第9話 手合わせ
何か間違って昔馴染みと出会ってしまった次の土曜日、袴を履いた町村さんに私は案内されていた。
土方さんと手合わせするのに、大学の剣道場を使うことになった。
ついでに、他の人とも稽古して帰れる。
大学は自由で、外部の私が自由に入って稽古してもなんにも問題がないらしい。
「いやぁ、内藤も人が悪いよな。早く教えてくれたら良かったのに。薫ちゃん、名前を調べて驚いたよ」
会うなり、気安い感じで話しかけてくる町村さんを見て、ゆるく笑顔になった。
はじめに会ったときにも、思ったが、かなり人懐っこい青年だ。
自分よりも年上の人間を青年とか称してしまうのは、あの人と出会ってから、以前よりも色濃くなってきているあの男の記憶が原因に違いない。
「ありがとうございます、でも、おだてても何も出ませんよ」
「お世辞じゃないって。ジュニアの大会から、負け知らずの剣豪、北条薫って聞いてたからてっきりもっと、ごっつい女かと思ってた」
「十分だと思いますけどね」
最もどちらかと言うと、スポーツとして昇華された剣道と昔の自分がやっていた剣術は似ても似つかないが、基礎の足さばきや心持は変わらない。
それならやはり経験の差が出てくるだろう。
それに加えて、今の人が経験するはずのないことも手が覚えているんだから、むしろそれは当然だと思う。
どんな人と手合わせしても満ちることを覚えないこの剣への気持ちをずっと未消化のままに持ち合わせてきた。
「楽しみにしてますよ、強いとお話を伺っていた剣道部」
「期待に応えられると思うぜ」
どっかのドラマにいる悪役みたいな笑顔で町村さんは道場の戸を開いた。
「ようこそ、俺たちの大学剣道部へ」
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