一章 契約のはじまり①
表の方から、人の声がする。
琴をつま
(
鈴子は東の対で暮らしているが、
鈴子は、小国の国司だった父と
妻を亡くしていた叔父は鈴子が心配になるほどのお
(叔父様は、大喜びで私を迎えてくださった。なかなか
十二歳のときの裳着だって、鈴子の方が申し訳なくなるくらい立派に
(お屋敷を守るだけじゃなくて、もっと色々な形で叔父様に恩返しをしたいけど……)
祖母のお下がりとしてもらった物語には、簀子縁で琴を弾けば
なるほどと思って
おそらく貴公子たちにとって、鈴子は結婚相手としては
(年を取れば取るほど、結婚は難しくなってしまう。そうすれば、叔父様に恩返しするどころか、お荷物になってしまう……)
ぎゅっと、
別に、結婚に
(……それにしても、お客様はまだお帰りにならないのかしら)
立ち上がり、少しだけ御簾を持ち上げて外を
「姫様、きりですー。そちらにいらっしゃいますか」
「ええ。何かあったの?」
聞き慣れた少女の声がしたので御簾を持ち上げると、
母屋に
「そうなんです。
「叔父様が? 今はお客様の対応中でしょう」
鈴子が言うと、きりは庭の方を手で示した。
「そうなんですけどね、お客様は姫様にご用があるそうなのですー」
「私に?」
「はい。よく分からないんですけど、姫様をお
「そうなの。……えっ?」
(私をお嫁さんに……? つまり、
急に立ち上がったために
「ちょっと、それって一大事じゃないの! すぐに行くわ!」
「あ、だめですよ。
室内だから身軽な単しか着ていなかったので、きりが止めてきた。そして彼女は
小袿は表が白、裏が青の、
きりを
(ひい、ふう、みい……
「なんかすごい人」ときりは言っていたが、これだけの遣いを
(もしかすると……これって、すごい機会よね!?)
「おお、よく来てくれた、鈴子!」
寝殿の母屋を
「きりから話は聞いたか?」
「はい、私に
受け取った文には、
「……これは、どちら様からですか」
冷静に問うたつもりだが、少しだけ声が
(もし相手の方が独身でいらっしゃるなら、正妻に迎えていただけるかもしれない……!)
期待で胸を
「それがな……鈴子よ、落ち着いて聞いてくれ。おまえを妻にと望むのは、
叔父の言葉に、鈴子は目を
(頭中将ってまさか……あの、「
世間に
頭中将──
身分も見目も素晴らしい貴公子で、しかも独身。世の姫君たちにとって素晴らしい
というのも──
「……頭中将は、類を見ないほどの
【画像】
「ああ。……職務には忠実で非常に有能だが、無表情で敵を
叔父の言葉に、鈴子は
きりの話では、「貴族の
帝の側近なのだから実際はそんな悪人ではなく、勝手な噂が一人歩きしている状態なのだろうが、恐るべき怪力を持つ男だというのは確かだ。
(そんな人が、私に求婚!?)
恐ろしいやら混乱するやらで、手が
鈴子を見てどう思ったのか、叔父は
「鈴子の気持ちもよく分かる。……私の力では頭中将──そして左大臣に異議を申し立てることは難しい。だが、
「叔父様……」
「案ずるな、鈴子。私に任せなさい。なに、いくら
叔父は明るく言うが、無理をしているのが丸わかりだ。
鈴子を心配させまいと明るく振る舞う叔父の姿に、鈴子は胃の辺りがずんと重くなった。
(叔父様はこうおっしゃってくださるけれど……相手は左大臣家。下手をすれば、叔父様が
叔父は人がいいので、これといった政敵がいない反面、強力な味方もいない。だから左大臣家の
左大臣からの結婚の
──真っ暗な未来を想像し、鈴子は
(ううん、そんなことにはさせない。私が、叔父様を守らなきゃ。私が
「……いえ、中将殿にお会いします」
「鈴子……」
「
鈴子の言い分ももっともだと思ったのか、叔父は
鈴子は
「すぐに、お返事をしたためます。叔父様はその間、文使いの方をもてなしていてくださいませんか」
叔父はようやっと
「……このような決意をさせてしまって、すまない、鈴子」
鈴子はうちひしがれた様子の叔父を見ると、やや
「大丈夫ですよ。私、橘家の娘として、きちんと中将殿とお話をしますから」
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