第7話 小石の行く先
この人は撃たれて死んだ。
それは今生になってから見た歴史の教科書で知っていた。
でも、事実と現実は別だ。
はっきりと本人の口から聞くとやはり僕らのアレには未来がなかったのだな、と思い知らされる。
それにしても、自分が死んだことをずっと覚えていながら生きているとはどんだけタフなんだ。
私なら絶対耐えられない、嫌だ。
「死ぬところまで覚えているんですか?」
「お前は覚えていねぇのか?」
僕は殆ど覚えていない。
最期の辺りをぼんやりと思い返す。
ただただ先生のことが心配で、それでも動くことのできない僕は何も出来ず。
気の良いおばあさんと庭に遊びに来る猫どもを眺めていた気がする。
きっと僕にとって、どうでもよいことだったのだろう。
夢でも、あまり多くを見ない部分だ。
それとも、本人が覚えていたくないと願った部分なのだろうか。
それは私にはわからない。
「近藤さんが、一度、見舞いに来てくれましたね。貴方も一度来たことがありましたっけ?その程度です」
「そうか」
2人が沈黙しても通りの人のざわめきがその隙間を埋める。
ちらちらと僕ら二人を眺めながらも寄って来ない女性たちの姿に違和感を覚えていたが、今の自分は女子高生の北条薫だと思い出して合点がいった。
現在は大学生の土方さんと、女子高生の私が同じ席に座っているのは好い雰囲気に見えるのだろう。
まあ、ここにあるのは重い空気なので、傍から見れば別れ際のカップルだろうか。
私は理由がわかったのもあって、勝手に納得して面白くなっていたが、土方さんが何かを言おうとして言葉を練っているときの癖が出ている。
眉間に皺を寄せて、目を細めながら僕じゃない何かを見ている。
あんたは目で物を言い過ぎとか、鬼なのに表情豊かですね、なんてからかった覚えがなくもない。
私は、偶然過ぎる偶然で出会えた旧知の人を苛める嗜虐思考は別段持っていない。
長年、といっても今生ではさっきあったばっかりだが、長年の付き合いでわかる読みで口を軽くさせてあげることにした。
手持ち無沙汰に、氷だけのグラスを握ってみた。
「近藤さん、僕より先に亡くなっていたんですね」
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