第2話 梅の花
小さな箱庭で舞う梅は僕らのことを現しているよう、そう思うのは梅を見る度に下手くそな句を詠んだあの人の影響か。
それとも、教養はあった方が良いと教えてくれた山南さんの影響か。
少しは身体が軽い、穏やかな陽が差す縁側に立つと梅の濃い香りがむっと迫る。
あぁ、この感性があるのは、親のように接してくれた先生のおかげかもしれない。
「動かねば闇にへだつや花と水」
僕までも句を詠み始めるなんて、末期だ。
これで、明日にころっと死んだ日には辞世の句と言われるかもしれない。
もっとも、僕なんかが詠んだ句を大事にしてくれるのは、姉のミツと先生ぐらいだろうけど。
まあ、いい、病気も末期なんだろう。
みんなが何れ良くなると教えてくれるが、そうならないことは自分自身が1番よく知っている。
梅の花弁に座られた僕の
先生のもとで、僕が役に立つことはもうできない。
本当は誰かの剣で僕が死ぬまで、先生の夢のために刀を振るいたかった。
僕を大切にしてくれる先生の傍に居たかった。
そして、僕が、先生が望む大輪の華を咲かせる手伝いをしたかった。
ただ、もう叶わない願望だ。
この痩せた手で先生の道を切り開けるほど、刀は甘くない。
もし、先生とあの人に、もうあり得ないが、仮にいつか会うことがあれば、嫌味を言わずに素直にあの人に感謝を言えるだろうか。
「少しはご飯をお食べにならないと」
「婆さん」
「どうかしましたか?」
僕がほほ笑みかけると、皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃにして彼女も微笑んだ。
お婆さんは、自分に向けられたものでもないものにも気が付いて、それでもきっと、受け取ってくれる。
「いつも、ありがとう」
「どういたしまして、さあ、身体が冷えるといけませんよ」
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