第3話 小石の行く先
生徒たちが待望していたチャイムがゆっくりと鳴りはじめた。
高校の終業チャイムは、これからの予定がみっちりと詰まっている生徒たちの気持ちは無視して、のんびりとその時刻を告げていた。
当然だが、チャイムが空気を読んでくれることはなく、そしていつものように先生も空気を読まずにのんびりと授業は終了した。
「起立、礼」
学級委員長の几帳面な声がそれを言うと、忙しく動き出した同級生とは異なり、私の今日の予定はこれで終わりだった。
今日の午後は、道場で自主稽古か、公園で近所の子供たちと遊ぶこと。
まあ、これと言って絶対の予定はない。
そんなぽやぽやしていたから気を使って貰ったらしく、声をかけられた。
「北条さんも、これからカラオケ行かない?」
「んー、予定があって、ごめんね」
「えー?何、男と?」
彼女たちの言う男は彼氏という意味だろうけど、私にはあいにく彼氏はいない。知っていて言うのはご挨拶だ。
まあ、今日の公園は、天気が良いから女の子も来ると思うけれど、やっぱり人数的には男の子の方が多いかなあ。
予定②の道場に行くとしても、うちの部員の内訳からするとどうしても男が多い。
「あー、うん、男の方が多い」
「なにそれ?」
答えてあげたのに、彼女たちは私を馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
男とデート、遊んだりするのが価値基準となっている彼女たちからしたら私のカーストは最下位。
対象年齢外の子どもたちと遊んでいるのも、道場で剣を打ち合っているのも、彼女たちのいう充実した毎日にはならない。
嘲笑の色を隠さないまま不自然に白い肌と紅い頬の彼女たちは数人の男子生徒と連れ立って、教室を出ていった。
女の子って面倒くさい。
そう思ってしまうのは、彼女らと自分は違うと念じ続けている私のただの傲慢だろうか。
教科書をまとめた委員長が目だけで大変だねと伝えてきたのを会釈で返した。
傲慢じゃなさそうでなによりだった。
とりあえず、味方1人ゲット。
のろのろと荷物をまとめ終わったころ、彼女らが出ていった戸がまた開いて、今度は厳つい男が顔をのぞかせた。
部活の先輩、大曲先輩だ。
剣道部の部長に相応しく、がたいも声も大きい。
私に用があるに違いないのに、彼は私を視線の先に捉える前から教室に響く大きな声で話し始めた。
「おい、北条、今日は先生が道場使うなって。教職員会議があるから」
「はーい、わかりました」
「おう、じゃあな」
剣道部の部長は言うべきことは言ったという雰囲気で、教室をあわただしく出ていった。
道場に行けばわかることをわざわざ教室まで来て教えてくれるあたり、面倒見の良いあの先輩らしい。道場の自主稽古もダメなら、もう一つの予定通りにしよう。
とりあえず、私も家に帰るか。
それから公園に行こう。
足元が涼しい女子生徒用のスカートに違和感を覚えるのは、昔のように竹刀と防具を持っているせいかもしれない。
肩に乗せた竹刀はとても軽い。
纏わりつく湿気を気にせずに、スキップして飛び跳ねたいぐらい気分が良かった。
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