平安仮そめ恋契り 鬼の中将と琴音の姫
藤咲実佳/角川ビーンズ文庫
序章 誘うしらべ
今日は本当に、最悪の一日だった。
日の
今日のために
考えながら歩くと、ろくなことにならない。
それは、
だが、
門は、開いている。足を
少女は、男の気配を感じたようで琴を弾くのをやめ、顔を上げた。夕暮れ時の風を受けて
おそらく、世の人間の大半はこの少女を美人とは呼ばないだろう。だが男にとって、たおやかなだけではなさそうな意志の強い
「どちら様ですか。
少女は近くに置いていた
「いきなり押しかけて申し訳ない。落ち込んだ心を解きほぐすような優美な琴の音色を耳にし、つい立ち寄ってしまった。
「まあ……お
少女はそう言い、扇をずらした
「私の母もよく、仕事で
「そんなことはない。では、もう少し近くで聴いてもいいだろうか」
「は、はい。どうぞ、こちらへ」
男の申し出に、少女は少し
男は一言断ってそこに座り、少女は再び琴を弾き始めた。男のためなのか今度は民謡ではなく、宮中で愛されている
……その温かい音色を聴いていると心が落ち着き、いつの間にか男は、ぽつぽつと心の内を
「……俺は少々
「難しいことをおっしゃるのですね。でも、本当のあなたを知って
琴を弾きながら、少女は言う。男が
「あなたは、自信を持てばよろしいと思います。いつかきっと、本当のあなたを見てくれる人が現れるでしょう。その人はきっと、ずっとあなたに寄り
「……そうなのか?」
「多分」
「……そうか。多分、か」
男がくくっと笑うと、少女は微笑んだ。その微笑みに、またしても男は胸の奥がうずくのを感じたのだった。
男は、今出てきた邸宅を
「……本当の俺を見てくれる人、か」
その足取りは少し前と
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