第11話 手合わせ

僕の言葉に激昂して単純になった土方さんから難なく二本を取った。


凶悪な顔をした土方さんが私と連戦しようとしていたが、町村さん含む他の大学生に阻まれて、悔しそうにしている。


あの人はまだまだ今のルールに順応しきれていない。

真剣を持ったつもりで打ち合っているから試合では機会を逃しているって監督に注意されるのだろう。


その土方さんとの試合の様子を見ていた他の大学生からも練習試合を申し込まれた。

女子高生と侮られることがないことからも、ここの剣道部が強いのがわかる。


楽しくて、小手の向こうにある竹刀が軽い。


普段の高校の部活よりもずっと楽しい。

でも楽しくても、土方さんと試合したときのようなところまでたどり着くことはない。

そのまま順当に稽古を終えた。



「「有難うございました!」」



礼を述べているだけなのに、道場の高い天井に反響する声は弾んで聞こえる。

そんなのは単に私が楽しいと思っているからだとわかっていてもそう聞こえる。


毎日、高校の部活で、似たような場所の板を踏んでいるはずだが、今の足裏にある冷たい木の板の感触は懐かしい気がした。


間違えないように、「北条」と書かれたネームを眺めて自分の名前を念じる。

うっかり内藤隼人を忘れかけているあの人に引きずられないように注意しないと。


反面教師で、防具外しても向かってきそうな土方さんを見ると、そんな土方さんを一生懸命に取り押さえる町村さんと目が合った。


口パクで大変ですねと伝えると、ウィンクで返事をくれた。


大学生って、みんなこうキザなものなのだろうか。

まだ高校生の私にはわからないことだらけだ。



「あっしたー《ありがとうございました》」



他の部員と一緒に稽古場にお礼を言って、先に稽古場を後にすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る