第14話 手合わせ
白くて痘痕の後すら見えない滑らかな陶器のような頬には嫉妬すら覚える。
こんなにこの人の顔をマジマジと見たことはこれまでにない、そして酷く気まずい。
隣に立っていたから真正面から見ることなんて、そうなかった。
あんなに喧嘩はしたけど、あのころはこの造形を見ようとは思ってなかった。
まあ僕と土方さんがソウイウ関係になる漫画や小説は数あっても現実はただの同僚だ。
逸話にされがちな京の市中を並んで歩くなんて、ただの警邏だろう。
なんなら一くんの方が僕とならんで歩いていることが多かったぐらいだ。
「おーい、お二人さーん」
「え、」
「内藤さん、もう、大丈夫ですよ」
「そうか」
町村先輩の声でようやく土方さんの腕の内から脱することができた。
少し惜しいと思うのはこの人の顔のせいか。
ちょっと寒いせいか。
土方さんは折角今回もいい顔なのに、また間抜け面を晒している。
私の心音が常時よりも早いのは突然の行動に驚かされたせいだろう。
土方さんの腕から抜け出ると少し風が冷たい。
汗で熱いと思っていた身体はとっくに冷えている。土方さんではないがこれ以上身体を冷やすべきではなさそうだ。
軽く埃を払って立ち上がる。
こういうときはさっさと帰るに限る。
「待て」
「なんです?」
「仕度ができたら声を掛けろ、送っていく」
「何の気まぐれです?一人で家にぐらい帰れます」
「うるせぇ、大人しくしたがっとけ」
「はいはい、ちゃーんと待っててくださいね」
臭い防具は土方さんに持ってもらおう。
とてもちっちゃくて凄く下らない決意を固めた。
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