第6話 小石の行く先
少し話をしようと、入ったファーストフード店ではランチの時間も過ぎていて、ゆっくりとした時間が流れていた。
カウンター上のメニューを見たら、また新メニューのお知らせだ。なんとこの店では、また新商品を出すらしい。
これだけ頻繁に新商品を出していたら、さぞ商品企画は忙しいだろう。
グラスの氷の崩れる音で、目の前の男の存在を思い出した。
珈琲を物憂げに見つめる彫刻は、通りすがりの女性の視線を集めている。
「それで、僕に何のようです?」
「お前は、沖田総司なんだな?」
「今は北条薫ですよ、土方さん。公に電波認定されたくないので、声は小さめにお願いします」
「あぁ。今の俺は内藤隼人だ、本当に総司なのか」
よく知っている人間から名前を聞き直すなんてまた奇妙な経験だ。
それにしても、生まれ変わって尚、わざわざ内藤隼人と名付けられるなんて面白い人だ。
まさか偽名が、転生して本名になるなんて思ってもみなかっただろうに。
嘘じゃないと証明するように渡された免許証から睨みつけられた。
綺麗な顔なんだから、こんなにカメラをガンくれなくても良いのに。
これはこれで喜びそうな人たちが居そうだけど。
北条薫と書いてある学生証と、内藤隼人の運転免許証を交換する。
「つまり、親御さんは新選組の信者だったんです?」
「あぁ、母親がな。大河ドラマの土方歳三に惚れたらしい」
苦々し気に笑うなんてこの人はまた器用なことを覚えている。
また無駄に苦労な生活をしているに違いない。
僕は声を出さずにニヤニヤと笑っていたが、不意に土方さんは僕に討ち入り前のような真剣な顔を向けてきた。
慌てて顔を繕ったが間に合ってはいなかったらしい。
深いため息をつかれた。
それでも認めたら負けの境地に達したのか、彼はそれについては何も問わずに本題に入った。
「お前はどれだけ覚えてる?」
「僕は、そうですね、新選組のことならだいたいは。土方さんはどうなんです?」
「俺は、撃たれるまで覚えている」
ポツリと呟いた彼の言葉からは、言葉の長さの割り合わないほど疲労が伺えた。
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