾玉があるのをはっと思い出し、取り出して勾玉を眺めた所までは覚えている。


 そこから先は少しあとに思いだしたことと、食堂から見ていたというおっさんとアキ姉さんとその少女の話による。

 勾玉を見た僕の黒目は赤色に染まり、髪の毛の色も赤色に染まり、地面に着くほどに長く伸びた。そこから、僕は誰かの声と重なるように神話の祝詞を唱え始めたという。

「我がクロス=アキナの名を持って始めよう」

と第一陣を起動し、その陣の真ん中に勾玉を添える。すると陣は赤色の紫電を発し、空に極光を生み出す。陣は八つに複製、分離する。そして、それを繋ぐように正方形の陣を二重に開く。その陣は次第に真っ赤に染まっていく、その陣の中にある八つの陣は中央の勾玉の周りを回転し徐々にその速度を上げて、それぞれの陣の中の六芒星は膨張し、その六芒星を繋ぐ二つの陣もまた、高速で回転している。そして、更に祝詞は続く。

「我を信じ歩むもの、その歩みを止めるもの、我は認めない。邪魔する楔は我が名を持ちて打ち払らわれん」

と言い放つと、少女の首輪には真っ赤な魔力が練り込まれていき、肥大化して黒い邪気を首輪から解き放つ。体裁を保てなくなった首輪は砂となって空気へ舞って行った。そして、僕は魔法陣を解きその場に倒れ込んだという。

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