第13話 手合わせ

視界がなにかに遮られて暗い。

__土方さんの声が異様に耳に近い。



「馬鹿野郎ッ、身体を冷やすんじゃねぇ!落ち着いて呼吸をしろ」



切羽詰まった声と、蒼白い顔がすぐ近くにあった。


誰と、いや何時かと間違えているのは明白だった。

確かに咽る状態はあの頃の咳と似ている気がする。過去と今を倒錯している彼を前に、申し訳ないことをした。



「お、おい、内藤」

「うるせぇっ」



あまりの剣幕に、大樹先輩の驚いたような声が後ろから聞こえるが、生憎土方さんに抱きすくめられているせいで視界は暗い。


止まらない咳と格闘しているせいで声はうまく出ない。

でも、今にも医者を呼びそうなほど錯誤しているこの人を落ち着かせないと。



「大丈、夫ですって」

「大丈夫なわけあるかっ」

「過保護だなぁ」

「てめぇ」



ついつい、懐かしいやり取りを繰り広げてしまった。

これでは余計に心配するばかりだ、私まで間違えてどうする。


ちょっと喉に残るスポーツドリンクで、咳をしながら苦笑いをする。

間違え続けている彼に答えを提示した。



「僕は薫ですよ、内藤さん」



訝しげに私を覗き込むのは、知っているかつての土方さんその人だった。

背中に暖かな人の腕があるのに、背中に冷水を流されたかのように思えた。


理解できてしまった。


先生を支えようとしていた仲間でありながら、仲が良いとは言えなかった僕に何故構ってくるのか不思議に思っていた。


この人は「懐かしいから」とかそういった感情に流される人ではないと思っていたけれど、単にあのころを覚えている貴重な仲間だからだと思っていた。



「間違えないでください、僕は北条薫です」

「あ、あぁ」



少しの沈黙が痛い。


眼前に迫る土方さんはこっちが恥ずかしくなるほど、綺麗な顔立ちをしている。

わずかに青みかかっている瞳は真っ直ぐに意思の強さを感じさせる、それなのに、どこかほの暗い。


こんな瞳をするぐらいならすべて忘れてしまえばよかったのに、ホント馬鹿な人だ。

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