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寮は工房から歩いて三十秒で、走れば三秒の場所にあった。寮は三階建てのコの字型をしていた。

入ってすぐに食堂があって、寮母さんが食事の片付けをしていた。多分、寮自体が工房の食堂を兼ねているだろう。丁度昼過ぎの時間である。

「すいません」と声を出して食堂に入る。すると、はーいとテーブルを拭いている手を止めて、寮母さんが腰のタオルで手を拭きながらやってくる。

「君かい?新入りってのは」

「はいエルトミア=ローグです」

「やあ、歓迎するよ。私はこの工房寮の女将アキだ。工房のやつからはアキ姉とか姉貴とか呼ばれてるよ。お前さんもそう呼んでおくれ。部屋へ案内するよついてきな」

とアキ姉さんと一緒に食堂から出て階段を上り、三階の端の部屋までやってくる。

「ここがあんたの部屋だよ。たまに見回りに行くから、汚くしないようにな」

「はい」

おっさんの言っている通りである。

「ああ、そのうち相部屋になるかもしれないけど、その時はよろしく頼むよ。じゃあ、荷物は運んどいたから~」

とアキ姉さんは階段を下りて行った。


 部屋にはベット、机、クローゼットが左右対称に二つずつ並んだ相部屋だった。右側に荷物が置いてあったので、恐らく僕の範囲は右側なのだろう。

 持ってきた鞄の中から陣の書かれた羊皮紙を出し、机に広げる。そして魔力を流し収納魔法を起動する。その中にはあらかじめ本や、服などを入れておいたので部屋に並べていく。元々持ってきた量も少なかったので片付けは半時もかからなかった。


 特にすることもないので、いつもしている魔力制御の練習をする。魔法陣を順番に展開していくだけであるが。

 まず、第一陣を起動する。第一陣はシンプルな六芒星の形をしていて、常に右回転で回っている。魔道具を起動するときなどに使う、【魔力動作】のスキルが無くても使えるものである。

 続いて、第二陣を形成する。第二陣は六芒星の周りを二重線で囲い、その線の間に三角形と逆三角形をはめ込んだ形をしている。第二陣では、魔力に方向性を持たせることができ、属性によって、火は赤色、水は青色、土は茶色、風は白色、光は黄色、闇は紫色と別々の色を示す。今回は風を選択したので陣の色は白である。

 さらに、第三陣を形成する。第三陣は第二陣の外側を三十線で囲い、その一番外側の線で、中心の六芒星のそれぞれの頂点を外側に複製して、より大きな内側とは逆の左回転している六芒星の形となる。第三陣では魔法に対して収束や拡散、限界があるが方向性や範囲なども指定できる。今回は自分の前に、机がある方に向かって拡散するように威力室内なのでなるべく抑えるよう設定する。

 更に、第四陣を形成する。第四陣は第三陣の更に外側を二重線で囲い、その間にその魔法の魔法式が刻まれている。第四陣に魔力を流していくと、徐々に陣が輝きを帯びていき、輝きがあふれ出しそうになったところで魔法が起動する。小規模の魔法なら、魔力をためる時間はそんなにいらないため、すぐに魔法が起動準備状態になる。途中で魔力を流すのをやめると陣はその体裁を保てなくなり、魔素として霧散する。

 最後に、起動用の陣を形成した陣の外側にかぶせて、魔法を起動する。

 陣から、弱い風が机に向かって吹いた。成功である。近距離即時詠唱魔法には更に第七陣まであるが、家にそれが記された魔導書はなく、まだ習っていないので僕に扱うことは出来ない。

 すると吹いた風によって、机の上の物が倒れてしまった。倒れたのは真っ赤な勾玉だった。この寮にもしっかり持ってきている。お守りにしてるしね。

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