第5話 小石の行く先
口の端がピクピクしはじめた。
あの人が怒るときは大抵これを目安にしていた。もちろん、この様子が見えだしたら、子どもたちと一緒にあの人に背を向けて走り出していたものだ。
ほーら、そろそろ怒るぞ!
「馬鹿言ってんじゃねぇ!誰が」
「薫」
予想通りに怒り始めて、昔の呼び名が続きそうだった土方さんの言葉を遮った。
確かに、既に変人で通っているけれども、電波認定までは受けたくない。
流石にこんな往来で昔の名前を呼ばれたら困る。
頭悪くないのだから、少しは頭を使ってくれよ。
興奮している様子の彼に幾ばくかの苦笑いを禁じ得ない。
したり顔とよく言われた口角を無理に上げた笑顔で、土方さんのお友だちと調子を合わせた。
「先手打って自分の名前言っておかないと、この人、名前を間違えちゃうんですよねー」
「おっと、君よく分かってるね、その様子だと幼馴染かなんかか?」
「んー…、悪友です」
満面の笑みで笑いかけると、青筋浮かべて黙ったイイ顔の男が見えた。
我慢強く、ついでに策中はどんな罵倒をされても涼しい顔をするくせに、なぜか昔馴染みには短気だ。
まあ、昔から喧嘩早くて刀を振り回していたことを考えたら、元は短気なんだろう。
土方さんの革靴に当たってはね返った小石を拾って、目の前で投げてみせる。
青みがかった普通の小石が光を反射して、まるでなにか意味あるもののように私の手元に戻る。
「相変わらず、俺を怒らせるのが上手いじゃねえか」
「嫌ですねえ、そんな褒められたら照れちゃいますよ」
「誰も褒めてねえよ」
今と昔をわからせておかないとうっかり電波な名前で呼ばれかねない。
くすくすとクラスの女の子を見本に笑うと、露骨に嫌な顔を見せてくれた。
元々十分、怒った顔はしていたが、不快感まで上乗せだ。
「うぜえ」
「そんなこと言って!隼人とこんなに仲良しな子、初めて見たよ!」
「隼人はすぐ手を出すから友だちに留まれないんだよねえ。ほーんと、もったいない」
「「ねー」」
唐突に現れた私と話をすぐに合わせてきた社交的なお友だちとひとしきり揶揄っておいた。
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