第4話 小石の行く先
いつもより高い位置にいる太陽を眺めながら、駅まで歩く。
珍しく用事が早く終わったこの日に、電車がいつ来るかなんて知らない。
スマホのアプリで調べればわかることだが、家に帰って公園で遊ぶだけの予定に、わざわざ焦る必要もない。
何気なく、本当に特に意味もなく、軽く足元の小石を道先に転がした。
緩やかに勾配がある坂道を小気味の好い音を立てて小石が転がっていって、転がっていって
_____黒い革靴で小石が跳ねた。
知らないふりをできるかと思って前後を見るが生憎、今のこの道には自分しかいない。
知らぬ存ぜぬは効かない状況に、サッサと白旗を挙げた。
無視をして拗らせるよりもすぐに謝った方が心象が良いだろう。
「すみません」
ガラの悪い人だったら面倒だな。
そう思いながら黒い革靴の足元から順に目線を上げていくと、どこか見覚えのある青年がそこにいた。
「あ」
「おまえっ」
青年の近くまで距離を詰めた。目の前にいる既知の男をしげしげと眺める。
そういえば、見てみたらあの人はこんな顔だった気がする。
それにしても時代が変わっても役者顔とか、この人、無駄に凄いなぁ。
それに目玉が零れ落ちんばかりに驚いている彼の様子から察するに、どうやら私が”僕”だったころを覚えて生きている。
なんて人だ。
前から「馬鹿だ馬鹿だ」と思ってはいたけれども、想定の範囲を通り越して馬鹿過ぎる。
呆然としている様子、つまり間抜け顔だ。
無駄に顔の良い間抜け顔の馴染を見つけて、無性に面白くなってきた。
遠慮なく笑うと、まるで僕が悪いことをしたかのように目の前の既知の男は目尻を吊り上げ始めた。
「てめぇ、なに笑って」
「内藤、お前のコレ?」
小指を上げて土方さんと一緒に居た友達が囃し立てた。
今も昔もこの人は女遊びが激しいみたいだ。
あれだけ女の人で、痛い目にあったのにまだ学習していないのかと思うとさらに笑える。
ゲタゲタ笑ってやると、予想通りに目尻を吊り上げるからより面白い。だから僕にからかわれるのだと、いい加減気付いたら良いのに。
まあ、わかったらこの人じゃない。
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